まとめ11 三日目・3
家族だから、護るのは当たり前だ。
君はそうココアへと告げる。
告げられた彼女は唖然とした表情で君を見ていたが、震えるように君へと尋ねる。
「か……ぞく? かぞくって、なんだ……?」
どうやらココアは家族というものが何なのかは分かっていないようだ。
なので君は、ココアとミルクの関係と告げる。
「ミルクは、生きるために……一緒にいるだけだ。それが、かぞく、なのか?」
ココアの言葉に君は首を横に振り、尋ねる。
ココアを助けようとしたミルクが斬られて地面に倒れたとき、どう思ったのかと。
その言葉にココアは顔をゆがめる。
「ミルクが、死ぬんじゃないかって思った。死なないでって思った。こわくなった。死んだらどうしようっておもった……」
それはもう生きるためだけの関係じゃないと、君はココアへと言う。
そしてそれは家族に対しての心配と同じだと告げる。
「この想いが、かぞく……?」
少し違うだろうが、君はそう頷いておく。
「おっさんも、オレがおそわれたとき怖かったのか? ミルクがきずついてたのを見て死なないでほしいっておもったのか?」
君へと、ココアが尋ねてくる。
君は微笑みながら頷く。
するとココアが君の掌を掴んで、傷付いた箇所を見る。
「お、おっさんのてのひらの血を見たとき、こわかった。オレのせいでおっさんがきずついたのが、こわかったんだ……」
ぽたり、と君の掌に雫が落ちる。
見るとココアの目から大粒の涙が零れていた。
「ごめん、ごめんなさい……っ、突っかかって……ごめんなさい、てをにぎらなくて……ごめっ!」
段々と言葉がなくなり、ひっくひっぐ、と泣き声へと変わり始める。
「オレがづっかかっだぜいで……、ミルグもぎずづいで……おっざんもぎずづいで……ひっぐ、ごめんなざ……ひっく」
多分、緊張の糸が解けたのだろう。
そして強がっていた感情が一気に溢れ出したのだ。
気にするなと君は言いながら、ココアの涙を指で拭い……腫れた頬へと手を当てる。
すると無意識なのだろうかココアは頬に触れた君の手へと愛おしそうに両手で触れる。
「ありがとう、ごしゅじん……」
小さく本当に小さな声でココアは君にお礼を言う。
そんな君たちの元へと足音が聞こえるのに気づく。
このロクでもない冒険者たちの仲間だろうか。
そう思いながら君は半裸のココアを後ろに下がらせ、様子を見る。
だが、複数の足音は金属の擦り合わせる音が交じっており、もしかしてと思い始めた。
「見つけた! 少女も無事のようだ!!」
君の予想は合っており、足音を鳴らしながら彼らは現れた。
彼ら……憲兵は無事な君を見つけて、仲間へと叫ぶ。
すると男たちの後ろから君たちの元へとやってくる者たちがいた。
「ご主人様! ココアちゃん!」
「あるじ……、ココアっ」
フィンとミルクだ。
君の背後に隠れていたココアが2人を見つけ、姿を現す。
「ミ、ルク……ミルクッ!!」
そしてミルクの姿を見つけると駆け出し、彼女を抱きしめた。
ココアの行動に驚いた様子のミルクだったが、彼女も同じようにココアを抱きしめる。
それを愛でつつ、君は憲兵を率いる隊長へと声をかけ……倒れている冒険者たちが行ったことを告げる。
「了解しました。彼らは自分たちが連れて行きます」
君にそう告げ、憲兵たちは倒れた冒険者たちをぞんざいに担ぐと君たちの前から去って行く。
……が、隊長だけが一度立ち止まり君へと振り向く。
「後日、詳しい話を聞くと思いますのでそのときはよろしくお願いします」
隊長の言葉に君は頷き返し、辺りは静かになる。
君は改めてミルクとココアを見る。
ココアは頬が腫れていて、服がボロボロ。
ミルクは回復薬が使われて、傷は塞がっているけれど服に血がこびり付いている。
フィンもミルクの血がついているのか、胸元が赤い。
もう一度ネコの店でメイド服とか服を注文しないと。
そう思っていると、ミルクが君へと近付く。
どうしたのかと思っていると、ぺこりと頭を下げてきた。
「あるじ、ありがとう。ココアをすくってくれて」
「オ、オレのほうもありがと。ミルクをたすけてくれて……」
ミルクに送れるようにして、ココアも君へと頭を下げる。
そんな彼女たちの頭を君は撫でる。
撫でられる彼女たちは目を細めた。
そして君は彼女たちを連れて市場へと戻ると、適当な店で安い外套を2枚買ってココアとミルクに羽織らせた。
肌が見られる心配が無くなったのを確認し、待ち合わせに利用していた店へと君たちが向かうとその店の店主が君たちに気づいた。
「おお、無事だったか。良かった良かった!」
笑みを浮かべる店主に心配していてくれたことと、荷物を見ていてくれたことに感謝し君は彼女たちとともに『クレセントムーン』へと向かう。
二日連続で訪れた君たちを見て、ネコは開口一番……。
「君、本当に上客だねー。同じ物で良いかい?」
と言ってきたので、君は素直に頷く。
そして1日2日で真新しくなった服に着替えた3人を見つつ、君はネコにお金を払う。
「まいどありぃ♥」
「あるじ、お願いがある」
笑顔のネコと応対しているとミルクが声をかけてきた。
彼女の言葉で読み書きの教材を買うことを思い出し、君はネコにお願いする。
「了解了解、ちょっと待っててね」
そう言ってネコは倉庫奥へと引っ込んでいく。
それを見届けてから、君はミルクを見てどうしたのか尋ねる。
「あるじ、読み書きの他にも……ぶきがほしい」
ミルクの言葉に君は固まる。
当たり前だ、いきなり武器がほしいというのだから。
そして君は理由を尋ねる。
「あたしが、ぶきもってたら……ココアを助けることができたと思う」
表情を暗くしながら、ミルクは君へと言う。
正直ミルクが武器を持ってたとしても、ココアを助けることが出来たかは分からない。
それほどまでに相手と彼女との間に経験の差があると君は感じる。
それを言おうとした瞬間――。
「な、なあ、ごしゅじん。オレにもぶき……買ってくれないか?」
ココアも便乗してきた。どうやら彼女もミルクと同じ考えのようだった。
「オレも、ぶきがあったら何とかできたと思う……」
そう彼女たちは君に言って、瞳で訴える。
その視線を浴びながら、君は彼女たちに武器を……。
→買い与える。
買い与えない。
……正直君としては、彼女たちに武器を持ってほしいと思っていない。
自分の身は自分で守るのが当たり前のこの世界、持つなと言うほうがおかしいだろう。
だから君は、彼女たちに武器を持たせないと言おうとした。
「ご主人様、わたしもお願いします……」
だが、君が言うよりも先にフィンが口を開く。
中断された君は、彼女へとどうしてだと尋ねる。
その際、若干怒気が交じっていたのだろう。
フィンはその気に当てられてビクリと震えたが、君を見た。
「わたしも、ココアちゃんもミルクちゃんも奴隷です。ご主人様がいなければ何も出来ない奴隷です」
自分を卑下するようにフィンは言う。
「万が一、ご主人様が倒れたら……、ご主人様がいないときに襲われでもしたら……何の力もないわたしたちは連れて行かれます」
フィンも、ミルクも、ココアも君の所有物だ。
だが、それでも平然と奪う者がいるだろう、踏み躙ろうとする者がいるだろう。
彼女はその不安を抱いているのだ。
「あのとき、戦う力があれば……あのとき、護る力があれば……大切なものを護ることだって出来たはずなんです……」
フィンはそう言いながら、そこにはない何かを握り締める。
……きっと彼女は失った故郷を、そこにいた友や仲間のことを思い出しているのだろう。
彼女を見て、再びミルクたちを見る。
その瞳は訴えかけるようであった。
そんな彼女たちを見ながら、それでも君は許可できずそれを言おうとする。
「やらせてあげなよ」
不意に彼女たちと違う声がした。
声がしたほうを向くと、読み書き教材を手にしたネコが倉庫から戻っており、君を見ていた。
彼女から漂う雰囲気は真剣なものだった。
「前にも言っただろう、彼女たちには才能があるって。だから、護身術ぐらいは学ばせてあげなよ。それで良いって思ったら考えれば良いんだ」
要するにお試し期間を設けてみろをネコは君へという。
「おねがい、あるじ」
「たのむ、ごしゅじん」
ネコの言葉を援護にミルクとココアも君へとお願いする。
その言葉に、却下はもう無理だと思える位まで君は追い詰められていることにようやく気づき、項垂れる。
彼女たちは勝ったのだ。
「さ、君たちのご主人様から許可を貰ったことだし、どんな物で戦うか考えてみようか!」
項垂れる君を笑うかのようにネコはニヤニヤ笑いながら彼女たちを連れて行く。
クレセントムーンの武具コーナーは様々な武器が置いてある。
長剣・大剣・短剣・刀といった剣類。
斧・槌・フレイルといった鈍器類。
杖・槍といった長物類。
他にも弓などの基本的な物を始めとし、キワモノも置いてある。
殴るための籠手・火薬を詰めて物を打ち込む金属筒などだ。
そんな様々な武器を通りながら、ある程度の辺りでネコは立ち止まり振り返る。
「さて、それじゃあ君たちはどんな武器が欲しいんだい? 自分に合う武器を決めてからのほうが君たちも訓練し易いだろう?」
ネコはそう言ってフィンたちを見る。
その言葉に、彼女たちは展示されている武器を見始める。
君はそれを何とも言えない表情を浮かべながら見ている。
けれどそんな君の考えとは他所に、彼女たちは自分の使いたいと思う武器を選んで行く。
一番最初に決めたのは……ミルクだった。
「あるじ、これを使いたい」
そう言って彼女は君に自身が選んだ武器を見せる。
それは……。
→金属製の串と小太刀だった。
金属製の薄い輪っか(チャクラム)だった。
複数の投げナイフだった。
そして次にやって来たのはココアだった。
「ごしゅじん、オレはこれを使いたい……。いいか?」
不安そうに君を見つめながら持てないのに頑張って持ってるためにフラフラとする彼女が持っていた物、それは……。
自身の体よりも大きな大斧だった。
無骨な鉄の塊と呼ぶべきメイスだった。
幅の広い巨大な大剣だった。
→彼女の体を覆い隠すほどの大盾だった。
彼女たちが選んだ武器に驚きつつも、持ち味が生かされていることを理解しつつ、君はフィンを待つ。
すると少し遅れて彼女が現れたが、その手にはナイフが一本握り締められているだけだった。
「あの、わたしはこれで……お願いします」
遠慮がちに彼女は言うのだが、君は本当に良いのか尋ねる。
当たり前だ。
エルフという種族が得意な武器は魔法や弓といった物なのだから。
だが君は同時に理解していた。
彼女たちエルフは母から子へと与えられる弓を武器として一生使うものだと言うことを。
同時に旅先でそれが壊れた場合、最も信頼を置く者から頂くということも。
だから君は……。
売られている弓を購入した。
弓の弦となる虫糸を購入した。
自慢の逸品を渡すことにした。
→思い出の品を渡すことにした。
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