エリアボス


《始まりの草原に移動しました!》


よーし、それじゃどんどん進もう。


さっさと行きたいし、ダッシュで!


あ、その前に武技の確認だけしとこ。



「『スラッシュ』」


適当に空振りでスキルを発動すると……何とも不思議なものだ。


青色のエフェクトのようなものがついた、素早い斬り付け。


俺の身体が勝手に小刀を扱う感じだと思っていたんだが…案外俺の意思が効く。


流石に普通の攻撃程ではないものの、結構自分で操作出来るな。


これで威力は敏捷依存ともなれば……


「使える」


武技、早速活躍させてやろう。


――――――――――――――――――


「……調子に乗り過ぎたか」


無事に俺は、10分も掛からず『始まりの草原』の最奥に着くことができた。


疾走スキルを乱用したせいで俺のMPはゼロ、というかしんどい。


このゲームはしっかりと疲労も表現されているようだ。そりゃずっと全力疾走なら疲れるよな……


「まあいっか。行こ」


俺の目の前には、これでもかと強調されている馬鹿でかいワープゲートのようなもの。


この周辺は沢山のプレイヤーが居る……しかもPTだらけな事から、これは所謂エリアボスというものだろう。



「攻略によると、なんか遠距離攻撃と近接攻撃を仕掛けてくるらしい。運が悪かったら後衛全滅だってよ」

「なるほど。じゃ俺が頑張ってヘイト稼ぐよ」

「うーん、それなら私は補助に徹した方がいいかな?」



多くは突入する前に作戦会議をしている様子。なんかワクワクしてくるな。


俺はソロだから関係ないが……ゲームのこういう雰囲気は好きだ。



「おい、アイツ入ってくぞ……」

「ソロで?PT推奨って攻略には書いてるのに」

「死ぬ気かよ、まあ様子見じゃね?」



俺が躊躇なくワープゲートに向かうだけで、変に見られてしまう。


さっさと入ろう……



《エリアボスに挑戦しますか?》



俺がワープゲートに入ろうとすると、インフォさんが確認する。


はいはいっと。



――――――――――――――――


しばらく待つと、大きな円形の場所に出る。


MPは、ボスエリアに入った瞬間から全回復した。なんか得したな。使ってよかった。


古くから続くボス前全回復の伝統は、今も続いております。


さて、一体どんなのが俺を出迎えてくれるのかな?


俺はワクワクしながら、草をかき分けて中を覗いてみる。



「スライムかよ」



雑魚敵は全くおらず、中心には見るからにヤバそうな……スライムが居た。


思わず突っ込みを入れてしまうが……そいつは黒く、そしてデカい。


スライム20匹分ぐらい?威圧感はかなりある、あの可愛いスライムではない。


見るからに引いてある境界線を越えたら、恐らく戦闘が始まる。


「さて、やろうか……あ」


踏み出そうとして、気付いてしまう、回復ポーション買ってくの忘れた。


俺としたことが、完全に忘れてたよ。確か最初に買った一本しかない。


まあいいか、オワタ式的な感じで……嫌な予感しかしないけど。


ってMPポーションもないんだよな……これは中々長丁場になりそうだ。


俺は5つあるうちの1つのポケットにスタミナエキスをたんまり入れて、足を踏み出す。


効果あるかだって?スタミナドリンクを作れない今の現状を考えた結果、こうするしかなかったんだ。


衛生面なんて関係ないね。ゲームだからな。


「さ、さて、やろうか!」


開幕は不意打ちを狙おう。


俺は後ろにぐるっと回り……背中?に着く。


目みたいなのがあるのが前だろう、多分。



「……ふー」



その威圧感は、初めて見るカオリには及ばないが中々だ。


深呼吸し、俺は攻撃方法を確認しておこう。


俺のMPは200、疾走スキルのMP消費は一回10、スラッシュも10だ。乱用は出来ないな。


通常攻撃のダメージよりもスラッシュの方が格段に上だろうし……出来るだけスラッシュにMPは注ぎたい。


投擲も挟みつつ武技、通常攻撃で攻撃、それでいいだろう。


カス火力だが、致命攻撃や不意打ち、スキルでなんとかカバーは出来るはずだ。



「よし」


最初に疾走スキルで一瞬で近付き、スラッシュを使う。


その後はノリで。だってアイツの事、全く知らないし。


まあまあなんとかなるだろう。



「……」



限界まで境界線まで近付き――俺は疾走を唱える。


凄まじい早さで、俺はボススライムの背中に辿り着く。これなら――



「――!」



コイツ、俺が攻撃する前に気付きやがった!


不意打ちはダメだ、でもスラッシュは間に合うはず。



「くっ――『スラッシュ』!」


「――」


スライムの振り向く間に、俺はスラッシュを発動。


出来るだけ素早く斬り付けるイメージで身体を動かし……硬直が無くなった瞬間に俺は離脱する。



「……意外と削れたな」



見れば、ボススライムのHPは0.5%程減っていた。


少ないって?いやいや、俺が敏捷極振りなのを忘れてはならない。


この攻撃を、200回繰り返すだけでアイツは倒れるんだ。案外行けるんじゃない?




「――!――!」



俺が離脱した場所に、ボススライムは黒い『砲弾』を飛ばしてくる。


ブルースライムの水弾とは訳が違うぞこれは。



「……危ねー」



咄嗟に避けたものの、その砲弾は地に着弾した瞬間に大きく弾け、また小さな弾が炸裂した。


ギリギリ避けるってのは止めた方がいいな。それに弾がデカい割に速度が全く劣っていない、そりゃ強い。


だが、あの攻撃の後は少し硬直があるようだ。


「――!――!」


また砲弾を飛ばしてくるボススライム。


俺はその軌道上を避けながらボススライムの背面に近付く。


「『スラッシュ』!」


よし、入った。


そしてまた離脱。


俺の足の方が、アイツが反応するよりも早い。



「うおっ」



俺が離脱した場所へ、一拍空けずボススライムは素早いタックルを仕掛ける。


何とか避けたが……危なかった、あの時言ってた近接攻撃ってこれの事ね。


これは正面から行ったら死ぬな。



「――!――!――!」



先程よりも大きく距離を取ると……今度は三連弾を仕掛けてくる。


成程ね、俺の立ち位置によってある程度攻撃が異なってくるのか。


うんうん、この子の事ちょっと分かってきたよ。



「よっ、おらこっちだ」



先程二連弾を放ったぐらいの所に、回避しながら移動する。


タイミングは大体同じ。そしてあの弾は――着弾すれば炸裂する。


こんなに分かりやすいヒントがあるんだから、後はそれに回答をぶつけてみるだけだ。


「疾走!」


一発目の段階で、疾走を。


一瞬で射線から離れ……俺は、アイアンナイフをボススライムに投擲する。


――丁度、アイツが二発目を打った直後にナイフが着弾するように。タイミングを完璧に。


「――!――……」


狙い通り、砲弾を吐く直後ナイフは『砲弾へ』ぶち当たり、その衝撃で地面へと落下。。


そしてその砲弾は炸裂、ボススライムは自爆する形となった。


なんかピヨピヨしてる。ヒヨコは出てないが……あれは確実にひよってんな。



「『スラッシュ』」


投擲したナイフを拾ってからスラッシュを発動、まだ動かない……連打だ連打!


「おらおらおら!」


ナイフを刺しまくる。おー、減る減る。


「――――!」


目を覚ましたのか、ボススライムは怒ったようにぷくーっと膨らむ。タダでさえデカいのに。


……ちょっとかわいい。


退避してボススライムちゃんのHPバーを見れば、3%削れていた。これは大きいな。


「まだまだ!」


戦いはまだ始まったばかり。



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