新しい仲間

俺達は『始まりの草むら』エリアを出て、『始まりの町』エリアに戻る。


メニューから持ち物、マップを開き……俺はカオリと話せる静かな場所を探した。


このマップは見た目は紙のマップなんだが、自身の位置やパーティーメンバーが表示されていたり、ピンを付けれたりメモを付けたりも出来る。


「……ん、こことか良さそうだ。カフェは大丈夫か?カオリ」


カフェが嫌いな奴なんて稀だが……まあ一応ね。


「はい!えーっと、そこならあんまり人が居なさそうでいいですね!」


俺がそう問うと、カオリは俺の開いているマップをのぞき混んでくる。


「え、このマップ見えるのか?」


「……?はい!」


おお……このマップ他人からでも見えるのか。


当たり前といえばそうだが……本当にリアルに近いんだな。


昔はわざわざチャットでマップ情報を送ってたりしたんだけどなあ……進化したもんだ。



――――――――――――――――


俺達は、始まりの町の中心から少し離れた喫茶店に足を運んで……いま、注文を終えたところだ。


「お待たせしました、ご注文のホットミルクとコーヒーで御座います」


俺達の頼んだ注文は、一瞬でこちらに届く。おいおい真心込めて作ってんのか?インスタントでもこんな早く作れねーぞ。


まあゲームだしなあ……


お値段は100azl。安い。


「……さて、まずは自己紹か……って何泣いてるんだ?」


見れば、カオリがホットミルクを飲みながら涙を流している。


顔がえらいことになってるぞ……



「わ、私、今までずっと、私を見るなり避けられ続けてて、それで……こんな、フレンドと一緒に、こんな風に過ごせる事が凄く嬉しくて……私……」


復讐相手を倒した時の様に、嬉泣きをするカオリ。


そのガタイでプルプルと震えるせいか、机が軋んでいる。


ああ、コップ割れた……これも商品の内だろうし大丈夫か……他に客が居なくて助かったわ。



「はは、そっかそっか。それでカオリのステータス、確か筋力にしか振ってないんだっけ?」


「……ぐすっ、はい……」


涙を拭いながら、カオリはそう答える。


「私、現実世界では凄くひ弱で……ゲームだったらと思って、強い人みたいに筋肉一杯付けちゃおうと思って、でも折角ならこんな世界だし魔法も使いたいなって思って、でも筋肉付けるからには筋力値に振らなきゃと思って……」



つらつらとカオリは語った。


うん……結構カオリは欲張りだな。


見た目に対してステータスを振るのはまあ分かるぞカオリ。


「なるほどな……それで納得しておこう。それで、スキルは?」


確か最初に6つ取れるんだっけ。


「 ステータスオープン、えっと……あ、これで出来るのかな?自身の情報を全て公開……対象はこれで……えい、これで見えますか?」


《カオリ様から、『名前』『ステータス』『スキル情報』『装備』『所持品』『所持金』『取得称号一覧』があなたに届きました》


カオリの独り言が終わると同時に、インフォが頭に響く。長っ!


別に俺に悪意はないんだが、こういうのって普通は他人に全部公開しないよな……本当にカオリはゲームをしないみたいだ。


視界の上に現れたビックリマークの表示を押すと、自分のステータスかのようにカオリのステータスが表示された。


□□□□□□□□□□□□□



プレイヤー名:カオリ


職業:冒険者


level8


HP 1000


MP 100


筋力値 38 

知力値 10

敏捷値 10

器用値 10

精神値 10

体力値 10



ステータスポイント:残り0ポイント



skill:


剛力level3 水魔法 level1 風魔法level1

火魔法level2 身体強化魔法 level2 筋力強化魔法 level1 


装備:


武器


右手:

左手:


防具


頭:  

体:

手: 

足:

靴:


装飾品:






所持品:『始まりの町』マップ HPポーション(小) 始まりの杖 アイテムボックス(小)

所持金 :5000azl



取得称号一覧




□□□□□□□□□□□□□□□


全裸じゃねーか。その身体が装備ってか?


……他にも色々突っ込みたい。やけに充実している魔法スキル、何故か半分近く減っている所持金。


ちゃっかりレベルアップ分も筋力に振ってるしな。



「それにしても……お前、杖持ってたんだな」



まあ魔法を使うなら買っていてもおかしくないが。


……もしかして。



「はい、でもその、知力値が足りなくて……」



うん、思った通りだ。


初心者シリーズも一応ステータスによる縛りはあるからな。


俺も極振りである限り、中々装備に縛りが出来てしまう。まあそりゃそうだけどさ。



「だよな。それでお前は将来的に、どういうキャラにしたいんだ?」



俺はそうカオリに問う。



「……その、魔法もある程度使えて、かつこの身体で敵を一掃して皆を守っちゃう、そんなキャラにしたいなって」



……うん。要は魔法職で攻撃職で防御職までこなしたいと。


キラッキラの顔でそういうカオリさんは、本当にゲームをあまり知らないんだろう。


「どこまで欲張りなんだお前は。はは、何処ぞのお嬢様か何かか?なんつって……ん?」



瞬間、カオリの顔が固まる。



……え?



「あ、あはは、まさかそんな。取り合えず私はどうしたらいいでしょう?」


作り笑いをしながらそう言うカオリ。


その目と口を見れば、マジで焦っているのが分かる。


……うん、ネトゲでリアルの詮索はNGだろう。俺も別に知りたいわけじゃないし。



「ああ、そうだな……俺が決める事でも無いんだが、お前がそうなりたいって言うならまずは魔法をある程度使っていこうか。無理そうならまあ変えていきゃいい」



俺は、水魔法や火魔法には全く興味がない。筋力強化魔法、身体強化魔法……この二つに注目しているんだ。


本人は強くなれそうだから取った感じだろうが、かなりいい選択だろう。


というか今すぐにでもアタッカーになった方が良いと思うが……まあそれは本人が決める事。


「はい!」


「うん、いい返事だ。ゲームってのは自由。なりたいキャラが変わって行く事もある……そうなった時は迷わずそっちに突き進め!」


熱血先生ばりに、俺はクソ静かなカフェでそう叫ぶ。


俺も幾多のゲームを通して、盗賊キャラに落ち着いたんだ。


「わ、分かりました!」


戸惑いながらも頷くカオリ。特に初心者プレイヤーはかなりその傾向がある。当たり前だけど。


「よし……早速始まりの草むらに戻るぞ!」


「おー!」



《コーヒーの効果により、これから一時間スキル経験値が1%増加します》


店から出ればそんなインフォが響き渡る、幸先が良いな。



「カオリ、お前は――なんかお前、ちょっとデカくなってね?」



本当に少しだが、何かその、胸筋の辺りが成長したような……



「あは、分かりますか?何かさっきのミルクで筋力値が一時的に増えたみたいです!」



そう自慢げに言うカオリ。


幸先良い……のか?




――――――――――――――――――


《『始まりの草原』に移動しました!》




「……何か、私達が行こうとする道、避けられてるような。まあいっか」



そんな事を、ハテナマークを浮かべながら呟くカオリ。


コイツ、天然なのか?



「なんか前よりごつくなってね?怖え……」

「初めて生で見たわ、すげえ威圧感」

「つーか横で平然と話してる男は何者なんだよ……よくあんなの組めるな」



奇異の目と、俺達に対する周りのプレイヤーのひそひそ声。


それにしても凄い……対象に聴覚を集中するイメージをすれば、本当に小さな音も聞こえるようになるのか。


いやあVRMMOはすげえや!


「~♪」


呑気に鼻歌をしているカオリは、この声は恐らく聞こえていないだろう。


そういや彼女はこの見た目だが、メンタルが弱い……人から避けられ続けて、初めて会った時は泣いてたんだっけな。


……うん、この周りの声は彼女を傷付けるかもしれない。何より、俺はこういう周りから見られている状況が大の苦手だ。



「カオリ、ちょっと試して欲しいんだけどさ」


「はい?」


ちょっと強引だが……良いだろう。



「モンスターと戦う前に、ちょっと新しい武器を試してみないか?」



俺がそう言うと、カオリは困った表情をして口を開く。



「……?良いですが、杖以外は何も武器のスキル取っていないですよ?」


そう言うカオリに、俺は笑って答える。


「大丈夫だ、きっとカオリなら扱える。とりあえず装備してみてくれないか?」


俺がこんな自身満々にこう言えるのは、確信があったから。


メニューからトレードを選択し、対象プレイヤーをカオリに。


狩りをしていて手に入れた物の内の一つ。どうせNPC売りだしあげちゃう。


「分かりました。これは『初心者の槌』……ハンマーですか?えっと、取得する、と」



恐らくカオリには、今俺が渡そうとしているアイテムが移っているんだろう。



《カオリ様とのトレードが成立しました!》



インフォが鳴り響く。戸惑いながらもカオリは俺の贈り物を受け取ったようだ。



「ああ。どうだ?装備出来るか?」



俺の半身ほどある柄に大きな頭部の着いた木のハンマーを、軽く持ち上げるカオリ。


「は、はい……杖は出来なかったのに……」


……当たり前だバカ。筋力値に極振りのカオリには、寧ろ軽すぎるぐらいじゃないか。


嘆きながらそれを装備するカオリは、物凄く似合っている。


俺なんて持てすらしないんじゃないの、これ?



「よーし、……取り合えず、それで思いっきり地面をぶっ叩け!」


「……え?え、叩けばいいんですか?」



困惑するカオリ。まあ確かにちょっとおかしいな。


「ああ。ハンマーの攻撃方法は、取り合えず敵を叩く事だ。今は敵がいないからな。地面でも叩いて練習しとけ」


もっともらしい俺の言葉に頷くカオリ。全然間違っちゃいないし。


まあもう一つの意味もあるんだけどな。


「目の前にお前の嫌いなモノがあると思って……筋肉をフル活用するイメージで、それを潰せ!」


「……は、はい!分かりました!」


良い返事と共に、カオリはハンマーを大きく振り被る。


これは……離れとこ。



「うー、よいしょ――えい!!!」



大きなハンマーの頭部が地面に触れた瞬間、轟音が鳴り響く。


ハンマーを持ち直すと、叩いた跡がくっきりと地面に残っていて……その威力を物語っている。



「うん、百点だ」


これ以上筋力値を上げてしまえば、カオリはどうなってしまうんだろう。


凄く見てみたい。



「……おいおい、何だよあれ」

「あれ絶対俺らに対しての……聞こえてたのか?」

「に、逃げろ!この距離なら逃げられる!」



離れていくプレイヤー共。威嚇作戦成功だ。



「……」


黙ったままのカオリ。何やらハンマーを見つめており、頬が赤い。



「ハンマー、良いですね!魔法も良いですが、私、こういうのも好きかもしれません……教えて下さりありがとうございます!」



満点の笑顔で、俺にそう言うカオリ。……何か、少しだけドキッとした。疲れてるんだろうか?



「おお、そうか……よし、それなら槌も取り入れて一狩りやってみるか!」


「はい!」



俺達は、待ち受けるモンスターに向かって歩き出した。

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