回避②




「ファイヤーランス!」






俺のレベル帯の場所まで移動した所、ソロのプレイヤーを丁度見つける。 




丁度遠距離職の魔法使いだ。見た目は男、青年よりかは少し年を取っている見た目だな。




考えても仕方がない、とりあえず実戦。見た所一人で余裕そうに狩ってるし、弱くはないだろう。








「よっ」






懐のナイフを、魔法使いへと投げる。




「っ!フェード!」






反応した。同時にスキルか何かで一瞬で距離を取る。






「……何だ?当たっていたらどうする」






当てるつもりだったんだけど。




それにしてもそんなスキルあったのね、また一つ夜の余裕の訳が分かった気がするよ。




魔法使いにとって距離を詰められる事は死へと繋がる、それを防げるそのスキルはかなり有用だろうな。






「ほら、かかって来いよ」




「そうか……なら何故ここへ来ない?お前盗賊だろ」






笑ってそう言う魔法使い。




確かにその通りだな……でも近付いたら練習の意味がねえ。






「それじゃ、『卑怯』だろ?いいから魔法でも何でも打って来いって」






口が避けても「練習台だから」なんて言えないわな。






「……はあ?ったくやっとPK職が釣れたと思ったら……」






呟きながら、俺の方を向く魔法使い。






「舐めんじゃねえぞ――ファイアーボール!」




「っ!」






俺でも使った事のある、基本のキのファイアーボール。




どうしてそんな魔法を――なんて考えは、文字通り『一刻』も立たずに知ることになる。






「早え!」






詠唱などまるで無いかのような、発動スピード。




夜以上だ――焦るな、これは絶好の練習台だろ!






「――ファイアーボール!ファイアーボール!」






ファイアーボールの連打。




此方に息を付かせない、魔法の連続攻撃。




俺の目の前へ飛んでくる火の連弾は、中々に迫力満点だ。






「――っ」






いざ、真剣に立ち向かうと正直怖い。




リアルでデカい火の玉でも飛んで来たらどうする?逃げるよな。




俺の頭に教え込ませる――これはゲーム、恐れるな。当たっても死にやしねえよ。




目を逸らすな、しっかり観察しろ。




『逃げるんじゃない』、『避けるんだ』。






「……」






ゆっくりと、魔法をしっかりと見据えながら歩く。そして――飛んでくる火の玉の軌道を予測して、ワザとギリギリで避ける。




魔法から目は絶対に背けない。やる事は簡単だ、観察して、魔法の軌道上の外へ前進すればいいだけ。




慎重に、かつ大胆に。人混みの中を、優雅に前進するように。そんなイメージで。






「んな――」








見えたのは、減少していない俺のHPと、驚いた表情の魔法使い。




どうやら成功したようだ。






「――ファイアーボール!ファイアーボール!ファイアーボール!!」




詠唱の連続。




火魔法に向かって、ゆっくりと前進する。




意識すればこんなにも違うとは。スピードが早いせいで気付けなかった。その片鱗は今まで何回か体験しただろうにな。




敏捷は、どのゲームでも回避率に影響する様に。




避ける、という行動に、敏捷値は大きな恩恵を与えてくれる!






「ありがとな、なんか掴めた気がするわ」






意識して行うと、本当に簡単に、気持ちが良すぎる程上手く回避出来た。




コツは攻撃を怖がらない事。当たるか当たらないかの瀬戸際を見極め、ギリギリで避ける事。




回避がこんなに癖になるとは。いやああっと言う間だった。熱中し過ぎたな……




「ひっ――」




気付けば、目の前に魔法使いが居る程。




最後の火の玉が俺のすぐ横を通った所で、俺はナイフを振りかざす。






「スティング」




「フェード!!」






ナイフの武技を発動すれば、また魔法使いは距離を取る。




そりゃそうだよな。避けなきゃ死ぬんだから。






「……ま、参った!俺の負けだ、勘弁してくれ」






手を上げる魔法使い。




……降参か。まあいいや。




「ごめんごめん、ちょっと練習したかっただけなんだ。んじゃ」




別に今はPKが目的じゃない。




俺は特に奪取なんかもせず、次の練習相手を探すべく踵を返す。






「……何もしねえのかよ、良く分んねえなあ……」






今の相手は初歩の練習として100点だった。




恐らく一番避けやすい魔法であるファイアーボールの連打。




回避のコツを体感する上では本当に素晴らしい敵だったな……感謝ですね。






「ふう」






後は実戦を繰り返してモノにする。




俺のステータスなら……回避を極めれば、かなりの武器になる。




よーし、やる気が湧いてきた!この調子で頑張ろう。






――――――――――――








あれからモンスターやプレイヤーで回避の練習を続け……気付けば、時計の針が二を刺していた。




思い返せば中々に暴れた気がするな、取り合えず練習台になりそうな奴には喧嘩吹っ掛けたし。




……まあいっか!俺の名前が真っ赤になっているのも気にしちゃいけない。




PKぺナルティなんて気にしちゃ、PK職なんてやってらんねえわ。




唯一つご理解して欲しいのは、俺は一度もキルしていない事。




どうやらPKペナルティは、挑んだ段階で着くみたいだな。




《ラロック・アイス・シティに移動しました!》




そんなこんなで逃げ続け、無事帰還。








「そろそろ落ちるか……」








……そういえば、立花が今日でテスト終わりとかなんとか言ってたっけ。




カオリも戻ってくるだろう、レベル上げ手伝ってあげなきゃな。








そんな事を考えながら、俺はログアウトを押したのだった。

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