狂戦士②


 「身体強化」



戦闘開始と同時に、カオリの詠唱。


カオリの身体へ、黒と紅が混じったオーラが包む。



溢れる、その『殺気』。



「――っ!?」



俺は気付かない内に半歩下がっていた。


身体が『恐怖』を感じたのだ。

コイツはヤバイ、そう訴えかけた脳。



「これは、楽しくなりそうだな」



その脳と身体に反対するように、俺は笑みを浮かべる。


PVPは敵を恐れたら終わりだ。それは『夜』との戦闘で嫌という程分かっている。


どれだけ相手が格上でも、引け腰になれば勝ち筋が薄れてく。



「……行きますね」



カオリが地面を蹴り、俺に向かう。


全身アイアン装備の巨体が斧を片手に迫る……ホラー映画顔負けのワンシーン。



「ああ」



俺の身体を、前に進ませる。

圧のGを受けながら。



「―――――――」



その重厚な鎧には似合わない、音を消した移動。


『癖』になってるんだろう。

一体どれだけのプレイヤーをヤッてきたのだろうか。



「――!」



俺とカオリがぶつかりそうになる、距離にしてもう五mを切った所。


俺の身体が、ビリビリと『警告』を発したような感覚を覚える。


何かが来る――それだけが分かった。



「■■■■■!!」



その直後――耳を劈く『音』。


『声』とは決して言えないような『不快音』。


そして、俺の身体が――



「――っ!?」



『動かない』。


一寸たりとも。


腕が、足が、俺の言う事を効かないのだ。



「……」



静かにカオリの唇が湾曲した。

捕らえたぞ、と。


笑った表情そのまま、斧を振りかぶる。



「『ブラッディーアタック』!」



カオリの斧は赤黒く光り、狂気を更に増す。


当たれば死ぬ。


それは確実だろう。



「終わりです、漆黒さん――!!」



……だが。



そういう台詞を言った後は、大体何か起こるんだよな。



「――っ」



俺は、首に振るわれた斧に動じず立ち尽くす。


気が付けば、身体の硬直も収まっていた。

一定時間対象の行動を停止させる――といった感じか。


それに加えてこの『一撃』。

そりゃー強い。



「……こりゃ、死んでたかもな」



そう呟く俺の身体は、まだ『残って』いた。


斧も完全に振り下ろされ、地面に刺さっている。



「なん、で……?」


「はは。『スラッシュ』」



俺は笑って、腰のナイフを取り出す。


隙だらけの、目の前の巨体。


毒がたっぷりと塗られた、紫色の刃を――



「――ぐっ!」



カオリの腹に、突き立てた。


溜まらず仰け反るカオリ。



「残念だったな」


「……っ、まだ、ですよ――!」



そのまま後ろへと退避するカオリ。


カオリのHPは、『あの技』の影響か、半分近くまで減っていた。


それに加え俺の毒入りナイフ。もはやHPは、もう少しで一割といった所か。



「まだ、終わりません!」



このまま、俺が疾走スキルでカオリに飛び込めば終わりだが。



『あえて』、待ってみよう。


面白そうだしな。



「はあ、はあ―――――」



カオリは、斧を地面に突き刺し立つ。


瞬間――赤黒いオーラが更に増し、カオリの身体を包んでいく。圧が広がる。


……まるでその光景は、何かとの誓いのようにも見えた。



狂暴化バーサーク!!」


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