一方そのころ……。
悪臭、魔の気配、それらが立ち込める醜悪な空気。人間にとって毒の空気。
周囲に蠢くのは人の形を創ろうとし失敗したナレノハテたち。
人の姿を取ることも出来ず、リビングゴーレムになることも出来なかった憐れな肉塊。
時折聞こえるうめき声は彼らの鳴き声だ。
その声を聞きながら、私は正面を見る。
「ククククッ、クヒヒヒヒヒヒッ!! もっと、もっとだぁ! もっと怨みを、憎しみを……あの方の力となるように!!」
正面では醜く肥え太り、ボサボサとなった汚らしく汚れた金髪を振り乱しつつ彼が叫んでいた。
その彼の前には、黒く歪な神像……かつてこの里を護っていた神の像が置かれていた物を倒して変わりに置かれた彼の信じる神。
それが原因で……いや、それの声を感じてしまったからか彼は狂った。狂わされてしまった。
かつて清浄な空気を放ち、清々しい木々で溢れていたこの里を狂った彼は壊した。
仲間たちは必死に逃げ、殺され、捕まり、事前に手引きした奴隷商に売り払われて行き……この里は彼と肉塊が住む魔の領域と化した。
それを思い返していると神像へと黒い瘴気が吸い込まれていくのが見えた。
里の仲間たち、それに彼らの胎から産まれた子供たちが叫ぶ悲鳴。怨み、憎しみ、絶望、それらが瘴気となり神像へと宿っていく。
神像はこの仮初の肉体へと受肉されるのを待っているのだ。
受肉してしまえば、この世界は自身のものとなると分かっているのだから……。
だからそれは負の感情を集めていくのだ……。
「――っ!!」
「おい、何時までボーッと立っている? それとも、俺のモノがまだ足りなかったのかぁ? こっちは何時でも歓迎だぞ?」
ニヤニヤと、かつての彼がすることがなかった醜悪な笑みを浮かべながら、私の胸へと手を当ててモニモニと揉み始める。
気持ち悪い。触るな。そう心から思いつつも、動けることが出来ない私は黙ってそれを受け入れる。
正直ここ毎日捌け口にされているのも嫌だったが、彼の命令を逆らうことなんて出来なかった。だから、黙ってそれを受け入れる。
そんな私を見ていると、彼はチッと舌を打ちながら胸から手を放した。
「はぁ、くそ……っ! やっぱり人形だと面白くはないか。折角ずっと見つからなかった個体が帰ってきたからどんな反応するのか気になったっていうのに、うんともすんとも鳴かないからな。……まあいい、代わりは何体もいるし……そっちで楽しむか。いや、新しく創ってそれで楽しむか……」
ぶつぶつとひとり言を言いながら彼はこの場から去って行った。
すると、私の体へと自由が戻り、ようやく動けるようになったのを感じた。
直後、嫌悪感に耐え切れずに私は隅のほうで吐く。
「……本当によく出来てるわよね……」
ぽつり、と呟きつつ私は打ち捨てられたかつての里の神像を見る。
瘴気によって木は腐り、苔が生えているのも見えた。
そのすぐ側には骸骨が落ちているのが見えたが、何の感情もわかない。
そんな中、不意に瘴気に苦しみながらも風の精霊が声を上げているのが聞こえた。
ここではよく聞き取れない、そう考えながらナレノハテの合間を歩きながらこの領域の外へと向かって歩いていく。
ナレノハテは私を見るけれど、襲うこと無くただノシノシと歩いていった。
――クルヨ、クルヨ。
領域の外へと出ると風の精霊の声がよく聞こえ始め、精霊たちが言っていることが聞こえた。
クル……来る、彼らに言い聞かせておいたもの、それは彼かあの子が近付いて来たら知らせるように言っていたこと。
私の心がざわめく。彼とあの子が共に来る。
来てはダメ。そう思う心と、来て欲しい。そう思う心がせめぎ合う。
同時に私は気づく、彼らの目的地はここであるということに。
「…………せめて、ひと目で良いから会いたい」
知らず知らずにポツリと私は呟く。
そして気が付くと、私は歩き出していた。
きっとあそこに彼は来ると信じて……。
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