まとめ33 冒険者・8

 矢が突き刺さったと思われる瞬間、バリッ!という激しい音と地上から空に向かって雷が放たれました。


「っ!?!? な、何ですかいまのはっ!?」


 自分が行ったと思われる行動、けれどそれが理解出来ないままわたしは叫びます。

 後ろでは音に驚いてしまったミルクとココアが尻尾を膨らませています。


「おー、水と風の属性が見事に混ざってる現象が起きてるさー」

「え? ど、どういうことですか?」

「わっちもマジックんから聞きかじった知識なんだけどさー。いい感じに属性が混ざっていると新しい属性が生まれるっていう話らしいさー」


 そう言いながらクラフ様は説明してくれます。

 わたしが放った水と風の属性が合わさることで、雷が放たれること。

 水と土の属性で、泥を創ることが出来ること。

 他にもいろいろとあるみたいですが、詰め込め切れません。


「お風呂みたいにお湯を作るときは、水と火の魔石を使ってるけど、2つ同時にってわけじゃないさー。でも、これは同時さー」

「? ??」


 分かり易くクラフ様は説明をしてくれているのでしょうが、やはり理解出来ていません。

 それに気づいているのか、クラフ様は少し困った顔をしながら……。


「まあ、とりあえず分かり易くいうとさー、新しい力を手に入れたって考えれば良いさー」

「あ、ありがとうございます」


 そう言ってクラフ様へと頭を下げた瞬間、ブシューという音が背後から聞こえました。

 何の音かと振り返ると、メタルドラゴンのお腹がぱかりと開いていました。

 メタルドラゴンの中は、鍛冶場とでもいう様な造りをしており集積場とでも呼ぶべき場所へと奥から何かが転がっているのが見えました。


「精錬終了だね。どれどれ、どんな風に分別されたかねー?」


 スミス様がそう言いながら、ゴロゴロと転がっていく何かを見に近付いていきます。

 わたしも気になりますが、見に行っても良いのでしょうか。

 そう思っているとクラフ様が声をかけて来ました。


「ほら、フィンたちも見に来るさー」

「は、はい。ありがとうございます」


 クラフ様に礼を言って、メタルドラゴンの中へと入ると造りはしっかりとしていて、金属特有のずっしりとした感触が伝わります。

 それに驚きながらスミス様が居るほうまで近付くと、何が転がっているのかが分かりました。

 転がっているのは拳大の金属の球でした。

 色は基本的には艶々とした黒色で、幾つか別の物も見えました。

 多分ですが、黒いのは黒鉄ですよね。

 他の物は……何でしょうか?


「基本的には黒鉄が多いね。他にも普通の鉄、軽鉄、あ、微量だけどミスリルも混ざってたみたいだね」

「え? ……あ、これですか?」

「それだね」


 スミス様の言葉を聞き、ゴロゴロと出てくる球を見ていると……周りよりはふた周りほど小さいけれど独特の色合いをした玉を見つけた。

 それを指差すとスミス様が頷いたので、当たってたと思いつつこれからどうするのかを見始める。

 するとスミス様は黒鉄の球を5個ほど掴み、歩き出します。

 それを目で追って行くと、スミス様はメタルドラゴンの鍛冶場の中央に置かれている溶鉱炉だと思われる場所へと向かいました。

 そしてその中へと黒鉄の球と……ココアの大盾の成れの果てを入れました。

 すると、中に入れられたそれらは赤熱し、熔解していきました。

 ドロドロに赤く溶け、混ざり合う。

 それらがひとつに溶け合い、炉の横側に設置された穴からドロドロに溶けた黒鉄が流し出されます。

 流し出されたそれは、煉瓦サイズに合わされた場所へと流されて行きました。


「さてと、それじゃあ始めるとするかね。ココア、ちゃんとキミの相棒が新しくなるのを見ているんだよ」

「わ、わかった!」


 スミス様の言葉に頷き、ココアは真剣に鍛冶を始めるところを見ています。

 そしてスミス様は少し冷えてドロドロではなくなった煉瓦サイズの黒鉄の塊を叩き台の上へと置きました。

 未だ熱が抜けずに赤々と燃える鉄の塊。

 置いたそれへと、スミス様はハンマーを振り下ろしました!

 鉄の塊とハンマーがぶつかり合った瞬間、ガキンという金属同士がぶつかり合う音と、火の花が散りました。

 そしてもう一度ハンマーが振り下ろされ、同じ音が響き、火の花が散ります。


「お、おぉー……」


 音にびっくりしながらも、視界に咲く火の花をココアは真剣に見ています。

 ココアと同じようにミルクも驚きながらも見ており、振り下ろされるハンマーのように首を上下に動かしています。

 ガンカンとハンマーが焼けた鉄に振り下ろされる度に、鉄は形を変えて段々と広がり始めていました。

 それを真剣に調整しているのか、スミス様の顔は先ほどと違って真剣です。


「ふっ!」


 またもガツンとハンマーが鉄に振られ、もう一度振る。そう思っていたわたしですが、スミス様は広がったそれを一度炉へと戻しました。

 その行動に首を傾げていると、クラフ様が説明をしてくださいました。


「前にね、東の方では打った鉄を何度も伸ばして何度も重ねていって強度を強めるって聞いたさー。

 スミスは壊れ難く、頑丈に、それでいて使い易いようにするためにその方法を試してみようと考えているみたいさー」

「えっと、つまり……」

「凄い盾になると思うさー♪」

「なるほど!」

「オレの、すげー盾……!」

「よかったね、ココア」


 納得と同時に、ココアとミルクは嬉しそうにしています。

 それをわたしは微笑ましそうに見ており、遠くでもご主人様が微笑んでくれています。

 そんな幸せを感じつつ、スミス様の作業をジッと見ることに。

 炉から取り出された伸ばされた赤熱した鉄を、スミス様は真ん中に切り込みを入れてから折り曲げるように打ち込み続け、再び炉の中へと入れました。

 それを数回ほど繰り返し、炉の中に入れてから白く赤熱した塊を取り出すと小さく頷き……ハンマーを振り下ろします。

 汗を流しながら、スミス様は真剣に鉄を広げるようにして伸ばして行きます。


「おー、本当スミスのこのときの顔が一番好きさー♥」


 そんな姿を見ながら、クラフ様はうっとりしてます。

 何というかその瞳は相棒を見る視線ではないように感じられますが……気のせいですよね?

 そう思いつつ、わたしは作業を見ていると盾は薄く広く伸ばされていました。

 ここまで広くて薄く伸びる物なんですね。そう思いつつ見ていると、スミス様は盾を叩き台の上へと置きました。

 どうしたのでしょうか?


「クラフー、そろそろお願いしても良い?」

「わかったさー。とりあえず何を描くさー?」

「耐久性上昇と、持ち主の体力を少しずつ回復をお願い」

「わかったさー♪」


 スミス様に呼ばれたクラフ様は懐から金色の棒を取り出すと、置かれた盾の内側へとスラスラと何かを書き込んでいきます。

 記号の羅列に見えますが……良く分かりません。

 両隣でミルクとココアも見ていますが、やはり首を傾げています。

 けれどこれは今スミス様が言ったように2つの効果を促す物なのでしょう。

 そう思いながら様子を見ていると、スミス様がセイン様を見ました。


「セインー、ちょっと水をお願いねー聖水で」

「スミス……。セインが居るからと言って良い物を頼まないで欲しいのです」

「大丈夫大丈夫。持つべき者は仲間だって感じてるからね」

「はあ、兎に角聖水を用意すれば良いのですね? 何処にです」

「こっちにお願いね」

「分かったのです。天の神よ、従僕たるセインの願いを叶えたまえ――聖水生成クリエイト・ホーリーウォーター


 溜息交じりにセイン様は近付き、指定された桶の前に立つと手を組み、神へと祈りました。

 すると、こぽこぽとうっすらと輝く水が湧き出てきました。

 しばらくすると並々に満たされた聖水が桶に溜まりました。


「うん、ありがとね」


 スミス様は礼を言いながら、熱が残っている盾を道具を使って掴みます。

 そして、満たされた聖水の中へと掴んだ盾を入れて行きました。

 ジュワアという聖水が焼けた鉄によって沸騰する音と蒸気を周囲に撒き散らされていきます。


「さてと、最後に装飾細工をする準備をするさー」


 聞こえてくる音を聞きながら、クラフ様は歩いて行きました。

 それを見届け、しばらくして……。


「よし、冷えた冷えた。これで本体は完成したね。ココア、持ち手をもらえる?」

「あ、う、うん」

「ありがと。これを簡単に外れないようにキッチリと固定して……っと、ちょっと持ってみてくれないかね?」

「わ、わかった」


 ごくり、と息を呑みながらココアは差し出された盾を持ちます。

 見た目は壊れた盾よりもひと周りほど小さいですが、黒光りする表面はちょっとやそっとの攻撃では壊れない様な頑強な印象があります。


「お……おお? 重そうに見えたのに、軽い? でも、前のよりも移動出来るかも知れねー……」

「それは良かったね。使い勝手はどうだい?」


 スミス様に尋ねられ、ココアはブンブンと振ったり、盾を構えたりして……満足しました。


「大丈夫だ! すげー使い易い!」

「それは良かった。クラフー、あとの装飾お願いしても良いかな?」

「任せるさー。さ、こっちに来るさー!」


 そう言われてココアはクラフ様へと向かって行きました。

 そして盾を創り終えたスミス様はミルクを呼んで、小太刀を研ぎ始めます。

 それをミルクは学ぼうとしているのか真剣に見ています。

 わたしはどうしましょうか……。

 そんなことを思いながら、ご主人様のほうを見ると……何時の間にか冒険者や兵士がいっぱい居ました。

 えーっと、これは……?

 疑問に思い、ご主人様のほうへと近付くと……先ほどギルドで受付の女性と入れ替わった男性が立っていました。

 しかもその表情は苦虫を噛み潰したかのようですね。

 …………どうやら、森への強烈な爆発とメタルドラゴンに驚いてこちらへと来たようです。

 そしてその対応をご主人様が行っていると……。

 な、何というかすみません。ご主人様。

 心の中でご主人様に謝りつつ、わたしは申し訳なさそうにご主人様の後ろに立ちます。

 ……ちなみにサンズは自分は悪くないとでもいう風に空を見上げています。あ、セイン様に怒られました。

 そんな状況を見ながら、わたしは依頼どころではないと考えていました。

 それからしばらくしてご主人様は事情を話しに行くために町へと戻ることになり、わたしもそれについて行くことにしました。

 サンズとセイン様も一緒について行くようです。

 2人はスミス様とクラフ様に町に向かうことを告げます。


「わかったさー。それじゃあ、しばらくしたら向かうさー」

「メタルドラゴンを庭に置くから、町の人に事情をよろしくねー」


 と、スミス様とクラフ様は言います。

 それを聞きながら、ご主人様は頷き……哀愁漂わせながら歩いて行きました。

 そのあとにわたしは続き、歩きます。

 ……こうして、わたしの久しぶりの外での活動は終わりました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る