子分が出来ました

――――――――――――



《「あ、あの、その、あにきと呼ばせて下さい!」》


は?


俺が離れて1分も経たない内に、十六夜からテンパり過ぎメッセージが飛んでくる。


追突すぎて頭が追い付かない。メッセージで言うかそれ。


《「あ、ああ……好きにしてくれ」》


別に呼び名なんてどうでもいいからな……兄貴ってちょっとアレだけどさ。


え、子分にしてほしいの?


《「や、やったあ……あの、それで、あ、あにき!早速ご教授して欲しいんですけど……」》


《「ああ、言ってみろ」》


《「……その、エリアボスの攻略方法を教えて欲しい、です」》



十六夜は、そう俺に言ってきた。


はは、丁度良いな。


《「今何処に居る?」》


俺がそう言うと、メッセージが途切れる。


うん?どうしたのやら。


《「あ、あにきの後ろ……です」》


……え?んなメリーさんみたいな。


そのメッセージの後、俺は後ろをおそるおそる振り向いたが……本当に直ぐ後ろに居た。


「その、ごめんなさい、あにきが気になっちゃって、付けちゃいました」


十六夜は、照れるように笑い頭を下げる。


そういえばスリの時にも、かなり近付くまで気が付かなかった。


潜伏スキルだろうか?凄いなスキルって。


「……ああ、別にいいよ。それは潜伏スキルか?」


気になったので聞いてみる。


「あ、その……僕、生まれながら影が薄くて」


マジか……ゲームにもそういうの適応されるのか。ああでもVRMMOだしな。


リアルの自分ってのが結構反映されるんだろう。うん。


「はは、なるほどな。盗賊として羨ましい限りだ」


無理やり納得する事にした。俺がそう言うと、十六夜は照れるよう俯く。


実際その影の薄さは、これまでの悪行にかなり貢献してきたんだろう。


このワルめ。


「えへへ、嬉しいです、あにきー」


照れる十六夜に頭を優しくグリグリしていると、さらに照れた。


可愛い奴め。


「……さて、エリアボスの話だったな」


十六夜との馴れ合いを続けていても話が進まないので、俺は一度区切る。


「は、はい。僕、ソロで何回か挑んだんですけど駄目で……ちまちまレベルを上げてたんです」


十六夜は、そう俯いて話す。


「そっか。……盗賊って事はステータスは敏捷寄りか?あ、あと武器は小刀だよな」


「はい!」


うん、まあ盗賊となると大体そうなるよな。というかそうじゃないと就けないか。


「よし、それじゃそうだな……実際に戦ってる所、見学するか?」


恐らく口で説明するより、俺が見せてやった方が良いだろう。


「え、そんな、い、良いんですか?ありがとうございます!」


「ああ、参考になるかどうか分らんが。早速……行ける?」


「はい!」



ソロでさっさと終わらせるつもりだったが……恥ずかしい所は見せられないな。


まあどうせ行くつもりだったし、観客が一人増えたという事で。


―――――――――――――――――――


《投擲スキルのレベルが上がりました!》


難なく撃破。


十六夜はPTの一員扱いだが、攻撃は俺しかしていない。見学に徹して貰ったからな。


経験値とかどうなってるんだろうか。まあいいや。


十六夜の参考にもなる為敏捷値に依存した動き、そして疾走スキルは出来るだけ行わず、分かりやすいゆっくりとした回避、攻撃方法で倒したつもりだ。


それでもタイムは大幅に縮まったし、やはりMPポーションの存在は大きい。スタミナドリンクもまた然り。



「まあこんなもんだ。攻撃を避けて、砲弾の予備動作が見えたらタイミングを合わせて投擲、怯んだ所を攻撃する……どうした?」



「……あ、あは、流石あにきです。華麗な投擲、完璧な回避、容赦のない攻撃……」



虚空を見上げぶつぶつ話す十六夜の肩を叩く。


「おい、大丈夫か」


「……はっ、つい、見惚れちゃいました。本当に兄貴は凄いですね」


「はは、褒め過ぎだ。こんなの誰でも出来るようになる」


しっかりとパターンを掴めれば後は安定する。これはどのボスでもいえる事だろうけどな。



「……あはは、そうですか。僕、絶対にこのボスを乗り越えて兄貴に会いに行きますから!」


盗賊とは思えない程、真っ直ぐな目だ……眩しい眩しい。


「ああ。次のエリアでまた会おう」


俺は十六夜の頭に手を当てた後、そう告げる。


照れ笑いの後、十六夜は後ろの始まりの草原へのゲートへと向かって消えた。


我ながら、中々らしくない事をしたな……まあいっか。




「……さて」




向こうにある次のエリアへのゲートと、『宝箱』が、俺に期待を抱かせる。


どうやら、エリアボスを倒した際にドロップするらしい。あーもう、初回クリアの時も多分あったんだろうな……勿体ない事したよ。



「よーし、気になる中身は……」


《初心者のリングを取得しました!》


《スライムゼリー(大)を取得しました!》


《10000azlを取得しました!》



初めてのアクセサリーに、レアそうな素材アイテム、大金……ああ、本当に勿体ない……


日本人の遺伝子に組み込まれている、モッタイナイが暴れだす。


まあ言っててもどうにもならない。しょうがないさ。


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【スライムゼリー(大)】



素材アイテム。普通のスライムでは取得出来ず、特別大きなスライムから取得出来る。


品質:3

レアリティ:2



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【初心者のリング】



装飾品アイテム。身に着けると筋力値が2上昇する。


品質:1

レアリティ:2



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シンプルイズベスト。このリングは単純にステータスの上乗せか。


まあでも、レベルアップ2つ分と考えるとでかくない?


早速装備しとこっと。



「さて……新エリアだ」



獲得したアイテムの確認も終わった。


俺は、ゲートへと足を踏み出す。



《『ラロック・アイス』に移動しました!》

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