VS初心者狩り②
「ぐっ――くそ、お前ら何やってる!」
塵となっていく仲間を見て、もう二人は後衛へとそう叫ぶ。
別に後衛は悪くない。もし遠距離攻撃で援護射撃をしようにも、三人が俺を囲む形になっているから邪魔なのだ。
俺がもしこのPTの指揮をするのであれば、下手に敵に突っ込まず、後衛を守る立ち回りをしろと言いたいんだが。
「ご、ごめん。ファイアーランス!」
「ぱ、パワーアロー!」
焦るように魔法使いは詠唱を、弓使いは大きく弦を引っ張りながらそう唱えた。この前見たな。
前衛二人が俺の付近にいる為後衛がフリー、なのに加え詠唱で隙だらけ。
あーあ。
「よっ」
今後衛二人は動けない。元々見越して準備していた両手でナイフを投擲し、当然命中。
攻撃はキャンセルさせた。
「ああもう!『スラッシュ』!」
「『スラッシュ』!……なんで当たらないん――がっ!」
後衛が攻撃失敗となり、次は前衛が攻めてくる。
前衛二人の攻撃は、もうバラバラだ。避けられるのは、俺の敏捷がどうとかいう問題ではない。
簡単にカウンターを決められる。
後衛も全く機能していない。……これはもう、消化試合だな。
―――――――――――――――
後衛は無事全員塵となり、仲良し三人組は悲しい事に後一人となってしまった。
「ぐっ、くそっ!なんで俺達がたった一人の奴に」
嘆くように叫ぶC君。
その答えが分からないのなら、お前らはずっと格上には勝てんわな。
「……逃げんのか?」
後退りする最後の一人に、俺は挑発する。
「ひっ、く、くっそお……」
俺から逃げるか。負けると分かっていても俺に立ち向ってくるか。
……もしお前が後者なら、俺はお前を男として見直し――
「お、覚えてろよ!」
僅かな期待を裏切り、俺から逃げる体勢に入ろうとする。
……ああ、もう、なんかいいや。このやるせない感じ。
いやまあ、分かってたよ。まずそんな熱い野郎なら盗賊なんてやらねーだろうし。
俺だってそうするさ。
そうだ、それでこそお前は俺と同じ盗賊。
ただまあ、どっちを選択しようがお前は死ぬ。
……俺が、手を下さなくともな。
「――んっ!!」
気付かぬうちに背後から忍び寄っていた影に、首元を掻っ切られるC君。
自分を殺めた、その正体も知らぬままあっさりと死んでいった。
……久しぶりだな、十六夜。
《小刀スキルのレベルが上がりました!新しい武技を扱えるようになりました!》
《レベルが上がりました!任意のステータスにポイントを振ってください》
小さなローブから覗かせる顔は、何日振りだろう。
装備を見れば、布装備から全身ローブになっている。より隠密性が上がってそうだ。
満面の笑顔で駆け寄ってくる十六夜。可愛い。
「元気か?というかこっちに来れそうか」
頭を撫でて欲しそうだったので、俺は導かれるまま頭を撫でる。
ああっ手が勝手に!
「えへへ……あ、僕ちょっと前からリアルの方で今忙しくて。もう少しで終わるのでそこからです」
……うーん?なんかまたデジャブな……
ま、まあいいか。
「そっか。いやあこんな所で会うとは思ってなかった」
「はい!ちょっとレベル上げしようと思って来たら、初心者狩りの人達が誰かに次々やられてて……みたらあにきでした!」
本当に凄い偶然でビックリだよ。
「はは、いいタイミングだった。十六夜はまだレベル上げか?」
「うーん、あにきはもうやめるんですか」
「そうだな……もう時間だし落ちようか」
時間は日付が変わるギリギリ。
落ち時だ。
「んじゃ、一緒に帰り……あ、あにきもう次のエリアだった……」
話し出して急に落ち込み始める十六夜。わっかりやすい。
「いいよ。そっちの近況も気になるしな、一緒に帰ろうぜ」
俺は帰るエリア……ラロック・アイスと真逆の方を親指で指し、そう言う。
「!やったあ!ありがとーあにき!」
こちらが笑ってしまう程嬉の感情が溢れている。
ああ、こんな嬉しがってくれるとは思わなかった。
俺十六夜にそんな気に入られるような事したっけな……大丈夫?俺この後大金とか取られない?
「……はは、大袈裟だっての。さて、行こうか」
――――――――――――――
《始まりの町に移動しました!》
そんな事はもちろんなく。
楽しい時間は、あっと言う間に過ぎていく。
って言葉が十六夜の顔に書かれているようだ。
「今度こそ次のエリアかもな、待ってるぞ」
「……はい」
まあ、また今度だ。そんな悲しい顔しないでくれ……
名残惜しそうにメニューを開く十六夜。
「じゃあな、勉強がんばれよ」
ログアウトの瞬間、俺はそう十六夜に呟く。
「――!は、はい!」
驚いた顔の後に、笑顔に変えて消えていく十六夜。
さて、と。
俺も落ちるとするか……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます