昇進ミッション③
開いてませんでした。
はああああ……
マジ勘弁。
「……ふう」
一度、息をつく。
こういう時こそ、冷静になるんだ。
考えろ、この窓が開く可能性を。
――――『……あら、気のせいかしら……』――――
思い出す、先程の出来事。
――あるじゃないか。一つの『鍵』が。
あのメイドさんこそ、窓を開く鍵。
「やるしかないか」
メイドさんを気絶させよう!
――――――――――
そういうわけで、俺は窓の上当たりに待機状態。
さっきメイドさんが出てきたんだし、出てくるでしょ。
か弱い女性なら、俺程度の攻撃でも不意打ちなら気絶させることは出来るだろう。プレイヤーじゃないからな、メイドさんは。
コンコン、と本の軽くナイフの柄で窓を叩く。
静かに、誘うように。
「……っ」
息を潜める。
何故なら、こちらへ向かう音が聞こえてきたから。
あと1m、程なく窓を開けるはず。
――鍵を開ける手が見えた。
無防備な窓から、メイドが続いて現れる。
ほんの一瞬だけ、目が合った。
「――!うっ……」
上から、メイドの首元を手刀で触れるように仕掛ける。
恐怖を感じる間も与えず、一瞬で気絶させた。
半裸の男がずっと家に張り付いてたら怖いだろうし。理解するのは起き上がった後だろう。
「っと」
窓枠に乗り、意識が切れたメイドさんを抱える。
倒れて音でも出たらダメだからな。
そのまま、スルスルっと部屋の中へ。
っと、入る前に靴を脱ぐ事を忘れずに。
こんな粘着テープ張ってるような靴のままだと音も出るし動きづらいからな。
「……ふう」
第二関門通過成功。
部屋は図で見たように小さな部屋で、落ち着いた雰囲気の本棚と机、大量の書きかけの紙。
この屋敷の主人の部屋だろうか。
そして、分かりやすい場所に大事そうな木箱がある。
逆にいえばそれしかない、何か他に盗めるものがあったら盗ったんだけどな……まあクエストだし?
んで……またその箱には鍵が掛かっているようだ。
さて。
次は最終関門、目的の品の入手及びこの屋敷からの脱出だ。
早速開錠……と行きたい所だが、一旦落ち着こう。
□□□□□□□□□□□□□
≪スキル説明:ピッキング≫
悪の職業専用スキル。
発動し成功した場合、あらゆる鍵を開錠する事が出来る。
失敗した場合は、周囲のNPC、プレイヤーに気付かれてしまう。
レベルが上がると、成功確率と開ける事の出来る鍵が増えていく。
□□□□□□□□□□□□□
『失敗した場合は、周囲のNPC、プレイヤーに気付かれてしまう』
つまりこの付近に他の誰かが居たらヤバい。
と、言う訳で聞き耳ね。
「……いるな」
静寂なこの屋敷だからこそ、音は分かりやすい。
一階にあと二人。二階は……いないようだ。
これは好機。さっさとやってしまうか。
《ピッキング成功確率は50%です。ピッキングを行いますか?》
俺が鍵に手をかざすと、そうインフォさんが言う。
5割、5割ね……はい、と。
《ピッキングに成功しました!》
閉じていた鍵が開き、中の品が見える。
よっし。嫌な予感が頭を過ったが何とかなった。
〈屋敷の主人の宝(クエスト品)〉
出てきたのは、綺麗な紫色の宝石のようなもの。
頂戴させて頂こう。
《屋敷の主人の宝(クエスト品)を取得しました!》
さて、さっさと帰りますか!
―――――――――――――
「grrrrr……」
何の危険もなく地に降りれば、後の危険はあの番犬だけ。
バレないように匍匐前進は欠かさない。
最後だからこそ慎重にね。
……ん?
あいつ、何か臭いを嗅いでいるような……
近付いてきてない?
「……」
気のせいじゃないわこれ。確実にこっち来てる。
このクエスト品のせいか?ったく最後の最後まで……
しかし数々の修羅場を超えた俺なら、もう焦ることもないだろう。
……仕方ない、少し勿体ないが……
「grrrr……」
近付いてくる番犬は、臭いを嗅ぐのを必死で周りを見れていない。
今がチャンス。俺は鞄からカスの残った塗布毒の瓶を取り出す。
それを――俺とは真逆の方向へと投擲した。
「grrrrrrr!!」
パリン、と瓶が割れた音に反応し走っていく番犬。
あれはかなり臭いが強いだろうからな。
匍匐前進から切り替え、俺は走る態勢に。
「疾走!」
疾走スキルを発動し、俺は最初の道まで全力疾走する。
おつかれさまでした!
―――――――――――――
《クエストを達成しました。闇ギルドに移動します》
俺が最初の位置に戻れば、そうインフォさんが言ってくれた。
いつ言われるかドキドキしちゃったよ。
俺の身体は、瞬く間に消えていく。
―――――――――――――――
「……帰ってきたか」
やはりというか、戻ってきた場所は闇ギルドだった。
この暗さと静かさは逆に安心する。
そして、俺の目の前まで歩いてくる最初の強キャラローブ。
「クリアお疲れ様。見事だった。特に非殺で依頼を達成したのは素晴らしかったぞ」
労いの言葉と、それに一言。
ゲーム的に言えば、各々のプレイヤーでクエスト中優れていた点を言ってくれるのだろう。
何で知ってんの?とかいう野暮なツッコミはしないようにしよう!
「ありがとう、んで当然報酬はあるんだよな?」
分かりきっているが聞いてみる。
「……このクエストで、お前の実力は確かに確認出来た。報酬は3つある」
おお、三つ?
「一つは30000azlだ、存分に利用すると良い」
金か、まあ嬉しいよね。
「二つはお前に見合った衣装の進呈だ。お前の依頼中の行動に見合わせて用意した」
おお、何だろ。これは全くどんなものかわからん。楽しみ。
「三つ。それは――お前の昇進だ。これよりお前は見習い盗賊から盗賊へと昇進出来る」
少し勿体ぶった後、俺にそう言う。
分かってたけどね。
いやあ、長かった……
《おめでとうございます!依頼『昇進・ミッション』を達成しました!》
《おめでとうございます!貴方は『見習い盗賊』から『盗賊』へとジョブチェンジしました!》
《盗術スキルを取得しました!》
《奪取スキルを取得しました!》
《偽装スキルを取得しました!》
《潜伏スキルのレベルが上がりました!》
《依頼達成により、30000azlを取得しました!》
《依頼達成により、『闇ギルドのローブⅠ』を取得しました!》
続々と告げられるインフォ。気持ちいい。
これで、俺も一人前の盗賊か。
「これで、お前も一人前の盗賊だ」
満足気にそういう強キャラローブ。
だから俺の心を読むなと……ま、いっか。
「これまで利用出来なかったこのギルドの場所があっただろう。それらが解放されたはずだ。闇ギルドの正式な一員として、存分に利用してくれ」
確かに色々あったな、楽しみ。
「以上で終了となる。ご苦労だった」
そう告げた後、ギルドの裏口みたいな所に帰っていく強キャラローブ。
いやあ長かった。しかしまあ色々増え過ぎ。嬉しいけど。
と、いうわけで。
もう俺を邪魔する者はいない。
報酬確認タイムだ!
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