新エリア『ラロック・アイス』

《ラロック・アイスに移動しました!》


インフォさんと共に、一面の雪景色が俺を迎えてくれる。


どうやら新しいエリアは、雪のエリアのようだ、きれー。


風景がこんなにも一瞬で変わるのには、まだまだ慣れないだろうな……


そして向こうには、『ラロック・アイスへようこそ』と書かれたゲートと、たくさんの人が見える。


いやあ、楽しみでしょうがないな。



《ラロック・アイス・シティに移動しました!》



ほんの少し歩いてゲートを潜るとインフォさんが出迎えてくれた。


周りには、俺よりも格上のプレイヤーばかりがうじゃうじゃいる。


レベルも装備もスキルも、何もかもが上だ……コイツらを、どうやってPKしてやろうか。


そう考えるだけで、俺の心は舞い踊る。


……っと、まずはこの町をゆっくり周ってみようか。




―――――――――――――――



ぐるっと周って分かった事……それは、この町が生産の町だという事。


勿論武器屋や雑貨屋、ギルドもあるが……やはり大部分は鍛冶に裁縫、料理……生産の技能を習得出来るであろう場所が沢山ある。


ある場所では鉄を叩き、ある場所では布を針で縫い付け、ある場所は火で肉を焼き、またある場所では怪しい錬金術のようなものに勤しむローブ、そして大きな荷物を整理する商人のような姿も……


生産を目指す者には、不可欠と言っていい町だなここは。


中でも人気なのは……『鍛冶』だ。この町には作業場のような、プレイヤーが鍛冶を行えるスペースがある。


近接職の武器、鎧等の防具は鍛冶によって製作、強化が出来るのだろう……それっぽいプレイヤーがいっぱい。


俺の着ている布装備とかは、多分裁縫で製作されているのかな?またお世話になろう。



じーっと製作の過程を見ていると、それは十数分の間に完結する。


やっぱりここはゲームだ。当たり前だが本来剣一本作るのにどれだけの期間を要するのかなんて、考えたくもない。


ただそれでも、劇的に短縮されたその作業でも、時間を物凄く食うって事は分かる。


そういうのは、時間に余裕のある廃人様か生産一筋に任せようね。



ネットゲームを作っていくのは、良い意味でも悪い意味でも廃課金勢と廃人勢だと思っているからな俺は。頼んだぞ!



「ちょっと見てみるか……」



始まりの町とは違い、あちこちに露店が並んでいるのがここの特徴でもある。


取引提示板で良いって?そんな事言ってはいけない。露店は古くのMMOから続く伝統であり、無くてはならぬ物なのだ。



……システム的な話をすると、露店で売った場合は取引手数料がタダになる。たしか日本の消費税ぐらい取られるのがタダになるんだ、どうよ?


この露店はプレイヤーが居る事もあるし、商品だけが置いてある事もある。


掘り出し物もかなり見つけやすい為、取引提示板に劣らず人気な場所だ。


当たり前だが、この商品を盗む事は絶対に出来ない感じだ。まず触れやしなかった。まあ出来たらやり放題だし?



「私の『手縫い』の装備……買いませんかあ?限定十個、早いもの順でーす!」


「か、買った!」

「ぽよぽよちゃん!俺はコイツの倍出す!」

「はあ?なら俺はコイツの更に倍だ!」


……ああ、プレイヤーの居る露店では、こういう目を覆いたくなるような光景も存在している。


実際商品を見ていれば、価格と品質が比例していないボッタクリなんだが……あの女、上手い事外見を生かしてんな。


もし「おいおい、『そんなの』よりこっちのが安いし質も良いぞ」なんて言えば、俺はコロコロされる。だから言わない。黙ってようね。



同時に商品の買い取りが行われると、オークション的なものが自動で行われるんだな……初めて知った。札束の投げあいはしたくないもんだ。


「ん、これは」


沢山の露店を巡っていると、不意にこんなものを見つける。


□□□□□□□□□□□□□


【致命のアイアンナイフ+1】




ATK+25 敏捷値+25 致命攻撃ボーナス5%上昇  耐久値130 必要敏捷値:20 



強化品・追加効果[致命]付与品。


鉄から造られた小刀。


初心者にも扱いやすく、切断、突き、投擲等様々な攻撃に用いる事が出来る。



品質:3

レアリティ:1


製作者:らんちゃん!


製作者コメント:交渉は受け付けません


□□□□□□□□□□□□


商品の質も耐久値も全て悪くない、しかも凄く良いのが付与されている……れっきとしたプレイヤーの製造品。


しかしながら、価格はたったの3000azl。普通の三倍。


恐らく相場も特にあれから変動していないだろうから、これは破格だ。しかも他はそれ相応に、これの10倍程の価格が付いている。


……うん、ただの設定価格の桁間違いだ。


「悪く思わないでくれよ」


そう呟き、俺は一刻の迷いもなく購入を押す。俺へのメッセージは受け付けません。


いやあいい買い物した!



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