決闘②
《戦闘を開始します》
告げるアナウンス。両者動かず。
油断はしない。
この男からは、俺の『魔法職』の考えが、覆されるような気がしたからだ。
「……来ないのか?」
夜は笑ってそう言う。
俺は出方を伺ってんだ……詠唱を開始した時点で、一気に飛び込む!
「一つ。自惚れた事を言おうか。私には魔法の才能がある」
……何言ってんだコイツ。
そう口から出かけたが、その反応を見透かされているような気がして止めた。
この男は、一体何なんだ?
「何が言いたい」
「フフ、ただの戯言と受け取ってくれ。さあ――やろうか!」
表情が一変する。
攻撃します、と顔に書いている様だ。
「シャドウ・ブレード……」
「――っ!」
夜の詠唱。俺はその瞬間に走る。
スタートダッシュ、その後魔法陣がどれ程進んでいるか確認する為、夜の方を見た。
魔法陣は――
「ダブル」
――既に、完成されていた。
いくら何でも早すぎる。
今までの出会ってきた魔法職とは段違いだ。
詠唱の名の通り、剣を象った黒い魔法が二つ、直進してこっちへ飛んでくる。
「よっ!」
走りながら、開いている片手でポケットのナイフを投擲。
取り合えず相殺出来るか見ておく。
「まじか」
「そんなモノ、効くわけがないだろう」
俺のナイフはまるで玩具のように弾かれた。
勢いも全く無くなっていない。
『意味がない』。そういうことだろうな。
……まだ、慌てるには早い。
落ち着け、これを回避して一気に飛び込むんだ。二つといえど、俺ならいけるはず。
疾走スキルは使うか?いいや、疾走はまだ……これ位の攻撃なら避けられるだろう。
魔法が俺にぶつかるギリギリの距離で横に跳び避ける。これで行く。
「っと!」
タイミングを見極めて。
距離を縮めながら、俺は飛んでくる魔法を避ける為跳んだ。
「……よし!」
HPバーは減っていない。避けるのに成功した。
喜んでいる暇など無い。夜は詠唱をしている様子もなかった、今は手薄なはず――
「――!」
猛烈な嫌な予感。
逃げろと、俺の脳が知らせている。
「――嘘だろ」
命令に従い止まることなく後ろを向けば、避けたはずの黒い剣が――こちらへ戻ってきている。
物理法則を無視した軌道で『直角』に曲がり、スピードを上げこちらの脳天へ。
だが、気付けた。逃げられない距離ではない。走ってこのまま夜へと突っ込むぞ!
「シャドウ・ブレード」
夜の容赦ない追加魔法。
「ダブル」
「だから早いんだって!」
襲い掛かる黒い剣。
前方二本・後方二本。このままで避けきれるのか?
迷っている場合ではない――使う!
「疾走」
瞬間、俺の身体が、足が軽くなった。
――行ける。
疾走スキルにより前方からの刃を右へ走って避け、そのまま夜へ走る。
後ろから追ってくる感覚は消えていた。
行けるぞ――剣は、このスピードなら余裕で引き離せる!
「シャドウ・ナイフ」
――束の間の希望が見えた瞬間、次に現れたのは剣ではなく、ナイフだった。
夜の詠唱の後現れた魔法のナイフが、こっちへ飛んでくる。
明らかにスピードが剣よりも早い。
距離が近い事もあり、こちらへ届くまでは一瞬だ。
射線から避けるべく足を動かす、が。
「くっ――」
乗り過ぎたスピードで、方向転換が出来ない。
疾走スキルの欠点は分かっていた――そのスピードで、自身のコントロールが取れない事。
いずれ……この『速さ』が、俺に扱えなくなる次元まで到達する事。
冷静さを欠いて、俺はその欠点が頭から完全に飛んでいた。
「――っ!」
方向を変えるのは不可能。そう判断した俺は接近を諦め横に跳んだ。
じゃないと確実に食らうからだ。
普通ならこれで終わり――だが。
後ろを向くまでもなく分かる。『帰ってくる』ナイフの感覚を。
無理な大勢のせいで着地したせいか、思うように身体が動かない。
走らなければ、逃げなければ――間に合わな――!
「――ぐっ!!!」
バランスを崩しながら、地面を転がり回り回避。
「……流石に、食らうよな」
足への痛覚。
ナイフは俺の足先に突き刺さっていた。
幸い場所が場所なだけ、軽傷で済んだ。……軽傷といっても、HPは二割減っているが。
「フフ、その速さが君の武器か。足元で済んで良かったな」
追撃に備えた所で、俺にそう話す夜。
……今攻撃すりゃ終わってたろ……
完全に、俺はアイツの手のひらの上ってことか。
「ったく、チートかよ、あんたは」
「……褒め言葉として受け取っておこう」
夜の追尾してくる魔法は、本当にチート並の強さだ。
盾を持たない俺にとっては、厄介すぎる。
「……ふう、いつまで待ってくれるんだ?」
俺が立ち上がり、構えなおした所で夜は微笑む。
「君は、私の攻撃を二発でも食らえば綺麗に死ぬ。……次は外さない。策が無ければ君は一分も無く死ぬだろう」
策があるかないかで言えば、無い。
が。
「だから、どうした?」
夜の言葉の意味は分かっている。『諦めろ』。
分かっていた。
分かった上で、笑ってそう吐き捨てる。
「――やろうぜ、『最初の場所』からな。見逃してくれた礼だ」
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