昇進ミッション②

「どうすっかな」






とそんな感じで活き込んだのはいいんだよ、うん。


やる気だけじゃ通用しない……それこそそのまま壁をよじ登るなんて出来るわけない。




というわけで。




まず服を脱ごう。






「ふう」






身軽になった所で、改めて考える。




あの家の壁は断崖絶壁ではなく、掴めるところは所々にある。しかし壁をよじ登るには素手だけじゃ辛いだろう。




見た所屋敷は木造だ、ナイフを使えばいけるだろうか?いや、流石にそれだけじゃきついな。




足、足はどうする……流石にナイフだけじゃ辛い。




摩擦力を上げるのなら、何か粘着性のものがあれば良いんだが……流石にそんな都合よく――








……あったわ。






俺はアイテムボックスから塗布毒を取り出す。




スライムゼリーが凝縮されたベッタベタのそれは、靴に塗れば粘着効果が期待されそう。ちょっと勿体ないけど。




……これで、準備は整ったな。






「行くか」




目的の場所まで行こう。




俺は匍匐前進で進んでいく。何があるか分らんからな。






「grrrrrr……」






こわっ。




家の前に、そいつは居た。




大型の厳つい顔をしたお手本のような番犬。






アレに気付かれたらやばいな……




幸い目的の品があるのはこちらから見て家の正面ではなく右。




それでもばれる可能性はある、慎重にいかないとな。






――――――――――






「……ここか」






受け取った地図を見ながら俺は何とかその部屋の下に移動する。




途中ほぼ全裸で動いたせいか匍匐前進でダメージを受けた。痛かったです。まあでもバレないためだ。






ここまでは何事もなく成功、ここからが問題だ。






「さて」






音を立てないように、鞄から必要なものを取り出す。




ナイフ、塗布毒、スタミナエキス。




「……っと」




景気付けに一発入れた後、靴に塗布毒を塗る。微妙にまた残ったな……まあいいや。




いい感じいい感じ。スライムまとめて踏んじゃったらこうなるだろうなって感じ。




そしてナイフ。準備万端。




「やるか」




先ずは、手の届く高さ当たりの壁にナイフを突き刺してみる。




……かってえ。しかし、刺せないことはない。これなら行ける。




ゴールの窓までには5m程度――気合で何とかするさ。






――――――






「っ」






本格的に壁を登り始める。




ナイフを突き立てながら、ゆっくりと確実に壁を這い登っていく。




DEXの恩恵があるのかは分からないが……流石に装備も脱いで、しかもゲームの身体だ、軽い軽い。




足裏の塗布毒も役に立っている。粘着テープが足裏にあるようなもんだ。




音を立てないように、慎重に慎重に……めっちゃ疲れるわこれ。






――――――




10分後ぐらい。




苦しみながら登って行った先に、少し嬉しいポイントを発見。




一階と二階の間ぐらいだろうか、そこには大きな出っ張りが壁から出ていた。




そこの上まで到達した俺は一旦そこで休憩を取る。




休憩と言っても立ったままだけどさ。






「高いな」






俺二人分ぐらいの身長の所まで登ってきた……ちょっと達成感あるね。




登山の楽しさが少し分かった気がするよ。




よーし、後もうちょっと頑張ろう。








――――――――――






「……やった……」






俺は、何とか目的地の窓まで到着。死にそう。




震える手でスタミナエキスを摂取――






「――っ!」




しようとした時。






聞こえる、近付いてくる音が。




間違いない――この窓に何者かが接近して来る。




どうする?逃げるか?どうやって?




――上だ!








「……あら、気のせいかしら……」








……あっぶねー。




その声は、メイドの姿をした女性だった。確認出来たのは少しの時間だけだったが。




窓を開けて外を確認していた為、もしあの窓付近にいたら一発アウト。






で、どう逃れたといえば……俺は、何とか二階の窓付近から少し上の屋根まで登っていた。




あの動き、まるでゴキ〇リだっただろう、我ながら良い動きだった。






「……さて」






今いる場所が屋根なので、かなりゆっくり出来る。




俺は横になって暖かい日差しを浴びた。気持ちいいー。




……あ、落ちないようにね。




こういうのは焦ったら負けだ。




ゲーム的に言えばこの家は少しの警戒状態に入っているはずだから、時間が過ぎるのをゆっくり待ってよう。








――――――――――








「やっべ」






日光浴が気持ち良すぎて、ついウトウトしてしまった。




そろそろ行かなきゃな。






……窓までの壁登りを第一関門とするなら、その窓からの侵入が第二関門だ。




そもそも部屋に人が居たら駄目だしな。




まあ不安要素は上げたらキリが無い。早速行こう。








「よいしょっと」






ひそりひそりと壁を移動していく。苦も無く窓まで到達。


この移動も慣れたもんだ、本格的に不審者が似合ってきたかもしれない。




中に人が居てもバレないよう、片目だけで覗き込み全体を見渡していく。


どうやら人影は見当たらない。先ほどの女性は何処かへ行ったようだ。






さて。




……ここで、俺の運試しだ。




確率は恐らく低い。そう、『窓の鍵が存在しない、もしくは鍵がかかっていない、かけ忘れ』。




この条件をクリアするのに必要なのは、運のみ。窓ってのは扉のように外側に鍵など存在しない。






つまりピッキングが不可能。いくら頑張ってここまで登ってこようが、侵入できなければ意味がない。






頼むぜ、俺のLUK――!!












――――ガチャ、と音が鳴る。






「……」






……うん、閉まってるわ。

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