新たな出会い

仕事も終わり、今日もEFO。


早くEFOをしたいと思うせいか、仕事のスピードがかなり上がっていっている気がする。


いやあゲームの力は凄いな。元々のやる気がないからとか言ってはいけない。


ネットを見れば、早くも多くの『EFO』動画が上がっているようだ。


エリアボスの倒し方解説、PVP、ギルド勧誘、ペット?のモフモフ動画……様々な動画が次々上がっていっているな。凄い数。


ゲーム界隈では今人気一番と言われる程だし。動画の再生数も中々。


動画サイトのゲームカテゴリーでも恐らく一番人気だろう。


このゲームに自分が参加していると考えると、何だか胸が熱くなってくるな。



《始まりの町でログインしました!》



俺は、どうやら始まりの町の方にログインしたようだ。


昨日はエリアボスの方で落ちてしまったからな……


どこでログインするか分からなかったが、これだとまたあっちに向かわないといけないか。



《始まりの草原に移動しました!》



よし、さっさとエリアボスの方へ行ってしまおう。


ダッシュダッシュ!



《エリアボスに挑戦しますか?》



あれーおかしいぞ。


一回倒したらもう倒さなくていいんじゃないのか……


いやもしかして、実はあの後新しいエリアに行っとかないと駄目だったとか?



「あーあ、しくじった」



自分の馬鹿さ加減に嫌になる、もうちょっと考えてから落ちろよな。


……取り合えず、色々と補充しないとな。


ナイフもかなり投げたせいで耐久値かなり減ってるし。



《始まりの町に移動しました!》



おかいものおかいもの。


アイアンナイフを10本購入、古い耐久値の無いものはNPCに投げ売る。


当たり前だが耐久値が低いと買値は低くなる。……恐らくプレイヤーの製造品とかは、修理して使うんだろう。


毎回買って買ってだと追い付かないだろうしな。


スタミナエキスは取引提示板で投げ売りされていた為かなり安く手に入った。


そしてMPポーションをありったけ買う。HPポーションはまあ、今の一本だけでいいか。


……所持金全部無くなっちゃったよ!



「……はあ」



雑貨店の屋根の下、俺は深いため息を一つ。



「そういや聞いたか?エリアボスをソロで倒した奴が昨日現れたって」


「おいおいマジかよ!案外余裕なのかな?」



こちらに向かって歩いて来る2人のプレイヤー。何か俺の事で話しているみたいだ。


まあ直ぐに俺の記録など塗り替えられる事だろう、MMOのランキングの上塗りスピードは半端じゃないからな。



「……っと、すまん。いやいや!あんなの無理だって!俺も――」



熱く語る一人へとスリ発動、そして成功。全く気付いてない。ちょろい。


おお結構持ってるな。2000azlゲットだぜ!


話題料としていただきます。



「……――」



俺が内心でガッツポーズをしていると、前にローブを深く羽織ったちんちくりんの影が居た。


名前と顔は見えない、俺の元へふらふらと更に近付いてきて……怪しすぎる。


というか、こんな距離になって、視認するまで全く分からなかった。


気付いた時にはもう、俺のすぐそこだった。怖。リアルアサシンか何かか?


まあいいや。全く警戒してないフリしとこ。警戒は最大限にするけど。


「!」


予想通り、そいつは俺の元にぶつかった。


そして……


《†十六夜†がスリを貴方に発動し、失敗となりました》


あーあ。というか失敗したら名前もバレるのか……これは結構キツいペナルティだな。


いい教訓になった、ありがたい。


「あ、あ……」


怯える様子で固まる小さな身体。


なんか俺が悪いみたいになってね?


「おい、お前」


俺がそう呼び掛けると、震えながら顔を上げる。


ローブで隠れていた顔は、その身体に相応な、小さい『少女』の顔だった。


茶色の前髪で目が隠れているが、凄く無垢な少女っぽい。何でこんな子がスリを?


「う、は、はい……」


怯えるように、返事をする少女。


別に取って食おうって訳じゃないんだから。



「イカした名前だな」


「……え?」



†(ダガー)と、『十六夜』というセンスの良い言葉選び。


しかも記号と名前のバランスも良く、かなり格好良い。


昨今はこういった記号の名前を中々見ないからな……


その名前に免じて、今回は許してやるか。まあ女の子だし。ゲームだけど可愛いし。しょうがないなあ。


こんな可愛い子が、カオリと同じ性別なんだぜ?信じられない。



「はは、許してやるって言ってんだ。……後、スリを発動する時には相手をまず観察しろ。バレないように、自然にな。相手がこちらに気付いたなら、直ぐに止めておけ」


ぽかんとした表情の少女に、俺はアドバイスをしてやる。『同業者』として。


この先、スリに失敗する相手が俺みたいな奴だけとは限らんからな。


「え、えと……観察、自然に……引く時は引く……」


必至に覚えようとする少女。何だか、そのちんちくりんの姿と相まって母性本能ならぬ父性本能がくすぐったい。


「お前、盗賊か」


「は、はい!僕なんてまだまだですけど……」


やっぱり盗賊だった。


「十六夜、だったよな?もし何かに行き詰ったら、俺に言って来ていいぞ。俺もお前と同じ……『盗賊』だからな」


俺はそう言い、フレンド登録を飛ばしておく。


同業者のフレンドは、出来るだけ持っておきたいからな。


「……そ、その、僕、貴方にスリしたのに……何で、そんな事までして貰えるんですか?」


うーん、まあ確かにちょっとやり過ぎな感じもするな。まあいっか、ゲームだし。可愛いし。最後の一番重要ね。


「――気にすんな」


それだけ、軽く笑いながら言って俺はこの場を去る。


あらちょっとカッコよくなーい?




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