まとめ13 過去・1
当時、君は若手の冒険者だった。
家族はすでになく、住む場所もない。
浮浪者と変わらない生活を送り、その日その日の食事を取るのも難しい。
だから君はすぐに金が手に入り力が物を言う冒険者になるしか出来なかった。
そしてその日も君は何時ものように、腹を空かせながら冒険者ギルドへと訪れた。
ギルドの中は冒険者たちで賑やかであり、楽しそうに酒を呑む者や厚切りの肉を食う者、パンをシチューに付けて美味しそうに食べる者などが居た。
そんな彼らを羨ましそうに見たがぐうと鳴る腹を叩いて黙らせ、君は依頼書のボードへと向かう。
そこには複数の依頼書が乱雑に貼られ、君はそれを見る。
特定のモンスターの討伐依頼書、指定された薬草の採取依頼、ある素材の採取依頼、そんな様々な依頼の依頼書が貼られているが、君が探している若手や貧乏冒険者のための依頼『ハンゲショウ討伐』が無かった。
どうしてか分からず君は受付に尋ねてみると、受付嬢は凄く申し分けなさそうな顔をした。
「実は、昨日からこの街にハンゲショウハンターの人が来ているんですよ……」
ハンゲショウハンター、聞いたことがある。
確か眼帯を着け、紫髪のツインテールが特徴的な幼い少女の見た目をした戦士だったはずだ。
相棒には眼鏡をかけた……確かメガネ、が居たはずだが上手く思い出せない。
だが分かるのは、ハンゲショウは皆殺しだ。と言ってブチュブチュとハンゲショウを叩きつぶしていることだけだ。
それにより、ハンゲショウ討伐が期待出来ないと君は理解し、溜息を吐いた。
だがこのままでは飢え死にしてしまう。
そう考え、君は手頃な採取依頼を探し、森へと向かった。
あの後、君が受けた依頼は『清澄草の採取』だった。
清澄草は下熱作用と鎮痛効果がある薬草で、澄んだ森の中に自生する物だ。
そしてその依頼は君にとってのハンゲショウ討伐依頼が無いときに食い繋ぐための依頼だった。
君は清澄草を採取すべく、何時ものように森の中にある泉へと向かっていた。
だが、何時もは清浄な空気を感じるはずの森は、何処か重い空気があり……君は首を傾げる。
けれど君は気のせいだと思い、泉へと向かう。
そして君は泉に辿り着き……見たのだ。
泉に挿し込む陽の光を浴びて、キラキラと銀色に輝く美しい髪をした女性の姿を……!
泉に頭から浸かっていたのか、ポタリポタリと銀色の髪から水滴を垂らし……、瑞々しい肌は白く艶かしい。
胸は少々寂しいけれど、美術品を思われる程の美しさだった。
十人に目の前の女性の姿を見せると、十人全員が飛びかかってしまうであろうと思わせるほどに美しく、君は見惚れていた。
だから君は背後に迫る存在に気づくことは無かった。
『グルルルルルルルルル……!』
ハァハァという臭い臭気と唸り声に気づき、君が振り返った瞬間……それは居た。
フォレストタイガーだ! 何時もは森の奥にいるモンスターが何故目の前に?
そんな戸惑いを見せながら、君は逃げようとする。
だが君が逃げた場合、このモンスターは泉にいるあの女性を襲うだろう。
そう思いながら、君は一瞬の間に考える。
逃げるべきか、戦うべきかを……。
君は……。
一目散に逃げる。
→女性を庇うべく戦う。
君は女性を庇うべく、目の前のフォレストタイガーと戦うことを決め、腰に差した剣を抜こうとする。
だがそんな君の動作なんて相手は待ってはくれない。
『グルゥゥゥァ!!』
威圧を込めた咆哮、直後フォレストタイガーは君へと飛びかかってきた。
そして君へと巨大な腕を振るわれる。
偶然、そう……偶然君は威圧によろけてしまい尻餅を突いた。
その偶然が君を助けた。
威圧に怯えることなくその場で立っていたら、君の体はフォレストタイガーの一撃に吹き飛ばされたか、爪に切り裂かれていたことだろう。
それを理解し、君はゴクリと唾を呑みこむ。
正直、逃げたくなってしまった。
だが自分が逃げた場合、次に狙われるのはあの泉で水浴びをしている女性だ。
君はそう考え、震える体をなんとか起こそうとする。
だが立ち上がろうとする君の目の前に、ポタリポタリと口から涎を垂らしながら君を見るフォレストタイガーが立っていた。
『グルルルルルルルルル……』
唸り声が響く。
生温かく獣臭い息が君の顔に当たる。
確実な死、それに理解し君は全身が震え、ガチガチと歯が鳴り始めた。
股間が湿っぽいのはきっと恐怖で漏らしてしまったのだろう。
それほどまでに恐怖を感じているのだ。
『グルァ!!』
君に対しフォレストタイガーは吼え、巨大な口を開けた。
鋭い歯を伝って涎が糸を引きながら顔へと垂れ、獣臭い息が生温かい。
死ぬ? 死ぬのか? 自分は此処で、死ぬのか?
そんな想いが頭を埋め尽くし、君は声を震わせ上手く喋れない。
フォレストタイガーはそんな君を一気に齧り、肉を得る。……はずだった。
――ドゴッ!!
『グガッ!? ――グルルルルル……!』
何か殴りつける音が聞こえ、直後君の頭に合わせていたフォレストタイガーの口は君から離れた。
そして、君の背後……泉のほうから声がした。
「はいはい、そこまでよー。折角ありつけた食事だろうけど、未来ある少年を死なせるわけには行かないわー」
鈴のように美しい音色のような声、その声に君はハッとし振り返る。
そこには、裸の女性が髪や体から水を滴らせ、弓を構えて立っていた。
矢が番えられていない弓、そんな体勢でいる女性に君は怯えつつも逃げるように叫ぶ。
「大丈夫だいじょーぶ。心配ないから、大人しく見てなさいねー」
君に対し、女性は片目をパチっとしながら愉快に笑う。
本人は気軽な感じに言ってるようだが、その表情はとても美しかった。
女神の悪戯。
そんな言葉が君の頭をよぎった瞬間、フォレストタイガーが吼えた。
『グルァァァァァァァッ!!』
「お腹が空きすぎて、もう形振り構わないかー……わかったよ」
女性はフォレストタイガーを哀れむように見てから、ポツリと呟く。
それと同時にフォレストタイガーは女性に向けて一気に飛びかかった。
女性はすぐに切り裂かれる。君はそう思い、目を閉じてしまった。
……だが、音がしない。どういうことだ?
疑問に思いながら君は目を開く。
するとそこには……。
『グ、ル、ァ……ァ……』
眉間に半透明の矢が突き刺さったフォレストタイガーがいた。
そしてフォレストタイガーはしばらく前に進もうとしていたが、頭を射抜かれてはもうどうしようもない。
しばらくして、目を見開いたまま横倒しになり……息絶えた。
君はそれを唖然と見ていたが、女性を見た。
女性は悲しそうに自身が倒したフォレストタイガーへと手を合わせながら看取っていた。
それから君を見て、優しく微笑んだ。
「きみ、大丈夫だった?」
どきん、と笑顔を向けられた瞬間、君は胸が高鳴るのを感じた。
だがすぐに、大丈夫だとどもりながら返事を返す。
「なら良かったわ。でも……」
女性は君を、というよりも君のズボンを見て苦笑した。
それに釣られて君も下に向けると、湿っていることに気づき、地面に液体が染み込んでいるのにも気づいた。
君は悲鳴を上げつつ、女性に見られないように股間を隠す。
「ふふっ、怖い目に遭ったんだからこうならないほうが可笑しいわよー」
女性はクスクスと笑いながら君を見る。
そんな女性へと君は服を着るように叫ぶ。
「あら? うふふっ、さっき感じた視線はあの虎と君だったのね♥ もっと見ても良いのよ?」
悪戯を見つけたように女性は愉快に微笑むと、君の前でその美しい肢体を見せつける。
きっと歳がなせる行為だろう。
女性の行動に君は顔を真っ赤にしながら、両手で隠して見えないようにする。
「あら、初心なのねー。まあ良いわ、きみもちょっと泉で体を洗って、服も洗っちゃいなさいな」
そう女性が言い、君も股間の気持ち悪さを感じつつ……泉へと向かい、女性の視線に居心地の悪さを感じつつ、服を脱ぎ泉へと入る。
泉の冷たさが体に伝わり、恐怖を感じていた心が落ち着くのを感じ始めると……女性にジッと見られていることに気づいた。
「ん? どうしたのかなー? まだ入ってても良いのよ?」
にこやかに笑う女性の視線に居心地の悪さを感じつつ、君は濡れたズボンとついでに上着も洗っていく。
石鹸なんて高価な物を持っているわけがないので、水で揉み込むように洗っておしまいだ。
泉から出て、洗い終えた服を絞りすぐに着る。
何というか、女性から感じる視線がこう……ゾワゾワするのだ。
「あら、もう着ちゃったの? もっと裸でも良いのにー♥」
うん、着て良かっただろう。
君はそう確信しながら、グッショリと冷たい服に体を震わせる。
「きみが着ちゃったなら、私も着ないと変態にしか見えないわねー。ついてきてー」
そう言いながら、女性は泉の縁へと歩く。
君は逃げるという選択が浮かんだが女性に助けられた手前、逃げるわけにはいかなかった。
礼は大事なのだから。
女性の後ろを歩いて、チラチラと見えるお尻に顔を赤くしながら君たちはしばらく歩くと……焚き火があった。
そこには緑を基調にした動き易い服が置かれており、女性の拠点であることが理解出来た。
「ようこそ私の城へー♪ まーまー、座って座って。冷えてるだろうから温かい物出すよー」
そう言いながら女性は君に座るように促す。
君は女性に従って、椅子代わりに置かれた丸太に座る。
それを見届けてから女性は乾かしていた服を着始めた。
「お姉さんの逆ストリップショ~♪ なんちゃって★」
楽しそうにそう言いながら女性は君に見せつけるように服を着替えていく。
ギルドのおっさんたちなら、目の前の女性のそれをガン見するだろう。
だが君はまだ若い。だからそれは恥かしすぎて見ることが出来なかった。
……大人になれば、ガン見するようになるのだろうか。
そんな疑問を抱いたが君は首を振る。
「うふふ、可愛いわねー♪ さて、もう良いわよー」
女性の言葉に君は女性のほうを見ると、女神さまが森の妖精に変わっていた。
そして君はようやく気づいた。目の前の女性がエルフであると。
君の視線に気づいた女性はそのことに気づき、微笑む。
「あら、エルフは珍しいかしら?」
君はその言葉に頷く。
冒険者ギルドの大人たちがエルフの話をするのを時折聞くのだが、君は絞まりがどうとか、いい声でなくとかの意味がまったく分からなかった。
それを女性に伝えると、生温かい目で見られた。
「……うん、きみは本当に素直に育って欲しいわー」
良く分からず、君は首を傾げる。……が、君は思い出した。
助けてくれたことに対し、君は女性にお礼を言う。
「別に良いわよー。正直、森の奥の乱獲しちゃって逃げちゃった一頭だったみたいだしー」
……どうやら目の前の女性が原因だったらしい。
そう思っていると、今度は女性が君に尋ねてきた。
「それで、こんな森の中で君は何しに来たのかなー?」
君は冒険者ギルドの依頼で『清澄草』の採取に来たことを告げる。
すると女性は感心したように頷く。
「へー、そんな若いのに冒険者やってるのねー。凄いわねー」
女性の言葉に君は照れつつも凄くない、生きるために必死だと言う。
「生きるため? どういうことかしら?」
女性の問い掛けに君は言う。
家族はもう居ないこと、住む場所も無く日銭を稼ぐのに手いっぱいだということ、それを女性は頷きながら聞いていく。
「なるほどなるほど……それじゃあ、きみに質問。目の前に美人で知識がいっぱいあって、すごくつよーいエルフのお姉さんが居ます」
女性は君を指差しながら自画自賛する。
その言葉に何を言ってるんだというように君は目の前の女性を薄目で見る。
「……こほん。私は子供が好きです。食べちゃいたいくらい好きです」
女性は咳払いをして言葉を言い換える。
食べるって、エルフは食人習慣でもあるのだろうか。そんな不安を君は抱く。
「そんな私はきみが気に入りましたー」
君の考えていることを理解しているのか分からないが、女性は君へと両手を広げて言う。
美人のエルフに気にいられる。それはきっと名誉なことなのだろうけど、何を言いたいのか本当に分からない。
そう思っていると、女性はようやく本題を話し始める。
「つまりね、私が君を鍛えて上げるわ。
もっと上手な戦いかた、薬草の採取方法、生きるための知識。
私が知ってるすべてをきみにじっくりねっとりずっぷり教えて上げる♪」
良く分からない表現があった。
だけど、君は女性の戦闘技術の凄さを先ほど見た。
きっと目の前の女性の師事を受ければ、強くなれるはず。
君はそう確信する。
君は……。
→彼女の提案を受ける。
彼女の提案を受けない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます