まとめ4 二日目・3

 君は街中を歩き、色んな屋台を見ていく。

 途中途中で欲しいと思った食材を買いつつ、知り合いを見ると軽く手を上げて挨拶を行う。

 それにしても色んな人種がいる街だと改めて君は思う。

 頭に三枚の葉っぱを生やした緑色の球体型の種族だったり、獣人だったり、普通の人だったり。

 そんな様々な人を見ながら、君は道を歩いている。

 すると、前のほうから怒鳴り声が響いた。


「ドロボー! 誰か、あいつを捕まえてくれーーーーっ!!」


 その直後には周囲を歩く人が「うわっ!?」とか「きゃ!?」という驚く声が聞こえた。

 どうやら何かが君の近くへと駆け抜けているようだった。


「どけどけっ! どかないと危ないぞっ!!」


 駆け抜けている者の声だろう、その声を聞いて道行く者たちは慌てたように退いていく。

 そして君の前に現れた店から商品を盗んだ人物、それはフィンよりも若い印象の少女だった。

 そして彼女は……。


  →犬の獣人(巨乳)だった。

   犬の獣人(貧乳)だった。

  →猫の獣人(巨乳)だった。

   猫の獣人(貧乳)だった。


 犬耳が生えていた。

 目の前にいる少女は犬の獣人だ。

 しかも、フィンよりも若い印象だというのに備わっている膨らみはデカイ。

 とある地方で食べられている肉饅頭よりもデカイたわわに実ったそれは、明らかな凶器だった。

 一瞬フィンの慎ましやかな膨らみが頭をよぎったが、すぐに消え去るほどだ。


「おい、どけよおっさん!」


 ぎらついた炎のように赤い瞳で少女は君を睨みつけながら、口汚く君に言う。

 おっさん、この少女にとっては君はそう呼ばれても可笑しくない年齢だ。

 だがそう言われて君は良い気分ではないだろう。


「どけってんだよ! 聞こえないのか!?」


 グルルと唸り声を上げながら、少女は君を睨み付ける。

 君はそんな少女へと落ち着くように言う。……が、逆効果だったようだ。


「うるせぇ! オレに指図すんじゃねぇ!! どかねぇってんなら――!!」


 苛立たしげに少女は大声で君に叫びながら、腰に引っ掛けていた棒切れを構える。

 どうやらやる気のようだ。君はそう理解し、やんちゃな可愛らしい子犬を見ながら小さく笑った。

 それが完全に癪に触ったようだ。


「くそーーーーっ! どうなってもしらねぇからな!! でりゃーーーーっ!!」


 叫び、少女は君の頭目掛けて大振りで棒切れを振るう。

 それを見ながら君は少し体をずらして回避すると、少女の足元に自らの足先を置く。


「う、うわっ!? うわわっ!! きゃんっ!!」


 すると少女は君の足に自らの足を引っ掛けて、立ち直れないまま石畳に倒れ込んだ。

 そして少女の盗んだ商品が周囲に散らばり、それが食料であることを君は理解する。

 君は少女を改めて見ると、焦げ茶色の髪はボサボサで……着ている服も汚れているのが見えた。

 ついでに下着も汚いのも見えたが、記憶から除外しよう。


「く……くそぉ……! っっ!!」


 そう思っていると、少女が起き上がった。

 だが自分を囲んでいる店の人間に気付き、体をビクリとさせる。


「今日という今日は逃がさんぞ。さあ、今まで盗んだ食べ物の代金を払ってもらおうか!」


 今まで何度も成功していたのだろう。けれど今日君が通りかかったのが運の尽きだったようだ。

 そんな中で、少女はなんとかこの場を逃げ出そうと考えている。


「ぅ……、お、おいっ、見てるなら助けろよ!!」


 突然少女が叫び出した。すると、君の耳にシャッと何かが放たれる音が届き、君は自分に向けられたそれを弾く。

 それは木製の串だった。いったい何処から?


「うわっ!?」

「ぐっ!?」

「くそ、何処から投げてやがる!!」


 店の人間たちの体に串が刺さり、彼らの悲鳴が聞こえる。

 その声を聞きながら、串の投げられた方向に視線を向けると……猫耳を生やした少女と目が合った。

 白い髪を短く切り揃えられている猫の獣人の少女だ。

 しかもそこにいる犬の獣人と同じくらいに大きい。何処とは言わないが。


『見られてる、びっくり』


 猫少女が動かす口は君にそう言ってるように見える。


「いまがチャンスだ! サンキューねこ!!」

「あ、おいこら待て!!」


 犬少女が混乱の隙をつき、地面に落ちた食料を幾つか拾うとその場から逃げるように駆け出す。

 それを追いかけようとする店の人間だったが、直後地面に投げ付けられた何かによって煙が起こり、周囲が白い煙に包まれる。

 そして煙が消えたときには2人の少女が居なくなっていた。


「ああくそ、またやられた!!」


 体に刺さった串を抜き、流れる血を止めつつ店の人間たちが悔しそうに地団駄を踏む。

 君はその内の一人に声をかけ、少女たちが何者なのかを尋ねる。


「ああ、あいつらはここ最近やって来た孤児らしいぜ」

「家族が居ないし、食べる物が無いからこの辺りの店で物を盗んでるんだよ」

「くそっ、居場所さえ分かれば捕まえに行ってやるのに!!」

「あれだけデカいんだ。食った分の支払いを体で済ませてやらなきゃ気がすまねぇ!!」


 苛立たしげに店の人間たちは君に言う。

 その言葉に君は納得する。だが、同時に生きるためには仕方のない行動でもあるだろうとも理解する。

 そして君なら逃げて行った2人の少女を追いかけることが出来るだろう。

 だが少女を追いかけて君はどうする?

 説得するのか、お仕置きするのか、彼らに渡すのか?

 君は……。


  →追いかけて、2人を説得する。

   追いかけて、2人をお仕置きする。

   追いかけて、2人を店側に渡す。

   自分には関係ない、と考えて無視をする。


 説得しよう。君はそう考えた。

 彼らの苛立つ声を聞いていると、このままではあの少女たちは取り返しの付かないことになるだろう。

 君はそう考えて、足早にその場から去ると少女たちが逃げた場所に検討をつけて移動した。

 そして君がしばらく移動すると、目的の場所へと辿り着いた。

 すると、君の耳に嬉しそうな声が届いた。


「へへっ、やったな。助かったぜねこ!」

「もんだいない。でも、今日はあぶなかった」

「ああ、あのおっさんいったい何もんだよ。オレたちを恐れなかったし、オレをおちょくってたしよぉ……」

「あの人、危険。あたしにも気づいてた」

「マ、マジかよ……。かくれるの得意って言ってたねこを見つけるなんて、信じられねー」

「まじのまじ、目と目があったから本当びっくり」


 そんな驚く少女たちの声を聞きながら、君は少しだけ辿り着いた廃墟へと近付く。

 そうすれば君の気配を猫少女が気づくだろう。


「――――っっ!!」

「どうしたんだねこ?」

「……すごい。あの人、きた」

「は? きたって……来たぁ!?」


 驚く声が廃墟から響く中、君は親しげな様子で軽く手を挙げながら廃墟へと入る。

 中に入ってきた君を犬少女はパクパクと口を開け閉めしながら驚き、猫少女は尻尾を逆立てながらも君と同じように手を挙げる。

 警戒心マックスな少女2人を見ながら、君は彼女たちの前へと進むと彼女たちと向き合うようにしてその場に座った。


「な、ど、おど!?」


 犬少女は混乱しているのか、良くわからないことを口走る。

 それを猫少女が翻訳をしたらしい。

 ふむふむ、頷き……少しして君のほうを向いて口を開けた。


「何でここがわかった。どうしてここにいる。オレたちをどうするつもりだ。って言ってる。どうするつもり?」


 こてん、と首を傾げながら猫少女が君を見る。

 君は猫少女の瞳をマジマジ見ると、透き通るような青い瞳だと思った。

 同時に自分という物を感じられないとも思う。


「なに?」


 どうして見ているのか、とでも言うように君に猫少女は首を傾げながら尋ねる。

 君は猫少女の瞳が綺麗な瞳だと言う。


「ありがと」


 と、淡々と返事を返した。

 その返事を聞いていると、犬少女がようやく落ち着いたようで……。


「なにがきれーな瞳だねだ! おっさん、何しに来たんだよ!?」


 グルルと唸り声を上げながら犬少女は君を睨み付けながら、猫少女の前に出る。

 その言葉を聞いて、君は本題である盗みをやめることを2人に言う。

 君の言葉に少女たちは目をパチクリさせたが、犬少女は嫌な物を見たかのように顔を歪め始めた。


「おっさん、てめぇオレらに死ねって言うのかよ?」


 自身の言葉を皮切りに、犬少女は苛立ちながら君へと怒鳴り始めた。


「オレたちは食べものを買う金がねぇんだよ。だからこうやって盗むしかねぇんだ! それをぜんにんぶってやめろ? はっ! 寝ごとは寝てから言えよ!!」


 そう言いながら君の目の前で犬少女は盗んだ腸詰めを齧る。

 クチャクチャと嫌味なのか音を立てながら齧る犬少女を見ていると、猫少女が君に言う。


「あたしたちには、親がいない。だから、どこもやとってくれないし……これもあるから、良いようにりようされる」


 そう言って猫少女はスカートを捲り上げて下腹部を曝け出した。

 その行為に犬少女は慌てた。


「ぶっ!? な、何してるんだねこ! これは見せたらだめだろっ!!」

「だいじょうぶ。この人は、悪いことはしないって思うから……たまにきこーにはしりそうだけど」


 何気に君に対して酷いことを言う猫少女から、君は視線を逸らそうとする。

 幼い少女だとしても、下着を見るのはいけないことだ。


「だいじょうぶ、見て。お腹のこれが何かわかると思うから」


 猫少女の言葉に君は謝罪してから、少女の捲り上げられたスカートの中を覗く。

 そして君は言葉を失った。

 当たり前だ、少女のお腹に刻まれているもの……それは性奴隷の刻印だった。

 小さなハートを中心に周囲に群がるように刻まれた蔦。

 それは主人が決まっていない未登録の性奴隷の証。


「あたしも犬も、これをむりやり付けられた。痛いっていうのにむりやりつけられた」


 犬少女もそのときのことを思い出しているのか、シュンと尻尾を下に垂らしているのが見える。

 そんな少女たちを見つつ、奴隷商人から逃げ出したのかと君は考える。

 だが、奴隷商人であっても節度は守るものだ。

 だからこんな少女に性奴隷の刻印を彫りはしない。

 そして君はある結論に辿り着き、非正規の奴隷売買と呟く。


「せいかい。だから、あたしたちはまともな職につけはしない」


 猫少女は淡々と言いながら、スカートを元に戻す。

 それを君にわからせてから、氷のように冷たく君を見る。


「だから、犬も言ったけど……あたしたちは盗んで食べものを手に入れるしかない」

「そ、そうだ! そうしないとオレたちは死んじまうんだから!」


 猫少女に便乗するように犬少女も君に向けて怒鳴りつける。

 君はそんな少女たちに向けて、遠からず捕まるんじゃないのかと尋ねる。

 けれど、犬少女は自信満々に胸を張る。


「へっ、オレたちが捕まるわけねーよ! だって、オレとねこはつえーんだからな!!」


 と言って、ブルンと大きな胸を揺らした。

 そんな犬少女を猫少女は残念そうに見る。

 どうやら彼女にはわかっているようだ。

 遠からず犬少女が捕まり、性奴隷にされてしまう未来が来るであろうことを。

 そうなった場合、猫少女は一人で生きるのか。それとも自ら友の隣に立つために自らを沈めるのか……。

 それは本人にしかわからないことだろう。


「……この人なら、いいかも」


 君の耳に猫少女の呟きが聞こえ、そちらを見ると少女が君を見ていた。

 なんだろう、嫌な予感がする。

 そう思う君の予感は正しかった。


「あたしたちの、ごしゅじんさまに……なって?」


 まるで食事に誘うように、猫少女は君に言う。

 その言葉に隣で胸を張る犬少女は……。

「は……? ちょ、ちょっと待てねこ! どういうことだよ。お前も性奴隷なんて嫌って言ってただろ!? なのになんで!!」

「だいじょうぶ、この人信じれそう。あたしたちのごしゅじんさまに」

「そ、そうかぁ? なんつーか、頼りないおっさんだけど? ちょっと待て、たちって言わなかったか?」


 ようやく気づいたのか、犬少女は猫少女に詰め寄る。

 詰め寄られながら、猫少女は頷く。


「言った。あたしは犬といっしょがいい。だから、いっしょにこの人についていく」

「け、けどよぉ……。オ、オレは弱い奴には従いたくねーんだよ!!」

「犬、さっき遊ばれてた」

「う、うぐ……!」


 猫少女の言葉に犬少女は呻く。……が、ギロリと君を睨みつけると棒切れを構えた。


「しょ、しょーぶしろ! オレが負けたら、性奴隷になってや――ふぎゃん!?」

「犬、おうじょうぎわが悪い」


 やる気になっていた犬少女の頭を殴りつけて、気絶させる。

 大丈夫なのかと君が尋ねると、猫少女はいつものことだと言う。

 ……いつものことかー。


「ねむっている間に、あたしたちをごしゅじんさまの物だってして」


 そう言って、猫少女は犬少女のスカートを捲り上げて下腹部を曝け出させ、自らの下腹部も曝け出す。

 その言葉に一瞬いけない気持ちが君に湧き上がるが、性奴隷の所有者登録は性交を行ってなるものではなく、自身の魔力と性奴隷を縛る名前を刻印に与えることで発揮する。

 当然君は分かっているため、ぷにっとしたやわらかな下腹部に触れると魔力を刻印に注ぐ。


「……んっ。んん……っ」


 刻印に魔力が注がれていく感覚がこそばゆいのか、猫少女から幼くも艶のある声が洩れる。

 一方で気絶している犬少女は涎を垂らして眠っていた。残念な子だ。

 そんなことを思っていると刻印に君の魔力が浸透し、名前を付ける段階に来た。

 君は少女たちの名前を……。

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