決闘③

俺は最初の地点に戻り、そう挑発する。






「……ハハハ!楽しませてくれよ!漆黒!」




「ああ」






ポケットに手を突っ込む。……大丈夫、入ってんな。










夜とのお喋りのおかげか、疾走スキルのクールタイムは終了している。






俺は両手を地面に付け、腰を下げる。右足を後ろに屈み、前傾姿勢。




前は見ない。見るのは地面。




俺の知っている、最速のスタート姿勢だ。






「シャドウ・ナイフ」




詠唱を開始する夜。




「疾走!!!」




同時に俺は疾走を発動する。




そしてその発動と共に、スタートを切る。




前を恐れず、足を前に、力強く。




「――っ、早え」




初めてだ、こんなスピードは。




まるで矢。方向転換なんて出来やしない、ただ真っ直ぐに。




だが、これで上等。




「勝負を諦めたか!」






聞こえる、夜の声。




確かにそうだろうな。恐らく今、俺の心臓めがけて魔法のナイフが生成されている。




避けなければ死ぬ。






だが――避けなければ、お前の追尾は意味がないからな。




そこを突く。まずは一発入れる。その後の事は1mmも考えない。思考の邪魔だ。








「俺のナイフは――食らっといた方がいいぜ」








加速し続ける身体のまま、ポケットに仕込んだナイフを両手に持つ。




勝負を賭けた投擲を、放つ。






「そんなもの――私の魔法が弾き返す!」






前を見れば、魔法のナイフが飛んできていた。




胸目掛け飛んでくる。恐らくこのままでは確実に俺のナイフを弾き、俺の心臓に当たる。




綺麗な二枚抜きの完成って所か……




敵ながら天晴なコントロール。








――だが、それでいい!






「終わりだ、漆黒。……シャドウ・ナイフ」






夜の完璧なコントロールは、俺のナイフに目掛け飛んでいく。




追撃の夜の魔法が詠唱を完了すれば、俺のHPはゼロだ。




勝利を確信してる所、悪いんだけどさ――






「――何だと!?」






それ、『ナイフ』じゃないんだわ。




『割れた』ナイフから、赤色の液体が空中に飛び出していた。




『ナイフに化けたHPポーション』が、綺麗に裂ける。






「ぐっ!!!」






その後俺の胸を刺すナイフ。




止まらない。俺はこのまま走る、ここを逃せば終わりだ!




あの液体が、空中に留まっている内に。






「っ――うめえ!」






HPポーションへ顔ごとダイブ。




身体がポーションを飲み込んでいく。


そして口からも追加で。




二本のHPポーション全て飲み干すなど無理だ、『少し』でも回復すればいい。




こういうのは、浴びても回復するのが定番だ。そしてその定番は、このゲームでも適応されていたらしい。






「……なるほど、『偽装』か!」






……『私の攻撃を二発でも食らえば、綺麗に死ぬ』、そう言ったよな。




回復していく身体で、俺はスピードを落とさず突っ込んでいく。




一割でも回復すりゃ――話が違ってくるだろ!






「――っ、やられたよ!」






トップスピードの俺の身体は、夜のすぐ傍まで持ってきてくれた。




「ぐっ――!」




そして直ぐに夜の追撃のナイフは、俺の身体を突き刺す。



だが――――




……俺はまだ、死んじゃいない!






「だから、『食らっとけ』つったろ――スティング!」






武技の発動。




流石に詠唱完了直後。カウンターも追加攻撃もない。




存分に、やっと攻撃を食らわせられる!














《状態異常:沈黙となりました。一定時間スキルの発動が無効化されます》












「――――っ!?」




瞬間。俺の身体は――動かなくなった。




武技を発動させたと思ったら、発動していなかった。




脳が混乱している。……攻撃しなくては。今しかチャンスなんて――






「がっ!!」






俺は、夜の杖に殴られ飛ばされる。




「惜しかったな、漆黒」




そう、呟くように俺に言う夜。



「敵わねえわ……」



反転する風景。



呟く直後。


共に、俺はHPがゼロとなった。






《???様との決闘に敗れました》

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