極振りと極振り

〈ブルースライム level11〉



「まずは、あいつから行こう。手順はまず、お前が魔法で先制攻撃。後は俺がモンスターを引き付けておくから、敵の隙が見えたらその槌で叩いてみろ」


カオリは筋力極振りだ、残念ながらタンクとしては全く活用できない。この見た目なのに。


俺がヘイトを稼ぐタンクとして、カオリはアタッカーとして。


何、当たらなければ大丈夫だ。当たったら死ぬけど。


「俺が死んだらお前も道連れだ。出来るだけミスんなよ」


「はい!よーし――」


あ、大事なこと忘れてた。


「――ちょっと待て!身体強化魔法と筋力強化魔法使えるか?」



俺がそう言うと、カオリもはっとしたような表情を見せる。



「……あ、私も忘れてました!これ、凄いんですよ、身体強化!筋力強化!」



カオリがそう唱えた瞬間、橙色と赤色のオーラが現れカオリの身体を包んでいく。


ただでさえゴツい身体が、オーラのせいでより強調されてんな……


「よ、よーし……それじゃさっき言った通りに。行けるか?」


俺は若干カオリの身体に圧倒されつつカオリにそう言う。


「はい!」


ああ、良い返事だ。


「ファイアーボール!」


カオリは魔法陣を作り、やがて弱々しい火の玉がブルースライムへと飛んでいく。



〈ブルースライム level11 アクティブ〉



あ、当たった……分かっちゃいたが、ダメージ1もないんじゃないのこれ。



「行くぞカオリ。アタッカーの仕事は敵に突っ込む事じゃない。ダメージを受けず、かつダメージを与える事だ。気を付けろよ」


「は、はい!」



ブルースライムに向かって歩きながら、俺はカオリへとそう告げる。


要するに、『死にに行くな』って事だ。まあ大丈夫だろう。



「『疾走』!」


スキルの発動と共に、俺はナイフを片手に突っ込む。


声に出したのはノリです。


「――!」


水の塊を飛ばすブルースライム。コイツの攻撃を避けるのも慣れたもんだな。


避けながらチクチクとナイフで攻撃。チクチクするたびに怒っているのが分かる。


いやあイライラするよな、自分の攻撃が通らず、敵の攻撃は何故か全部当たるんだから。


「は、はやい……」


後ろで感嘆の声を上げるカオリ。


ふふ、これが敏捷極振りの力よ。……そして次はお前の見せ場だ。


俺はチラッと目配せする。


「……!」


ハッとするカオリ。


「――!――!」


煽るようチクチクする俺にブルースライムは必至だ。当たらない水鉄砲程悲しいものはない。


ヘイトはもうMAXに近いかな?


こんな状態では、横から近付いてくるバケモノには気付かないだろう。



「――えい!!」




《レベルが上がりました!任意のステータスにポイントを振ってください》


《小刀スキルのレベルが上がりました!》





分かっちゃいたが、本当に一撃で終わってしまうとは。ダメージボーナスのおかげだろうか。


視覚外からの不意打ち……考えただけでふらっとしちゃうな。


まだ始まりのエリアの雑魚とはいえ、俺達の格上何だけど。



「よくやったカオリ!お前アタッカーの才能あるぞ」



俺にヘイトが十分貯まるまで我慢して、そして横から叩き込む。


カオリは俺の思っているより、戦闘を分かっているな。



「へへ、そんな……へへ」



恐らくこのゲームで褒められた事がないのだろう。顔と身体に似合わな過ぎるニヤケっぷりだ。


本当に、見た目とステータスだけだな、厳ついのは。



「お前はもう立派な俺のPTの一員、よろしく頼む」



俺はカオリの肩を叩きながらそう言う。


「へへ、は、はい!」


照れながら良い返事をするカオリ。


まだまだ、ゲームは始まったばかり。



「よーし、それじゃ狩りまくるとするか!」


「はい!」





―――――――――――――――



 《レベルが上がりました!任意のステータスにポイントを振ってください》


《レベルが10に到達しました!職業ギルドで職業を変更できます!》


《疾走スキルのレベルが上がりました!》



「ついに来たか……この時が」


俺は、声に出して言っていたようだ。


「へ?」


不思議そうにそう声を出すカオリも、しょうがないだろう。


しかし、こればっかりはしょうがない。


何たって最初の目標のレベル10を達成したのだから。



「ありがとな、カオリ。お前のおかげで凄く早くレベル上がったぞ」


背を伸ばして、相棒の肩を叩いてそう言う。


実際、カオリの馬鹿みたいな火力は凄く役立った。


一発で終わらない時もあったが……それでカオリが死ぬなんて事はなく、俺の追撃で終わる事が多かった。


二人のパーティになった事でモンスター一匹当たりの経験値は減ったが……


俺がヘイトを稼ぎまくって、アカリがその間にダメージを稼ぎまくる。


敏捷極振りと筋力極振りの夢のコラボである。



まあそんなわけで、恐ろしい勢いで狩りが進んだのだ。



「へへ、どういたしまして!」



良い笑顔だ。そういやカオリはどうなったんだ……?


「あ、そういえば私もレベル10です!一緒ですねー!何か職業が選べるみたいです!スキルも一杯上がっちゃった!」


鼻息を荒くして喜ぶカオリ。何だかんだで結構魔法も使ってたからな。最初の釣りにだけだが……


恐らく槌スキルも取得しているだろうし、俺以上に成長しているのかもしれない。


「お互いレベル10とはめでたいな。さて……俺はそろそろ落ちないと」


メニューから時計を見れば、もう日付が変わる前だ。お楽しみは明日にとっておこう。


昔のように無茶は出来ないからな……危ない危ない、こんなのが学生時代にあったら大変な事になっていた。


「はっ……もうこんな時間に」


俺が時計を見ると、カオリも時計を見て、驚きの声を上げる。


「はは。楽しい時間は過ぎるのが早いってもんよ。街に戻ろうか」


「はい!」



《『始まりの町』に移動しました!》



「よーし、PTも解除して、と……」



《カオリ様とのPTが解散されました》



「さて、じゃあなカオリ」


「あ!あの……また、PTを組んでもらっても」



俺が落ちようとすると、カオリは俺を呼び止めた。


心配そうに、俯きながらそんな事を口にする。


おいおいそんな顔するなよ、ちょっとドキッとしちゃったじゃないか。



「ああ。明日は暇か?お前の装備を見てやるよ」



そういやカオリは全裸だったな。俺がじっくり付き添ってやろう。


んん……?日本語を正しく使ったはずだが、おかしな言葉になってんな。



「……はい!」



俺はカオリが顔を上げるのを確認し、『ログアウト』を押したのだった。



―――――――――――――――――



ベッドに寝転んでいた俺は、ヘッドギアを外し……電気を消して再度寝転ぶ。


フレンドと遊ぶMMO、久しぶりの感覚だった。



おやすみなさい。明日もログインしなきゃな、約束したし。



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