盗賊(見習い)


「おはよう……」



俺が朝ご飯を作り、机に配膳していると立花が降りてくる。


「おはよう、また寝不足か」


「ふふー、これぐらい当たり前だって。最初が肝心なんだよ、VRMMOは!」


全くけしからん。ゲームに現を抜かすなど。俺が言えないけどな。



「あ!そういえばお兄ちゃんまた提示板に上がってたよ!誰あの人!」



また俺晒されてたのか……いつだ、カオリと狩っていた時かな。



「いやあお兄ちゃん人気者だねえ、嫉妬しちゃうなあ」


ニヤニヤしながらそう言うカオリ。俺がそういうの苦手と知って言ってるぞコイツは。


「ったく……今度見たらキルしてやろうか」


「怖いよ!」


それにしても全く気付かなかった、潜伏スキルでも持ってるのかね。


「冗談だよ冗談、早く食えよ間に合わんぞ」


「はーい、あ。そういえば……EFOって膨大な職業があるんだけど、お兄ちゃんはどうするの?」


立花は、ふいにそんな事を口にする。


立花はサモナーだったか、そういや俺もレベル10だけど……どうやったら職業を得られるんだろうか。


「ふふ、お兄ちゃんPKしたんだっけ?三人も?」


俺がぼーっと考えていると、いたずらな笑みを浮かべてそういう立花。


「……何だ?」


「私も聞いただけだけど……ああー!学校行かなきゃー」


わざとらしく演技して、立花は出ていく。


あいつ……まあいい。今日ログインしたらなんかあるだろ。


ちなみに俺はあまり攻略は見ない派だ。ハマっているゲームは特に。待っていろよ盗賊!


――――――――――――――――――――



仕事も終わり、夕食も終えて。


……そうだ、つまり。


「ゲームだ」


もうすっかり生活の一部である。まあいっか。


立花のせいで期待が止まらん。今日はちょっと早めにログインしちゃった。


《始まりの町でログインしました!》


《EFO運営からのメールが届いています》


《カオリ様からメッセージが届いています》



俺がEFOの世界に降りると同時に、そんなインフォが鳴り響く。



まずは運営メールだ、何々……お、HPポーション10個か、助かるな。


それでカオリは……


《「えっと……エックスエックス漆黒エックスエックスさん!またログインしたら教えてください!」》


長い!


名前、どう呼ぶか教えてなかったな……はは、分かってるっての。


フレンド欄を確認すれば、カオリは始まりの草原にいた。


えーっと、メッセージはどうやって――



「おい」



突如、後ろから男の低い声が聞こえる。


カオリではない、でもあの見た目だとこの声のが合ってるな。


あれ?もしかしたらカオリかもしれないな。



「カオリか?」



俺は振り向き様、そう言う。


「違う」


あ、そうすか……


見れば、そいつは長く黒いローブに身を隠して降り。


『如何にも』な、その恰好。


決定的だったのは、他のプレイヤーと違う、『NPC』だという事を示す、水色の名前欄。


俺の中で、一つの答えが輝く。



(――職業イベント来た!)



悪いカオリ……少しの間、待っててくれ。


「ああ?何だテメエは」


あ、これ俺ね。


俺は『その世界』の住民っぽく振るまう。楽しい。


「俺の名は明かせない。お前が我らと同じ、闇の世界へと足を踏み入れるのなら教えよう。さあ、来るか答えろ。無論、来なくてもお前に危害は加えない為安心して良い」


ああ、確定だ。


《――選択してください――》


何時ものインフォの口調とは違う、選択を迫る言葉と共に、『はい』と『いいえ』が俺の前に現れる。


ダークインフォさん?



勿論『はい』、だ。



「そうか。なら心の準備が出来次第、このアイテムを使い転移しろ」


何とも気持ちの悪い笑みを浮かべ、名も知らぬNPCは俺に黒く輝く結晶のようなものを手渡す。



「それでは、待っているぞ」



そう俺に残し、そいつはどこかへ消えていく。


いつか来るとは思っていたが、レベル10で来るとはな……てっきり何かの職業に就いてから派生職で来ると思っていたよ。


どうしよう……カオリとの約束もあるんだが。いや、これは約束優先だ。



「……ログアウト中、か」



飯落ち中か、フレンド欄を見たら居なかった。


……うむ。


居ないのならしょうがない、ささっと終わらせてしまうか!



俺はアイテムボックスから結晶を取り出し――どうやって使うんだこれ。


《???へ転移します。よろしいですか?》


手に取って俺が迷っていると、頭にダークインフォさんがそう問う。はーい!



―――――――――――――――



気付けば俺は全く違う場所に立っていた。マップを開いても表示されず、???しかない。


暗い空間、壁に飾られた不気味な武器、そして酒場のような場所には、悪そうなNPCが一杯。


いかにも、ここが闇の世界って事を主張するかのようだ。



「……来たか」



俺のすぐそばに、先程の声の主が居た。


「ああ。で、俺はどうなるんだ?」


「お前はこの場所に足を踏み込んだ……つまり、我ら闇ギルドの一員となる」



『闇ギルド』、か。分かりやすいなほんと。


一体何が出来るようになるんだろうか。楽しみ過ぎてヤバい。



「そして、我らの一員となるに辺り……お前に合った『職業』を与えてやる」


「俺はその職業を選べないのか?」


疑問に思い、俺はそう質問する。選べるのなら選びたいし。


「今のお前は……一つしか選択出来ないようだ。もしこの職が嫌というのであれば、また出直してくるがいい」


うん、多分ステータスやスキルが影響しているんだろう。まあいいや。


「そっか、それでその職業は?」


さて、どうなる?


「……お前に与えられる職業は……『見習い盗賊』だ」


み、見習い……いやしかし!盗賊だぞ盗賊!


俺が待ち焦がれていた盗賊だ。


《『見習い盗賊』に就きますか?》




迷わず、『はい』だ!


《おめでとうございます!新しい職業『見習い盗賊』を取得しました!》


《『見習い盗賊』を職業に登録しました!》


《『見習い盗賊』になった事で、職業専用スキル『スリ』『ピッキング』を取得しました》


《称号【闇の住人】を取得しました!》


《闇ギルドのクエストが5件追加されました!》


うわあなんか一杯出たぞ……スリにピッキングっておっかねえな。



《闇の職業についての説明を見ますか?》



『闇の職業』、カッコいいぞー!


インフォさんの声に舞い上がる俺。


見よう見よう。


《闇の職業は、プレイヤーをキルする事やその他様々な『悪行』を働く事で見合ったポイントを得られ、上限値に達した際にレベルが上がっていきます》


悪行っておい。まあでも分かりやすいな。


《しかしながら、モンスターを倒す等これまでのレベルアップ方法でもレベルは上がっていきます。ただし上位職に転職する場合には、悪行をある程度働いておかなければなりません》


一応従来のモンスター倒すとかでも経験値は入るのか……まあそりゃそうか。


流石にきつ過ぎるし、俺はそれでもいいけども。


《また、その悪行が失敗となった場合、ペナルティを受けます。失敗後反撃等で死んでしまった場合は、更に追加で重いペナルティを受けて頂きます》


……ペナルティ、ね。まあそりゃそうだよな、じゃなきゃやり放題だし。



《以上で説明を終了します》



終わった。さて、どうしよう。


実感全然沸かないけど、俺はもう盗賊なのよね。……ああ、見習いですはい。



《カオリ様からチャットの申し込みが届いています》



俺がそんな事を考えていると、インフォが鳴る。


ああそうだ、カオリとの約束だったな。

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