決闘

「私と闘わないか」






唐突に突き付けられたその言葉。




どうやら本気らしい目でそういうイケメン……夜とやら。




俺と闘いたい、本気でそう思っているようだ。






「……急に、えらい事言うよな。どうしてだ?」






その真意が分からない。






「その言葉の通りだ。君と闘いたいと思ったんだよ」






ニコやかに笑顔を見せ、俺にそう言う夜。




……これは、聞くだけ無駄か。




まあ、いいか。PVPは嫌いじゃない。






「いいぜ。やろう」






俺はOKを出す。






「そうこなくては!形式は決闘か実戦かどっちがいい?」




「二つあるのか」




俺はてっきり決闘だけかと思っていた。




このゲームの決闘はまだしたことないけどね。






「ああ。実戦形式は実際にPK可能エリアで行うものだよ」




ふむ……それはそれで面白そうだな。




だが。




「……うーんんじゃ、今回は決闘形式でお願いしようかな」




実際に現地に行くのも面倒くさいってのもあるが。




このゲームの決闘がどんなものか気になったからってのが一番ですはい。






「そうか。いやあ一本取られた。僕は実戦の方が得意でね」




「別に俺はどっちでも――」






正直、俺はどちらでもいい。




そこまで強い理由はない、ただ見てみたいってだけだしな。






「いいや。『君が決めた』んだ。早速やろうか」






コイツが話すたび、いちいち言葉に重さを感じる気がする。




本当に分らん奴だな……




「そっか、なら決闘で。すまんが決闘は初めてでさ、どんなもんか教えてくれないか」




俺がそう言うと、夜が驚いた顔をする。




「……初めての形式を選んだのか、変わっているんだな君は。まあいい、決闘ってのはな……」




驚きながらも、俺にルールを教えてくれた。






決闘。一対一のPVP。






闘う場所は専用の場所があり、一方が決闘の申請を行い、もう一方がその申請を受けた時、両者その場所に飛ばされる。




決闘ルールは特にないが、アイテム使用可否・時間制限有無などなど色々条件を設定出来る。




その設定を見た上で申請の許可は行うようにした方がいいらしい。当たり前っちゃ当たり前だ。




……あと、ちなみに決闘中使ったアイテムは決闘前に戻るらしい。おとく!




使えるのは対戦開始前十秒のみ。スキルによるバフも同様。ドーピングしまくって勝ちとかは無いという事か。




ここが結構実戦と違う所だな。




恐らく奪取やスリで奪っても無駄って事にもなりそうだ。




そして、レベル差があろうと強制的にステータスが低い方に両者とも補正される為安心のシステムだ。




ただしスキルとか装備の追加効果とかはどうしても優劣が出るので、そこはまだEFOのアップデートに期待ということで。




一応スキルのダメージも補正させられるらしいが、やはりまだ平等とは言えないらしい。






「という感じだ。どうだ?」




「ああ、大体分かった」






まあ条件次第ではほぼ実戦か。




「なら、早速やるとしよう。ルールは?」




「任せるよ」




「そうか、分かった……君にはこのルールが一番かな」






《???様から決闘の申請が届きました。受諾しますか?》






……名前表示がないって事は、やっぱりコイツはPK職か。




まあいい、少し楽しくなってきた。




はい、と。








《決闘専用フィールドに移動します》






――――――――――






「……まさに、『決闘』って感じだな」






中世のコロシアム。




大きい。




この言葉だけで説明は足りるだろう。




観客は全然居ないけどね。




暴れても全く問題なさそうだわ。






両者の距離は、20m程。




移動不可。まあそりゃ距離が近付けれたら圧倒的に近接職が有利だしな。






「ふふ、気に入ってくれたかな。ちなみに決闘のフィールドはここ以外も存在する。ギミックがあるものも有るらしいが……」




「へえ」






このゲーム、本当に力入ってんだな。




……さて。




今回のルールは、全ての要素を許可してある。




アイテム可。回復可。時間制限無し。








何でもありってこった。






「やろうか、漆黒君」




「……ああ」




なんで名前知ってんだよ……というツッコミは入れなかった。




そんな事よりも、夜の取り出した、『武器』に目が言ったからだ。






まさか――魔法職だったとはな。






夜は闇のローブの懐で、隠すように『杖』を持つ。




まるで神にでも祈るような構えだ。






―――――――




魔法職ってのは、PVP……一対一ではあまり強くない。






一つ。基本魔法職は遠距離攻撃だ。近接攻撃はあまり無い。




近付かれたら近接職に大きく分がある。






二つ。防御が薄い。魔法職は基本魔法の為のステータス。防御が薄くなる。




近接職は一方防御が固い場合が多い。両者がぶつかった時、立っているのは近接職。






三つ。『詠唱時間』がある。攻撃に待機時間が必要なんだ。




これが俺は一番大きいと思っている。




当たり前だが隙が出来る。魔法が当たれば良いが当たらなければ最悪だ。






―――――――




まあでもこの男に、俺の常識が通るかは分からない。






《決闘開始まで、10秒となりました》






「……マジック・コントロール……クイック・マジック……」






始まりのアナウンス。




共に、夜のバフの詠唱が始まる。




……俺も、準備しなくては。






鞄から使えそうなものをポケットに詰め込み、






《5秒》






スタミナエキスを口に放り込む。






「……シャドウ・カース」




夜は詠唱を終えたようだ。






《3秒》




残り僅か、敵の観察を。




大胆不敵。此方を微笑みながら見ている。




まるで、楽しみで仕方がないというように。怖えよ。






アイツが……何をするかまるで分からない。




この男が、ただの魔法使いとは思えない。




俺は、ナイフを握りしめる。






《戦闘を開始します》

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