スタミナエキスを求めて

「おにいちゃん?」






見れば、そこには妹が居た。




何言ってんだって感じだが……ここはVRという空間だ。




家族でも見た目が全然違うのなら、初見なら分からないからね。






「……お前、リアルとそんな変わんねーのな」






一目見れば、立花は別人だった。




いつもはショートカットの黒髪が、ロングの銀髪へ。




眼鏡をかけているリアルとは真逆の裸眼。




……後、少し盛ったスタイルね。






とまあ別人要素しかないのだが、顔やら雰囲気やらが立花そのもの。




ある意味VRの恐ろしさを感じるよね。






「ええ……私、結構変えたと思うんだけど。――というかおにいちゃんの方がおかしいよ!!」






いやあいいツッコミだ。




確かに俺の見た目はほぼ同じだからな……




今思えばもうちょっとカッコよくしてもよかった。






「はは、まあな……早くゲームしたかったし仕方ないって。まあ自分の姿なんて見えないし良いんじゃない?」




「良くないと思うんだけど……」






まあ立花は女の子だからな。見た目を気にするのは当たり前だろう。




俺はあんまり気にしないしな……まさかリアルばれとかも無いだろうし。






「というか朝からゲームなんて珍しいね、おにいちゃん?」






にやにやしながら悪戯にそう言う立花。




いや立花こそ――と言おうとしたが恐らく立花はいつもログインしてるんだろう。




だから『珍しい』、なんて分かるんだろう……まったくコイツは。






「ちょっと、取引提示板に登録しとこうと思ってな」




「へえ……ちなみにどんなの?」






……まあ立花だし良いだろう。そんなレアなもんじゃないし。




「ほら、これだ」




俺は、懐のポケットから毒のアイアンナイフを取り出す。




「うわっ何これ……毒々しいね」




「引くな引くな。その通り、毒属性を付与したナイフだよ」




見せたところで、俺は懐にしまう。




あんまり非戦闘エリアで見せるもんじゃないからな。




「えっ……作ったの?」




「ああ」




「……また簡単に言うね、おにいちゃんは……」




呆れ顔の立花。まあ本当に作り方は簡単なんだけどな。






――って、ゆっくり話してる場合じゃなかった。朝ご飯作らないと。




「用も全部済んだし、そろそろ落ちるよ俺は。お前もそろそろ落ちなさい」




俺は立花へとそう言う。




「うー……というか!私もお兄ちゃんと一緒にゲームしたい!」




急に声を大きくする立花。




「いやお前テスト――」




「――終わったら!」




元気良すぎない?




「分かった、分かったから……んじゃちゃんと帰って来いよ。じゃあな!」




俺はなだめるように言って、やっとログアウトを押す。




時間はかなり押している。今日は簡単なやつでいいや。








――――――――――――






「いってきまーす!」




「おう」






無事に朝ご飯を食し、立花を送り出す。




仕事に支障はないようにするが、やはり少ししんどい。




……そうだ、今夜はスタミナエキスを取りに行こう。




終わったらゲームと考えれば頑張れるね!




頑張りましょう。






―――――――――――――――






《ラロックアイスでログインしました!》






時は夜。




ラロックアイスから一旦離れ、始まりの草原へと向かう。




恐らくラロックアイスでも取得出来るだろうけど、敵が固いからね。








《始まりの草原に移動しました!》






〈ホッケウルフ level11〉






見つけた見つけた。




スタミナエキスは、俺の生命線だ。




恐らくスタミナは体力値に依存している……と思う。あとレベルね。




ただまあ、正直死ぬ気でなら5分ぐらいは全力疾走出来るんじゃない?


……と思える程ゲームの身体はスタミナたっぷりだ。




それでもしんどいし。それがこの狼のエキスで解決出来るなら安いもんさ。




液体に溶かせなんて書いてるが、俺は粉のままのが効く気がするのでそうしている。




容量食うしな。粉ならあまり容量を取らないのだ。




―――――――――――――






「kyuuu……」




ホッケウルフが死ぬ瞬間は、ちょっとかわいそう。




リアルなEFOでも、こういうのはかなり抑えてある。だからちょっとで済むんだ。




女の子がキャッキャッと狩りに勤しめているのは、これも結構あるんじゃない?




まあ、一部のサイコは足りないとか抜かすかもしれんが。別ゲーやれ。




お、スタミナエキスゲット。






「……」






俺は、少し考える。




もうちょっと効率化できないか?






「『スラッシュ』」






武技を発動してみる。


やっぱり範囲少ないよな、これ……小刀なんだから当たり前だけどさ。




「『スラーッシュ』!」




次は限界まで横に範囲を広げるイメージ。


別に唱える言葉を長くする必要はないんだろうが、口が勝手に、ね。


結果は……ちょっとだけ広がった。




微妙だが、やってみるか。


適当に転がっている石ころを、ホッケウルフに投げる。




〈ホッケウルフ level11アクティブ〉


〈ホッケウルフ level11アクティブ〉


〈ホッケウルフ level11アクティブ〉




よーし。百発百中。




さあ、おいでおいで。




―――――――――――




最後のホッケウルフが倒れる。




結果として、二匹ぐらいならスラッシュを同時に当てる事は出来た。


しかし……問題はダメージ量だ。与えるダメージが7割程になっている。




二匹同時に攻撃できるチャンスを作るのも結構難しいしリスクがある、狙ってやるもんじゃないなこれは。




「うーん」




リスクも少なく、ダメージの軽減も少ない、かつ安定する……まあ安定なんてのは慣れたらするだろうし省こう。






「……ん?」




何か、俺は勘違いしていないだろうか。


効率を良くするって事は、何も範囲を増やすことじゃない。


一撃のダメージを増やせばいいんだ。




俺は、ナイフの持ち方を変える。


今までは刃を上に順手に持つ、一般的なナイフの持ち方。




それを……ひっくり返す。


『リバース・グリップ』、逆手持ちである。




漫画でよく見るやつね。あと時代劇の切腹シーン。




……逆手持ちとは、カッコいいだけではない。




順手に比べ、斬るというより突いて抉るというスタイルに変わり、超近距離じゃないと碌なダメージが入らない。




しかし間合いに持ち込めれば、順手よりも大きなダメージが期待できるだろう。






「……ふう」






今までなぜ気付かなかったんだろうか、昔、俺が一人、中学二年生の時に嫌という程練習しただろう。




昔は良く漫画のキャラに憧れたりしたもんだし。






――あれ、なんでそれ辞めたんだっけ?




あ、確かその場を親父に見られて――勝手にナイフ使ったから怒られたあげく、『秘密の特訓』を見られた精神的ショックで辞めたんだ。




頭が痛い。黒い歴史は仕舞っておくもんなのに引き出してしまった。




いやしかし、今その経験が生きる時だろうが!




〈ホッケウルフ level11〉




こっそり後ろから至近距離、俺はホッケウルフを上から思いっ切り突き刺す。




「――!!!」




痛そうだ。




ダメージを見れば、普通に不意打ちした時に比べ1.5倍程増えている。




いいね。






「スラッシュ!」






そのまま攻撃を避け、切腹するようにナイフを動かして、ホッケウルフの首にお見舞い……そのままグリグリと。




スラッシュの勝手な応用技だ。説明には斬り付けるだなんて書いていたが、意外と融通が効くようである。






「kyuuuuu……」






あ、死んだ。




前よりタイムがかなり短縮できたようで。






「……うえっ」






スタミナエキスをグイっといく。




相も変わらず不味いな。だが……みなぎってきた。




目の前のホッケウルフが、全員スタミナエキスに見える。






「――さあ、やろうか」






……あ、ヤバい薬じゃないからこれ!

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