エリアボス撃破、そしてVR酔い

――――――――――――――――――



「はあ、はあ……くっそ、不味い」


何度目か分からないスタミナエキスを粉ごと食らい、俺はボススライムを見据える。


あれから、恐らく1時間ぐらい。いやもっと長いかも。


HPは攻撃を食らわないから良い、だがMPは武技と疾走スキルでゴリゴリ減っていく。


しかし回復手段のMPポーションは一本のみ。足りるか!


結果俺は、ボススライムの攻撃を避けながら自然回復、そして攻撃のループを続けていた。


スタミナは何とかスタミナエキスをそのまま口に入れる事で何とかなった。くっそ不味いけどなこれ。


なにはともあれ、こんな長丁場になったのは……俺のミスだ。やり場のない怒りも、俺の戦闘を支えてくれた。


「絶対次は、忘れねーからな!!」


怒りを乗せた30回目のアイアンナイフの投擲を、こりもなく吐き出す砲弾にぶつけてやれば……



「――――…………」



その巨体は、塵となって消えていった。



《おめでとうございます!エリアボスを倒した事により次のエリアが解放されます!》


《レベルが上がりました!任意のステータスにポイントを振ってください》


《レベルが上がりました!任意のステータスにポイントを振ってください》


《疾走スキルのレベルが上がりました!》


《投擲スキルのレベルが上がりました!》


《投擲スキルのレベルが上がりました!》


《投擲スキルのレベルが上がりました!》


《小刀スキルのレベルが上がりました!》


《小刀スキルのレベルが上がりました!》



《称号【初心者卒業】【無傷の挑戦者Ⅰ】【塵も積もれば山となる】を獲得しました!》


《貴方がソロ初めてのクリアプレイヤーです!ランキングに登録しますか?》




「お、終わった……か」



とんでもなく疲れた。頭痛いし。しんどいし。


何だよこれ、体験した事がない気持ち悪さだ。


ランキングに登録?ああどうしよ、もうなんでもいいや。はいはい。


《称号【ランキング・プレイヤー】【ファースト・ランク】を獲得しました!》


「これがVR酔いってやつか?もう無理、さっさと落ちよう……」


考えをそのまま口に出しながら俺はメニューを開く。


ボス戦闘エリアだとかそんなのどうでもいい、早く現実に返して。ログアウトログアウト……


おお行けた行けた。戦闘はもう終わったからな。



――――――――――――――――


リアルに戻っても、中々その苦しみは解けない。


「あー、絶対次は忘れねーぞ……」


本日二回目のセリフをベッドで吐きながら、俺は苦しみ眠るのだった。


―――――――――――――


「……朝か」


「お兄ちゃーん?お兄ちゃーん!あ、起きた」



目を開けると、俺の目の前に妹の顔が見えた。



「大丈夫?すごい汗だけど……」


心配そうに、立花はそうのぞき込む。


「あ、ああ……もう大丈夫だ。今何時?」


「朝の6時だよ!」


なんだと……俺の起床時間は5時前だというのに。


流石に昨日はやりすぎたな……まあ頭痛もだるさももうないから大丈夫だろう。



「まじかよ、すまん。朝ご飯を……」


「ふっふーん、私がもう作っちゃったー!」


「なん、だと……」



――――――――――――――――


久しぶりに食べる、立花の朝ご飯。目玉焼きとトーストだけだけど。


「どうよ私の目玉焼きは!」


自信満々にそういう立花。申し訳ない事をしたな。


「ごめん、テスト勉強だってのに」


「いいのいいの!いいリフレッシュだよー。んでお兄ちゃん、VR酔い?もしかして」


見事お見通しか……流石俺の妹だ。


「そうだ、あんなキツいんだなあれ」


初めて味わう感覚だった、あれは。


「はは、誰もが通る道だよ!私も良く分からないんだけど……VR酔いは一回味わったら、その後はよっぽどの事がない限り大丈夫なんだって」


ほー、そんなもんなのか。


「そっか、なら今後は大丈夫かね」


「うん、それにしてもあのお兄ちゃんがVR酔いとは意外だねえ、何やったの?」


そんな俺をヤバい奴みたいに言うな立花。


「実は……一時間かそれ以上、ソロでボスと戦ってたんだ」


「……え」


固まる立花。そんなおかしいの。


「そ、それで、倒したの?」


「当たり前だ……あんなの時間さえあれば余裕だろ、まあ最初のボスだから」


実際攻撃方法は単純だ、しかもあの砲弾自爆のおかげですぐヒヨるし。


MPポーションさえ大量に買っておけば、もっと早く倒せたのにな。



「……そーですか。……私に言ってくれたら手伝ってあげたのに……」



あきれるように立花はそう言い、何か小さくごにょごにょ言った後席を立つ。



「ありがとな立花。美味かった、勉強頑張れよ」


俺は立花にそう言う。


立花もゲームしたいだろうに、本当に申し訳ないな。



「……ふふふ、EFOで料理の練習してるから、楽しみにしててね!」



自身あり気に、立花は自室に戻っていく。


……ゲームで料理が上手くなればこっちも上手くなるのか、また立花に証明してもらうとしよう。

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