優雅な朝にはPKを。
「……もう朝か」
朝五時。目覚ましを止め、俺は起き上がる。うーんしんどい。
流石に就寝時間を削り過ぎたな……しかし今日は金曜日。
これを乗り越えれば土日である。俺にはあんまり関係ないんだが……まあ休日ってのは必要だよな。
「ふう」
目覚めのコーヒーを入れながら、今日のスケジュールを確認していく。
……あ、そういえば昨日の毒のナイフ出品してなかった。
あのまま寝ちゃったからな、ベッドに寝てヘッドギアを着けて――
「……ん?」
何か俺当然のようにVRに行こうとしてませんか?
朝っぱらから何やってんだ俺は……まあいっか!
《ラロック・アイス・シティでログインしました!》
ああそうだ、まだ塗布毒七割残ってたし全部使い切っちゃおう。
《毒のアイアンナイフを取得しました!》
《毒のアイアンナイフを取得しました!》
うんうん。完成。塗布毒さえあれば武器を突っ込むだけだから簡単でいいや。
えーっと取引提示板……
値段は幾らにしようか。前からそこまで供給量が変わっていないと信じて30000azlで。
少し安めだが、恐らく毒属性はそこまで需要ねえしな……これでも材料の元は取れてるからヨシ。
《毒のアイアンナイフを出品しました!》
《毒のアイアンナイフを出品しました!》
一つは俺の懐にね。
早く試し切りがしたいんだが……どうしようかな。
今の時間は……かなり人が少ない時間帯。
「行くか」
俺は、朝の狩場に足を運ぶ。
―――――――――――――――
《ラロック・アイス・スノウフィールドに移動しました!》
うわあ凄い空きっぷり。
EFOのプレイヤー量に合わせてフィールドは馬鹿でかく作っておかげで、かなり空いているように見える。
まあそれでも、サービス終了目前のネトゲ―の100倍ぐらいのプレイヤーはいるだろうけどね。
〈スノウ・スライム level16〉
俺が最初に出会ったのはスノウスライム。
コイツでいいか。
「よっ」
先手必勝。俺は、スノウスライムに毒のアイアンナイフを投擲する。
「――!」
不意打ちだから成功。
まあダメージはそう多くは入らない。が……
〈スノウ・スライム level16 状態異常:毒〉
一瞬紫色のエフェクトが発生したと思えば、こんな文字が追加されている。
一発目から成功とは運が良い。
「――!――!」
タックルを仕掛けてくるが、躱す。
攻撃はしない。経過を見守ってみる。
「……結構減ったな」
状態異常の表記が消えるまで20秒ぐらい。
それで消えたHPは一割程。中々じゃないの?
「っと」
攻撃を避けて隙が出来た所で、後ろに回り込んで――
今度は、直接突き刺してみよう。
ぶすっと。
「――!」
痛そう。えっとダメージは……ちょっと増えた。
やっぱり攻撃方法で結構違ってくるのね。
これは、色々試したい事が増えたな。
―――――――――
「――……」
毒攻めにした所、俺の思っていたよりあっけなく死んでしまった。
強いわ毒。敏捷極振りの俺の攻撃力にピッタリ。
楽しい。
「……」
が。
物足りない。
これで、プレイヤーを襲いたいんだわ。
「あとちょっとだけ!」
もう、俺は止められない。
―――――――――――――
「……意外といるな」
朝とはいえ、やはり人気のゲームは違う。
あちこちで狩りを楽しむ者は多い、のだが殆どソロだ。
実にお誂え向き。
「『ソードバッシュ』!」
片手盾に片手剣。お手本のような近接職だな。アイツにしよう。
「よっ」
コッソリ近付き、俺はナイフを投擲。
が――
「――っぶねえな!」
俺が投擲を仕掛けた途端、その盾で脳天に向かっていったナイフを弾かれる。
ま、まじか。気付かれたか。
……捨てのナイフで助かったよ。
「何のつもりだ」
睨み付ける戦士。いいね、こういう感じ。
返事は要らないだろう。
「疾走」
スキル発動。一瞬で距離を詰める。
「っ!」
焦って盾を構える戦士。
しかしそれは、身体全てを守れる程ではなく。
スピードに怯んだ今の防御態勢じゃ、俺の攻撃は防げない。
「スラッシュ」
空いている下腹から、毒のナイフを突き上げるように斬る。
紫色の、エフェクトが見えた。
「ぐっ――おらあ!」
間髪入れない戦士のカウンター。
なんとか避けきったが……
このゲームはダメージを食らった場合痛みとは言わないまでも衝撃は襲う。
にも関わらず、俺の攻撃を受けても一瞬の怯みしか与えられなかった。
……疾走スキル、発動してなかったら危なかったかもな。
「毒か。小賢しい真似しやがって」
減っていくHPを見ながら、戦士はそう呟いた。その通り。
隙を与えず、俺は向かっていく。
「ソードバッシュ!」
太い青い剣筋が俺に襲いかかって来る。
片手剣の武技だろう、当たれば痛いじゃすまないダメージだなこれは。
当たれば、の話だけどね。
「スラッシュ」
流石に甘過ぎだ。俺のスピードを見れば、余裕で避けられるなんて事は火を見るより明らか。
俺はその武技を避けて、武技をカウンターでお見舞いする。
もらっ――
――『「甘いのはお前だ」』――
カウンターを目前に、戦士は不敵にニヤリと笑う。
まるで俺に、そう伝えるように。
「緊急防御!!」
聞こえた、『盾』の武技。
戦士左胸まで、ナイフが届く直前――戦士の武技がキャンセル。
そして同時に、俺の攻撃へ急に対応された盾によって弾き落された。
「っ――!」
身体が、動かない。
「貰った」
振り下ろされる右腕に、対応出来ずされるがまま。
『パリイ』ってやつか。確かに、完璧なタイミングだった。
見事にやられたな――
「ぐっ――はあ!」
弾け飛ぶHP。残り5割もない。
武技じゃない攻撃でこれか。
もし武技で受けていたと考えたら――恐ろしい。
「降参するか?」
笑ってそう投げかける戦士。
「……まさか」
同じく、笑って吐き捨てる。
……面白くなってきた。
疾走スキル、再度発動。戦士へ向かう。
安易な攻撃はパリイで終わる可能性がある。
慎重に行かなくては。
「よっと」
近距離でナイフを投擲、その後ポケットに『両手』を突っ込む。
そして、飛んでくナイフと同時に戦士の至近距離へ。
「――!」
当然、投擲したナイフを弾かれる。
その隙に俺は突っ込み、ポケットから取り出したナイフで攻撃のモーション。
最初の攻撃と同じ、腹を狙った斬り付け。
俺の攻撃のタイミングは、コイツのPSなら見切った頃だ。
そう、このままならパリイは余裕で決まる。
――お前の想像通り、『ナイフ』で攻撃するのなら。
「おら!」
予想通り戦士はナイフを弾いた盾をそのまま持ってきて、俺の攻撃に対して防御。
しかし俺は掛け声と共に、片手に隠し持っていた――『毒薬』を、勢いづけ戦士の顔面にぶちまける。
「何――」
毒は、摂取する量、方法でダメージが変わる。
顔へまともにぶちまけた今――HPバーが最初とは比べ物にならない勢いで減っていくのが見えた。
加えて、毒液が顔にかかったことによる視界の妨げ。
「スラッシュ」
今度こそ、しっかりと武技をお見舞いする。
「ぐっ――おらあ!」
なんとか防御しようとするものの無意味。
俺の武技は防げても、浸食していく毒は防げない。
そのまま、容赦なく毒はHPを消していく。
後は適当に時間を稼いで終わり。
……勝負あったな。
――――――――――――
《レベルが上がりました!任意のステータスにポイントを振ってください》
《名声ポイントが低下しました》
《PKペナルティ、第一段階が発動しました。貴方をPKしたプレイヤーはPKペナルティを負わなくなります》
「……やるな、お前」
そう言い。消えゆく戦士の男。
強敵だった。毒薬が無ければどうなってたか。
《PKした相手からアイテムをランダムで奪う事が出来ます》
ああ忘れてた、そういや奪えるんだっけ。どうしよっかな。
うーん。今回も別に。『いいえ』っと。……盗賊なのに何やってんだ俺は。
というか。……今何時だ?
「そろそろ戻るか」
時間は朝6時。何時もなら余裕でもう朝ご飯を作り終えている。
……周りはまだ俺のPKに気付いていない。今のうちに早く帰らなくては。
こういう時は――
「……あれ?」
ない。
あれが。
リターンストーンが。
「まじかよ……」
コイツはしんどいな。朝の運動にしてはハードすぎるよ!
って時、ありませんか?
そんな俺には――
には――には……
あれ?
「嘘だろ……」
どこを見てもない。
ちょうど?このタイミングで?不幸すぎないか。
スタミナエキスさえも、俺のアイテム欄から消えていた。
――――――――――――――
《ラロック・アイス・シティに移動しました!》
「はあ」
ぜえぜえ言いながら帰ってきました。
鞄の中身は、リアルにゲームに関係なく出掛ける前にチェックしておかないとな……またやらかしたよ。
時計は6時過ぎを指している。早く帰ろう。
「ログアウトログアウトっと――」
「……おにい、ちゃん?」
ログアウトをする1秒前。
ついに、ゲーム内で妹に遭遇してしまった様である。
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