まとめ44 故郷・3
フィンが主人である君の指示を聞き、マジックと共にサンズの元へと向かうと再度巨大岩トカゲへと攻撃を仕掛けようとするサンズの邪魔をするように上空から急降下するワイバーンの攻撃を避けているところだった。
「ああもう、ほんっとうにやりづらい!!」
「サンズ、応援に来ました!」
「フィン、マジック! 助かった!! ボクはこの岩トカゲとやるから、ソラのワイバーンをお願いできるかな!?」
「わかりました!」
「クククッ、任せるがよい。さあ、貴様に魔法を見せてやろうではないかっ!!」
サンズの言葉にフィンとマジックは返事を返し、空を見上げる。
するとワイバーンはエサが増えたからか、それとも自分を邪魔する存在が増えたということを理解したからか、上空で羽ばたきながら地上を見下ろす。
『GISYAAAAAA!!』
そしてそんな彼女たちを怯ませようとするのか、ワイバーンは吼えた。
だが、覚悟を持ってきた少女たちに意味はなかった。
「まずはわたしから行きます!」
フィンがそう言いながら、弓を構え何もない弦を引く。
すると彼女の魔力が矢へと形を変え、弓へと番えられる。
そして手が弦から放された直後、魔力の矢が上空のワイバーン目掛けて放たれた!
『GURURURURURU!?』
放たれた魔力の矢にワイバーンが驚く。
ワイバーンの持つ知能では弓から放たれた矢はある程度の高さまで到達すると弧を描くように地上へと落ちる。
そう覚えていたのだろう。だから地上に落ちること無く迫り来る矢に驚きの声を上げたのだ。
しかし、そこは亜種であったとしてもドラゴンの血を一応は宿しているワイバーンのようだ。
迫り来る矢が魔力であることを見抜いたのかワイバーンは翼に魔力を宿し羽ばたきを起こした。
瞬間、迫ろうとしていた魔力の矢は歪み、空中で霧散した。
「魔力干渉されたようだな。ククッ、さすが腐っても竜に属するモンスターだ」
「そうですね。でしたら今度は……」
そう言いフィンは再び弓を引く。
だが、弓を引こうとする直前にマジックが手を前に出して、フィンの行動を制止する。
「まあ待て、貴様が行ったのだから今度は我輩に任せて貰おうか」
「わかりました。ですが、どうするのですか? 魔法も干渉して当てないようにするんですよ?」
構えた弓を下ろし、フィンがマジックへと尋ねる。
けれどその瞳はどうにもならないから聞く、というものではなく……今度同じことが起きた場合、対処する方法を知りたい。というものだった。
その瞳に気づいたマジックは面白そうに笑った。
「クククッ、知りたいという感情。我輩は嫌いではないぞ。では教えてやろう、見てるがよい」
マジックはそう言いながら、杖を構えた。
すると彼女を中心に魔法陣が展開し始めた。
「我輩が持つ方法でワイバーンをどうにかする方法は幾つかある。風の刃で翼を斬りおとす、重さに干渉して地面まで叩き落す。だが、魔力を使いすぎない方法だとこれが一番だ――ストーンショット!」
魔法陣から拳大の石ころを呼び出すと、彼女はそれを上空を見据えながら撃ち出した。
だがそれはどのような方法を取ったのかは解らないが、ジュンッ!と空気を振るわせながら放たれた。
いったい何が起きたのか、それが解らなかった瞬間――上空から雄叫びが聞こえた。
『GISYAAAAA!?』
「えっ!? あ、翼に穴が空いている……? あの石ころでいったい何をしたのですか?」
「なに、あの石の下の方に爆発を起こしただけだ。つまりは通常の速度で撃ち出す石の砲弾を爆発によって速度を上げたというわけだ」
「そんな方法が……あっ!!」
『SYAAAAAAA!!』
マジックに説明を聞き、素直に頷くフィンだったけれど迫り来る巨大岩トカゲに驚きの声を上げる。
驚きながら、フィンはマジックの腕を引きその場から離れた。
「うわっと!? ごめん、2人とも。大丈夫だった!?」
「あ、危ないだろうサンズッ!! ちゃんと周りを見て戦え!!」
飛び跳ねながら謝るサンズへと、危険だったからと驚き怒るマジック。
そんな彼女の怒鳴り声を無視しながら、サンズは巨大岩トカゲの振り回し始めた尻尾へと剣を振り下ろす。
『SYASYAAAAAAAA!?』
サンズの剣は巨大岩トカゲの尻尾へと簡単に吸い込まれ、痛みに吼え始めた。
更にジタバタと暴れ始め、サンズの体も揺れ始める。
「う、うわっと!? ああもう、暴れるなっ!!」
『GIIIIIYYYY!!』
『GIIISYAAAAA!!』
「うわっ!! ちょ、ワイバーンのほうをお願いーー!!」
ジタバタする巨大岩トカゲを助けるべく、ワイバーンが降りてきた。
狙いはサンズであり、彼女の体を掴んで上空へと持ち上げて地上へと叩き落そうとしているのだろう。
それに気づいている彼女は剣を尻尾へと深く突き刺したまま、フィンとマジックへとお願いする。
「ハァ、仕方ない。ならばワイバーンの邪魔をしようではないか」
「わかりました!」
サンズの悲鳴を聞きながら、マジックが呆れながら杖を構える。
同時にフィンも弓を構え、弦を引く。
そして、マジックが無数の石の弾丸を地上から空に向けて撃ち出すと同時にフィンも魔力の矢を番えて矢を撃ち出した。
「えっと、更にこう……でしょうか」
呟きながら、彼女はもう一度弦を引く。
そして今度は火の魔力を込めた魔力の矢を撃ち出した。
赤い光を宿す矢は先ほど撃ち出した矢の尻目掛けて飛んでいく。
「…………今ッ!」
直後、フィンが叫んだ瞬間――赤い光を放つ矢が爆発を起こした。
そして矢の爆発により、初めに撃ち出した矢は少し速度が上がった……が、霧散していった。
「むぅ……うまく行きません」
「クククッ、そう簡単には行かないものなのだよ。新しい技というのはな」
『GISYAAAAAAA!?』
眉を寄せるフィンへとマジックは言う。
そんな彼女の背後では彼女が放った石の弾丸により、ワイバーンの翼に穴が開けられ地面へと落ちて行くのが見えていた。
地上へと落ちたワイバーンは巨大岩トカゲと激突し、ズシンと鈍い音を立てた。
「ちょ!? うわぁ!! ――で、っりゃああああああああ!!」
『GURYUGIYYYYYYYY!?!?!』
両者が衝突し、激しい衝撃が起こり……サンズの体が大きく揺れる。
だが、彼女はなんとか踏ん張った。
そして、踏ん張った体を大きく反らしながら戻した衝撃を使い、剣を動かした瞬間、丸太よりも太い巨大岩トカゲの尻尾は胴体と分かれて地面へと落ちた。
寸断された尻尾はその場でビタンビタンと跳ねる。
だがそんなことは知ったことではないとでも言うかの如く、サンズがその場から離れた。
無くなった尻尾の変わりに血を噴出しながら、巨大岩トカゲは暴れ周り……地面へと落ちたワイバーンを踏み潰す。
『GISYAAAAAA!! SYAAA!!』
踏み潰されるワイバーンは抗議するかのように声を上げ、巨大岩トカゲの前足に噛みつく。
その痛みに巨大岩トカゲは悲鳴を上げる。
「今だよ! フィン、マジック、よろしく!!」
「わかりました!」
「クククッ、任せろ!!」
仲違いを始める2頭を見ながら叫ぶサンズの声に従い、フィンとマジックは行動に移る。
マジックが複雑な魔法陣を展開し始めると同時に、フィンは弦を掴む。
4本の指で引かれた弦、その指と指の間へと3本の矢が現れる。
その矢を指の間で掴み、フィンは更に弦を引く。
マジックも魔法で生み出した数種類の槍を自身の前へと展開させていく。
そして巨大岩トカゲとワイバーンがフィンとマジックの魔力に気づいたときにはもう遅かった。
「行きます! ――トリプルアロー!!」
「行くぞ! ――クインティプルランス!!」
それぞれ技名を叫んだ瞬間、彼女たちはそれぞれの行動に移った。
フィンは引いていた弦を放した。その瞬間、彼女の張り詰められていた弓はビィンと音を立て――魔力の矢が3本同時に放たれた。
3本の矢はそれぞれ異なる属性を込められていた。
彼女の得意とする属性がだ。
紫の光を放ちながら、緑の光を放ちながら、青の光を放ちながら、3本の矢は巨大岩トカゲ、ワイバーンに向かっていく。
同時に隣ではマジックが展開していた槍が撃ち出された。
火の槍は赤々と燃え上がりながら一直線に突き進んでいく。
土の槍は地面を渡るように筍のように地面を突き進んでいく。
氷の槍は周囲に冷気を放ちながら突き進んでいく。
風の槍は他の槍よりも素早く突き進み、モンスターを狙うべく突き進んでいく。
闇の槍は漆黒の我が身を奴らに突き刺してみせようとでも言うかのように、何処となく偉そうに進んでいく。
そんな魔法の矢と槍が巨大岩トカゲとワイバーンへと放たれた。
『GISYSYSYAAAAAAAA!?』
『GURUAAAAAAAAAA!!』
「うわぁ……、よろしくって言ったけど、これは酷すぎるね……」
様々な属性が込められた攻撃にモンスターたちは苦悶の悲鳴を上げる。
その様子を見ながら、サンズは哀れむように呟く。
しばらくして、焦げたり凍ってたり血が垂れていたり皮膚が切れていたりするモンスターたちがピクピクと足を動かし、まともに動けない様子でそこに居た。
「ま、ボクらに敵対するのなら、倒すだけだし……別にいっか。ってことでじゃあねー」
そう言いながら、サンズがモンスターたちに近づく。
手に握り締めた剣が掲げられ、モンスターの命を狩るべく振り下ろされようとしていた。
だが……、
「――――っ!? う、うわっ!? な、なんだぁ!? ってこれ……!!」
背後から気配がし、彼女が避ける。
直後、瀕死のワイバーンと巨大岩トカゲへとブヨブヨした肉の塊が張り付いた。
それが何であるかに気づいたであろうサンズは何処か悲鳴染みた声を上げる。
フィンとマジックはそれが何であるのか分からないけれど、警戒を滲ませる。
そして彼女たちが見ている中で、ブヨブヨとした肉の塊は巨大岩トカゲとワイバーンの体へとその体を潜り込ませていった。
すると、ワイバーンと巨大岩トカゲの唸り声が上がり……その体がぶよぶよとした肉の塊に変わり始めて行くのを彼女たちは見たのだった。
「な、なんですか……これ」
目の前の光景に戸惑いながらもフィンが呟いたが、返事は誰からも帰って来なかった。
●
奴隷商人が投げ付けた肉の塊が奴隷商人と御者の男を喰らって形を作ったそれと君は対峙する。
人の形をした赤黒い肉の巨人。
目の前のそれを一言で言うとすれば、そう言わざるおえなかった。
初めて見るモンスター……なのかも分からないソレがどう動くのか分からず注意しつつ、君たちは距離を取る。
何をしてくるのかわからない。けれど、人間を食べてこんなふうに形を造ったのだから無害な存在ではないだろう。
「あるじ、どうする?」
君の隣で小太刀を構えるミルクが君へと尋ねてくる。
そうだ。相手の行動を見るのも大事だが、今は速く倒さなければいけない。
考え、君は魔法を放つことにした。
「ん。わかった。あたしも水玉を投げるね」
君の言葉に頷き、ミルクが片手に拳ほどの水玉を創り出す。
それを見ながら君も火の玉を創り出す。
コクリと頷き合い、君はミルクとともに火の玉と水玉を撃ち出した。
撃ち出された火と水の玉は突っ立っている肉の塊へとあっさりと命中した。
ジュッと肉の焦げる臭いにおいとドゴッと鈍い音が響き、肉の塊は命中した箇所が焦げていたり凹んでいたりしていた。
だが痛みを感じているようには見えず、君たちは警戒を強める。
瞬間、ぱかりと肉の塊の口だと思われる場所が開かれた。
『VVVAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』
金属と金属を擦り合わせたかのような雄叫びが発せられ、君とミルクは耳を塞いだ。
無意識の行動か、それとも体がそう動くように仕向けられたのかそれは分からないけれど2人は耳を両手で塞いだ。
その結果隙が生まれてしまい、肉の塊が2人に向けて突進してきた。
『AAAAAOOOOOーー!!』
まるで子供のように肉の塊はブンブンと両腕を振り回しながらドスンドスンと一直線に君たちへと襲いかかる。
君はそれに気づき、ミルクの体を掴むと地面を蹴りつけた。
直後、君たちが立っていた場所へと肉の塊は自身の体を倒れこませた。
このままだったら自分たちは潰されていただろう。
「あ、あるじ……ありがとう」
それに気づいているようで、ミルクは君に礼を言う。
その際、彼女の胸が君の胸板に接触しドクンドクンと心臓の高鳴りが聞こえた。
その高鳴りは恐怖から来たものなのか、それとも君に抱き締められているからなのかは分からない。
けれど、今はそれを考える時ではない。
君は気をつけて戦おうと言いながら、ミルクを放してそう告げる。
「ん、わかった。あるじ……次はどう行く?」
君の言葉に頷き、ミルクは指示を待つ。
そんな彼女へと君は物理攻撃を試すように言う。
ただし、接近した場合どうなるかはまだ分からないため、遠距離からの攻撃でと告げる。
「じゃあ、串を投げる?」
無くなるかも知れないけれど頼めるかと告げると、ミルクは頷いた。
「ん、これは元々あるじの物、だから無くしたとしても、あるじのために使われるなら本望」
ミルクは躊躇わなくそう言った。
そんな彼女に悪いと思いつつ、君は近くに落ちていた石を掴む。
「それじゃあ、行くね?」
ミルクが君へと言いながら、肉の塊に向けて串を構える。
同時に君も掴んだ石を構えた。
そして、どちらともなく肉の塊へと投げ付けた!
ゴスッ、と君の投げ付けた石は肉の塊の胴体へと命中したが……肉に弾かれるようにして地面へと転がっていった。
ブチュッ、とミルクの投げた串は肉の塊に突き刺さった。……だが、効果は薄いようだった。
「むぅ……効果が低い……」
それを悔しそうに見ながらミルクは呟く。
だが、すぐに肉の塊が先ほどと同じように腕を振り回しながらドスンドスンと近付いてきたため、顔を引き締めた。
「あるじ、来る!」
ミルクの声に君は頷き、剣を構える。今度は斬りつけた場合はどうなるかだ。
そう思いながら君が剣を抜いたのを見たからか、ミルクも小太刀を抜いた。
「あるじ、斬ってみる?」
彼女の言葉に頷きつつも、無茶はしないように告げる。
「ん、わかった」
君の言葉に彼女は頷き、迫り来る肉の塊を見据える。
君は比較的肉が少ないであろう腕を狙うように告げると、突き進んでくる肉の塊へと駆け出した。
ブンブンと振り回される肉の塊と君たちがすれ違うように駆け抜けた瞬間、君は剣を振るった。
ズンと肉の塊に剣が進み難くなったが、力づくで下ろした。
ミルクのほうも肉の塊の斬れ難さに驚いた様子だったけれど、刀身を肉の中に滑らせるように走らせた。
そして君たちが駆け抜けた瞬間、ボトンと肉の塊の腕が地面へと落ちていった。
地面に落ちた腕はその場でビタンビタンと跳ねていたが、突然動かなくなったと思ったら、煙を上げながら溶けていった。
「溶けていった……?」
溶けた腕を見ながら君とミルクは唖然と呟く。
この肉の塊は本当に何なのだろうか。
そんな疑問を抱き始めた瞬間、両腕を失った肉の塊からも煙が立ち始めた。
『AGIIIIIIIII!!』
突然悲鳴を上げ始めた肉の塊は徐々に体を小さくさせ始めた。
これは、動くのに制限時間があるのだろうか。
そんな疑問を君が抱いていると、先ほどの半分以下の身長になった肉の塊は唐突に駆け出し始めた。
いったい何処に行くのか、そう思いながら振り返ると……肉の塊はサンズたちの下へと駆けて行くのが見えた。
「……あるじ、行こう」
ミルクの言葉に頷き、君はフィンたちの元へと走り出した。
しばらく走っていくと、先に到達した肉の塊はフィンたちが戦っていたであろう瀕死の巨大な岩トカゲとワイバーンの体へと張り付いていた。
そして、張り付いた肉の塊はズブズブとそれらに沈みこみ……しばらくするとそれらは……。
「あるじ……、さっきのより危険だと思う……」
ひとつに混ざり合い、先程よりも巨大な肉の塊へと形作られていった。
それを見ながら、ミルクが顔を顰めながら呟く。
多分君も同じような表情をしているだろう。
そう思う中、君とミルクの元へとフィンたちが駆けて来るのが見えた。
投票で展開が変わる奴隷とご主人様の物語 まとめ 清水裕 @Yutaka_Shimizu
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