まとめ10 三日目・2
食事を終え、君は3人へと食料を買いに行こうと告げる。
君の言葉にフィンが首を傾げ、ココアはしゅんと耳を垂らし、ミルクは君をジッと見る。
「ご主人様? 食料なら、わたしたちだけで行けると思いますが……」
「行かないと、だめなのか?」
「あたしたちも、行っていいの?」
彼女たちの反応を見つつ、君は順番に説明をし始める。
フィンはまだ何処で食料を買うのか知らないだろうし、どんな物を買うのかも分からないだろう。
ココアは謝ったし、悪いことをしてたって分かってて怒る人がいたらちゃんと謝れば良いだろう。
ミルクは遠慮せずに堂々とすれば良いだろう。
それらを告げると、フィンは納得したのか頷く。
「それも、そうですね。わかりました。連れていってください」
ココアもそれに続くようにして、
「も、もう盗みなんてしない! だから、怒る人がいたらあやまる!」
はな息荒く君へと言う。
ミルクは君へとピトッと抱きつく。
「えんりょ、しない」
何に対しての遠慮をしないのかわからない。けれどついていくと告げているのだろう。
そう思いながら、君は3人を連れて君は市場に向けて移動を始めた。
途中、道行く君へと気さくに話しかける者や3人の奴隷メイドを連れて歩く君を遠くから見る人たちが居たが難なく市場へと辿り着いた。
「牢屋の中で呆然と聞いてましたけど、こんな感じに賑わっているんですね」
人で賑わう市場を見ながら、フィンが君へと言う。
野菜や果物、肉に魚といった食料品が売られており、それらも新鮮な物もあれば乾物にした物、調理された物なども売られている。ついでに珍味も並んでいたりもする。
歩きながら君の説明にフィンは頷きながら、道を歩く。
「きゃ!? あ、す……すみません」
途中、人にぶつかり転びそうになった彼女を君は支え、彼女は頬を赤く染めながら返事を返す。
そんなフィンへと人が多いし迷うと危ないからと、君は言って手を差し出す。
「わ、わかりました」
フィンは恥かしそうに君の手を取り、歩き出す。
と君の腰に突然やわらかい感触が辺り、そちらを見るとミルクが君に抱きついていた。
「あるじ、迷わないようにだきついてる」
そうか、仕方ない。君はそう思いながらミルクの頭を撫でる。
撫でられるミルクは嬉しそうに目を細め、尻尾を揺らす。
「ミ、ミルク! なに抱きついてるんだよ! おっさんからはなれろよ!!」
そんなミルクを叱るようにココアが怒鳴りつけるのだが、ミルクは君から離れる様子が無い。
それどころか、ココアを見て……。
「ココアもはぐれると怖いから、あるじと手をつなご?」
「だ、だれがおっさんなんかと!」
ミルクの言葉に反発するココアは、牙を立てるようにしながら君を睨み付ける。
そんなとき、ココアとの間に人の波が押し寄せた。
「わ、わふっ!? わふぅぅ~~~~っ!?」
その波に攫われるようにして、ココアが押し流されていく。
君はそれを唖然と見ていたけれど、すぐにハッとする。
すぐに追いかけないと。君はそう考え飛び出そうとする。
だがそれよりも先に、ミルクが君から離れた。
「あるじ、ココアを連れてくるから……きのう謝ったおみせの前で待ち合わせしてもいい?」
君はその言葉に頷く。するとミルクは人の間をすり抜けるようにして、ココアを追いかけるために消えた。
「ココアちゃん、大丈夫でしょうか?」
ココアが流されていった方を見ながら、フィンが心配そうに君へという。
君はミルクがついているから問題ないだろうと告げて、買い物をするためにフィンとともに市場を回る。
その途中途中で店を開いている者たちが君へと手を上げ声をかける。
いい肉が入ったとか、美味しい魚の乾物があるとか、珍しい野菜があるとか、レア物のワインを入荷したとか様々だ。
「ご主人様、知り合いがいっぱいいますね」
買い物客なだけだと尊敬する視線を送るフィンへと君は言う。
けれど彼女は首を振る。
「それでも凄いです、ご主人様は凄いです」
彼女のその言葉に君は気恥ずかしくなり、頭を掻いていたが彼女がある屋台の前で立ち止まるのに気づき君は近付く。
その屋台は魔物から取れる食べれる素材が売られている店だった。
その中で彼女は赤く透けた素材を見ていた。
確かアレは、ハンゲショウから取れるツインテールだ。
硬めのゲル状モンスターであるハンゲショウは頭のツインテールを振り回して攻撃を行うモンスターだが、戦いかたを理解していれば容易に倒すことが出来る初心者の冒険者にとっていい稼ぎ口だ。
そう思っているとフィンが恥かしそうにしながら君を見る。
「あの、ご主人様……、その……あの……」
もしかして食べたいのかと君が尋ねると、彼女はコクリと頷いた。
それを聞いて君は驚きつつも、食べることが出来るのかと尋ねる。
「美味しいですよ。生だと無理ですけど……お湯で茹でて、水で冷やしてからあっさり目のスープと食べたり、シロップをかけて食べると」
彼女の言葉に君は頷きながら、店の店主にツインテールを頼む。
店主もその調理法を知らなかったようで、参考にさせてもらうと礼を言いつつ君へと葉に包んだツインテールを差し出す。
そして君はそれをフィンへと渡す。
「ご主人様、ありがとうございます。美味しいですから期待しててください」
期待している。と君が彼女に言い、店を色々と回り肉や魚、穀物を購入して行く。
その度に荷物は段々と多くなっていった。
ココアはいっぱい食べる。それに君だけではなく3人が増えて4人になったのだから食料は多く買うべきだ。
そう考えながら君は食料を買い漁りながら、目的の場所へと到着した。
「ああ、あんたか。昨日は悪かったな……。ところであの子らは一緒じゃないのか?」
昨日騒動を起こした店の前に辿り着いた君に気づいたのか、店番をしている店員が君に声をかけてきた。
君はココアかミルクが来なかったかと尋ねるが、彼は首を振った。
「いや、来てないぜ。それに来てたら……」
ちょっと微妙な顔をしながら、店員がこそこそと君へと近付き……周りに聞かれないように小さく言う。
「店主がお茶、とはいかなくても水をくれたりして休ませて上げるだろうしさ」
どうやら店主は2人をいい子だと理解したようだ。
それに満足しながら君は店員に店先で待たせてもらう許可をもらう。
そしてフィンとともに店先で待っていると、路地裏から飛び出すようにして君たちの前に現れ、その場で倒れる存在がいた。
それは……。
傷だらけのココアだった……。
→傷だらけのミルクだった……。
それは、傷だらけのミルクだった。
それに気づいた君は急いで彼女の元へと駆け寄り、倒れた彼女を抱き上げる。
見ると鋭利な刃物で体を斬られたのか、白い肌から赤い血が零れており……白くて綺麗な髪も血に染まっていた。
「う……、ある、じ……」
抱き上げられたミルクが薄く目を開け君を見る。
君は動かないように声をかけるが、彼女は目に涙を浮かべながら君の服を握りしめる。
「おね、がい……ココアを、たす……けて」
彼女の言葉にようやくココアが居ないことに君は気づいたが、ミルクの様子を見てどう考えても異常なことが起きていることが理解出来た。
君はすぐに飛び出したくなる。
しかし目の前のミルクを放ってはおけない。
どうするべきか。君は悩む、けれどそんな君へとフィンが声をかけてきた。
「ご主人様、ミルクちゃんはわたしが見ています。ですからココアちゃんをお願いします!」
その言葉に君は頷き、ミルクをフィンに托して袋から回復薬を渡して駆け出した。
彼女が飛び出すように出てきた路地裏を駆け出し、地面に落ちるミルクの血液を頼りに君は目的の場所を探し始める。
すると君の耳に男たちの声が聞こえ始めてきた。
「おらっ! 逃げんじゃねーよ!」
「ぎゃはは、おもしれーなぁ!!」
「お前もあいつみたいにしてやろうか? あぁん?!」
どう考えても愉快な笑い声ではない。
その男たちの醜悪な笑い声に混ざるようにして、泣き声が聞こえる。
「ひぐ……っ、やめ……ろよぉ……! はなせ、はなせよぉ……!」
ココアの声だ。その声は泣き声と必死に抵抗をするのが分かる声だった。
その声を聞きながら君は路地を曲がる。すると……。
男が数名居た。
彼らはどう見ても柄が悪く、大剣や短剣、斧などの武装を所持しており……必死に逃げようとするココアを追い詰めていた。
そしてココアのほうは必死に抵抗をしていたようだが、着ている服が引き裂かれて裸同然となっていた。
だが肌はあまり斬られていないようだ。
無理矢理行為に及ぶつもりで襲っていることが明白だった。
だから君は男たちにどう言うつもりかと声をかける。
「あん? なんだてめぇ……」
「俺たちは依頼を果たすついでにお零れを預かろうとしてんだよ。邪魔すんな!」
「それとも混ざりたいのかぁ? クヒヒ!」
頭の悪い返事が君に返ってきた。
君は依頼とはどういうことだと尋ねると、彼らのリーダー格であろう男が口を開く。
「俺たちはある奴から所有者無しの性奴隷のガキを捕まえるよう依頼されてるんだよ」
「ま、依頼者は何かバカやって捕まったみたいだけどよぉ!」
「だったら、依頼が下げられる前に性奴隷を捕まえて俺たちの物にさぁ」
後は言わなくても分かるだろう? とでも言うように男たちは君をニヤニヤ笑いながら見る。
どうやら男たちはココアの下腹部の淫紋を見ていないようだ。
見ていれば所有者が出来たことが判るだろうし……いや、できていても問題ないのだろう。
所有者を始末すれば良いだけなのだから。
それを理解しながら、君は男たちに尋ねる。
ミルクを甚振ったのはお前たちかと。
するとミルク、という名前に聞き覚えがなかった男たちはキョトンとした。……が、すぐに理解したようだ。
「ああ、あいつか! 俺たちがこいつを襲おうとしたら後ろから襲いかかってきた。だから斬った。悪いか?」
その言葉を聞いたココアがビクリと震える。どうやら彼女が斬られる瞬間を見てしまったようだ。
そしてそれを思い出し怯えているのだろう。
そんな彼女へと君は心配するな、ミルクは無事だと告げる。
「ほ、ほんとうかよおっさん……!」
君の言葉を聞いて怯えていた彼女は君を見る。
「あ? お前ら知り合いなのか?」
そんな君とココアの様子を見て、リーダー格が尋ねる。
だから君は堂々と告げる。彼女たちの主人であることを。
「はぁ? てめぇが性奴隷の主人だと!? くそ、もう手を付けられてるんじゃねーかよ!!」
「処女じゃなくなってるのかよ!!」
「くそっ!!」
性奴隷に主が出来た=楽しんだと言う発想を持っているのか、男たちは苛立ちながら怒鳴り声を上げる。
その声に怯えたココアが尻尾を内股に入れながら、縮こまる。
そんな彼女を連れ出すべく君は男たちを通り過ぎようとする。
だがその瞬間、大剣が振り下ろされた!
君は振り下ろされたそれを避ける。
そしてどう言うつもりかと尋ねると、大剣を振り下ろした男は醜悪な笑みを向ける。
「決まってるだろ? テメェをやって、所有者なしの性奴隷をいただくつもりだ」
「その手があったか、流石リーダー!」
「クヒヒ、覚悟しろよ」
リーダーの言葉に頷き、男たちは武器を構え君を見る。
君は溜息を吐き、男たちに今ならまだ許すと告げる。
だが男たちは君を舐めきっており、さらに目の前の餌を手に入れることに真剣なようで君の言葉を聞く気はない。
ならば正当防衛だ。
君はそう告げ、構える。
「俺たちに素手で挑むつもりかぁ!? 馬鹿だろ!」
「クヒヒ、喰らえよっ!!」
男のひとりが滑り込む様にして君の懐へと飛び込む。
きっとそれの頭の中ではその手に持つ短剣で君を斬るイメージを抱いているのだろう。
だが、それは叶うことはなかった。何故なら男の顔面へと君の拳が打ちこまれたのだから。
「ごぶぁ!?」
「なにっ!? て、てめぇ!!」
吹き飛ぶ仲間を見て驚きと同時に怒りが込み上げたのか、別の男が斧を君へと振り下ろす。
けれど君の脚は斧を振り下ろそうとする男の足を蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされた男の足はゴキリと音を鳴らし、男の口から悲鳴が上がりながら斧に巻き込まれるようにして転げていく。
「て、てめぇ、いったい何者だ……?」
一瞬で仲間を沈められた男は顔を引き攣らせながら君を見る。
そんな男に君はただの冒険者だと告げる。
「嘘をつけ! こんな冒険者がいるわけねぇだろ!!」
ヒステリックに男が叫ぶが、君は知らないだけだと言う。
そしてゆっくりと君は男に近付く。
近付いてくる死の恐怖。それに男を追い詰めさせる。
「く……くそっ、くそっ!! どうすりゃいい……どうすりゃ……あ」
そんな男は周囲を見渡し、ココアを見た。
その視線に気づいたココアがビクリと震え、逃げ出そうとしたがもう遅い。
「きゃんっ!?」
男の手がココアを掴むと彼女を捕らえた。
「動くな! こいつがどうなっても良いのか……?」
引き攣った笑みを君に向けながら、男はココアが逃げないように彼女の首に腕を回す。
一方捕らえられたココアは恐怖のあまりに催してしまったのか、股から液体が零れる。
「大事な大事な性奴隷なんだろ? だったら見捨てるわけには行かないよな?」
男は君にそう言いながら醜悪な笑みを向ける。
そして大剣を君に突き付けると……。
「さあ、とっととどきやがれ! 今ならまだこいつには手を出さないぜ?」
そう男は言う。だがどう考えても逃げることが出来るようになったら、男はココアを連れて行くだろう。
君はそれを理解しているから動けない。
「オ、オレのことなんて……オレのことなんてきにするなよ!」
不意にココアが君に向かって叫ぶ。
怯えきった表情で、耳も折れて尻尾も内股だけれど彼女は叫ぶ。
「おっさんにオレはかんけーねーだろ!? だったら、どけよ! オレなんてみすてろよ!」
「う、うるせえぞガキ!」
「あぐっ!?」
叫ぶ声が煩かったからか、人質の意味を為さなくなると思ったのか男はココアの頬を手に握りしめた大剣の柄の先で殴りつける。
直後、殴られた彼女の口から痛みの悲鳴が上がった。
「な――い、いつの間に!? っく、う……うごかねぇ!?」
彼女の悲鳴を聞いた瞬間、君は男との距離を一気に詰めた。
突如目の前に来ていた君に驚き、男は大剣を振ろうとした。だが君が掴んだ刀身はまるで硬直したように動かない。
そして君は女は殴るものではなく愛でるものだと言って、男の顔面を殴り付けた。
殴りつけられた男は錐揉みしながら、壁へとぶち上がると血塗れのまま意識を失った。
それを見届け、君はココアに無事か尋ねる。
するとココアは君を見て、怯えた様子を見せた。
「あ、あ……、お、おっさん……手、手から血が……」
彼女の言葉を聞き、君は掌を見ると血が滲んでいた。
どうやら男の大剣を掴んだときに斬ったのだろう。
それに対して、君はココアに気にするなと言う。
「けど、けど……」
怯えながらも、ココアは君の掌を見つめる。
そんな彼女に君は、優しく告げる。
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