回避

《???様との決闘に敗れました》






「……負けたか」






気付けば、俺は、空を見上げていた。




初めての正々堂々とした勝負が、黒星で終わってしまうとはな。






「いやあ、惜しかったよ漆黒君」






甘いマスクのまま、夜はそう言う。




ああ、何でだろうな。凄くその表情に腹が立つ。






「慰めの嘘なら要らねー。お前、まだまだ『手』があるだろ」






最後、武技を放とうとした時。




本当に惜しかったと言うのなら、あの余裕の顔はあり得ない。




俺が偽装という切り札を出したのにも関わらず、俺は最後まで……この男の切り札を引き出せなかった。






「……さあ、それはどうかな」






ニコやかな顔のまま、含みを持ってそう告げる夜。




はいはい悔しい悔しい。あーあ。






「フフ、少なくとも――君との勝負は非常に楽しかったよ。これは本当だ」




「はっ、そっか」






楽しい、か。




俺は立ち上がり、夜と向かい合う。






「完敗だ、夜。俺も楽しかったぜ」






《決闘専用フィールドから離脱します》






――――――――――――






身体がラロックアイスへと戻る。






「……さて。ギルドの皆が呼んでいる。ありがとう漆黒君。良い時間を過ごせたよ」




「はは、ギルドマスターは忙しいんだな」






まったくだ、と笑う夜。カリスマ性が漂っている。


ギルドなんてのは全く情報を知らないが――


この男のギルド、一体どれだけの規模なのやら。








「最後に。――漆黒君は、このゲームの事をどう思う」




「……は?」






変わる雰囲気。




唐突すぎて頭が追い付かない。




「完成度が高すぎるこの世界。そして私にある、『魔法の才能』。私は――不思議で仕方ないんだ」




……EFOというゲームは、完璧だ。突如現れた、新星のフルダイブVRMMO。




これまでに似たようなVR物は出ていた。が、ここまでの物は全くに現れておらず。




完成度も高く、あらゆるプレイヤー層がこのゲームにのめり込んでいる。




実際、EFOが現れてからは殆どのVRゲーが過疎っているのだ。






文字通りの『仮想世界』。




バグなんて聞いたことがない。メンテナンスも殆ど無い。




そしてこの男が言っていた『魔法の才能がある』というのが、意識過剰でも何でもない唯の真実であるとしたら。






……なんてな。






「まるで、『もう一つの世界』に入り込んだみたいだろう?」




「はは、変わった考えをお持ちで。残念だがこれは『ゲーム』だ」






もちろんログアウトも出来るし、ゲームのステータス等がある、これはれっきとした『ゲーム』だ。




俺はそう思っているし、この考えが変わる事もないだろう。




VRという技術が進んできている今。100年前にこのゲームが出ていたら信じるかもな。






「これはゲームだ。俺は心の底からそう思っている。それ以上でも以下でもない」




「フフ、そうか。いやいやすまない。昔からこういった物語が好きでね。ちょっとからかってみたくなったんだ」






悪戯に笑う夜は、軽くそう言ってのける。




ったく……






「君は本当に面白い。それでは。君とはまた闘うような気がするよ」






そう言って去っていく夜。






……本当に、不思議な男だった。








―――――――――――






「ふう」






あの男と闘って分かった、俺の課題点。




『回避』。




『制御』。




この他にもいっぱいあるけども……取り合えずこの2つ。






回避に関しては、以前から感じていた。




俺はスピード頼りの行動が多い。




回避がそれだ。スキルを使わず、俺のDEXによるスピードだけで行ってきた。




それを続けていれば、いずれそれが通用しない敵も出て来る。というか出てきたねさっき。




より洗練された回避術を得る。それが第一の目標。






二つに制御。




俺の早すぎるスピードを制御出来るようにしよう。以上。




まあ言ってしまえば加減すればいいんだが、それでは面白くないし、俺の敏捷が勿体ない。




極限のスピードかつ、そのスピードを最大限に活かしていきたいのだ。






この2つは、夜に対する課題でもある。




それだけ悔しかったってこった。完敗だったからな。




「さて」






俺の課題は見つかった。




そして、この課題をクリアするには実戦の中からキーを見つけていくしかない。




頑張るぞー。そうと決まればスノウフィールドへ。






――――――――――――








スノウフィールドまで歩く途中、イメージを膨らませる。




手に持つナイフ。これで防御ってのもやっぱ無茶だよなあ……




『攻撃は最大の防御』。古代から語り継がれる戦闘の諺だ。




攻撃回数を高め相手に何をさせ無くする事は、結果としては自分の身を守る為とも取れるとかなんとか。






『攻撃』と『防御』、戦闘では常にこの二つが行ったり来たり。




夜との戦闘では、基本俺が『防御』側だった。攻撃のターンが来たのは、本当に最後の一瞬だけだ。




そりゃ負けるわ。ずっと翻弄されてたし。




遠距離との戦闘は、本当に距離を縮めるまでが辛い。そこを何とかしなきゃな。



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