『ラロック・アイス』編
初めてのスリと値切り。
――――――――――――――――――
《始まりの町でログインしました!》
ふう、今日は何もメッセージなしか。
フレンド欄を見れば、しっかりと立花の名前がある。
レベルは……20、流石。場所は『ラロック・アイス』。
初めて見る名前だ。恐らく次の非戦闘エリアだろう、名前的に。
周りを見れば、初期のプレイヤーは殆どここにはおらず、次の場所に移っているんだろうな。
「今日はどうしよっかな」
呟きながら、俺は歩く。
ああそういえば、『スリ』試してなかったっけ。
「……そうそう、そこであいつがさー」
「えーなにそれー!」
前から歩いてきたのは二人の男女のプレイヤー。何話してんだろ。
一人は片手剣と盾、一人は杖。なんともお手本な二人PTだ。
二人は会話に夢中なようで、近付いてくる俺に気付いていない。
「鴨が葱を背負って来る、か」
そんな事を呟く程、御誂え向きなこの状況。逆に怪しいぐらいだが。
俺は二人の内、男の方にゆっくり近付き……
「っと、失礼」
懐にぶつかると共に『スリ』、発動。
「っとごめんごめん。ああ、んでさ――」
そのまま、男は離れていった。
《スリに成功、1000azl取得しました!》
ちょろい!
恐らく所持金の一割程を奪ったのだろう、結構じゃないこれ。
大金は倉庫か何かに入れとくべきなんだろう、こういうのを考えると。
「……あれ?所持金が減ってるような」
「えーなにそれー!」
不味い不味い。なんかバレそう。
逃ーげよっと。
ありがとな二人組!
「……さて」
すっごい今更だが、始まりの町は様々なエリアがある。
例えば……様々なプレイヤーが集まる大きな公園のようなエリア。
休憩する為、プレイヤーの親睦を深める?為の飲食店や喫茶店のエリア。
魔法師ギルドや戦士ギルド等の職業に関連した建物が集まるエリア。
NPCが経営する防具店や武器店、雑貨店……他にも様々な物品が並ぶ市場エリア。
未だに足を運べていない場所がまだまだ沢山あるのだ。
そして俺は今、その中の市場エリアに居る。
「…………」
屋台も立っていて、俺はそこで串肉や焼き芋を購入し只今頬張っている。無言でただひたすら。
勿論さっき奪った金だ。奪った金で食う飯は旨いかって?極上でございます。
いやあ、ゲームなら幾ら食っても太らないから良いな。
あっあのスイーツも美味しそう。
「おっちゃん、それ一つくれ」
衝動で俺は店に近付き、店主にそう頼む。
「ああ、『トルテ』一つで200azlね」
おっちゃんはそう言い、焼き立てであろうドーナツ型のケーキを紙袋に入れる。
凄く美味しそうだ。
「……150azlでどう?」
直ぐに食べたい欲を抑え、俺は店主に交渉する。
「……150は駄目だな、180だ」
「それでいいや、ありがとな」
値引き成功、と。こんな感じにNPCとの取引もかなりリアルである。
職業商人とかもあるんだろうか。
……ああ、そうだそうだ。市場に来た一番の理由を忘れかけてたな。
「取引提示板は……ここか」
マップを開き、その場所を確認する。
基本ネトゲでは、NPCが売ってくれるモノよりプレイヤーが作製するモノの方が品質が良い。
「やっぱまだ強化品は高いよねー」
「うわ高っ、俺も生産職やってみようかな」
「バカ、あれかなり難しいらしいぞ」
大きな提示板の前では、かなりの人が集まっている。
市場に来るプレイヤーの殆どはここ目的だろうってぐらい。
ある程度近付いて提示板を見つめると、取引画面が目の前に大きく表示された。すげーな。
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【攻撃のアイアンナイフ+1】
ATK+30 敏捷値+25 耐久値100 必要敏捷値:20
強化品・追加効果[攻撃]付与品。
鉄から造られた小刀。
初心者にも扱いやすく、切断、突き、投擲等様々な攻撃に用いる事が出来る。
品質:3
レアリティ:1
製作者:製作一筋!
製作者コメント:練習に使用したものなので割安です!
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小刀のカテゴリを調べて、適当に詳細を見てみたのがこれ。
一目で、NPCのモノとは異なると分かる。
俺の持つアイアンナイフより攻撃力が+10、敏捷値が+5。
しかも追加効果もある……が、一番目に付くのは値段だ。
なんとこれ、30000azl。幾ら何でも高すぎだろ……普通のアイアンナイフ30本買える。
「……ん、これは」
この画面、順序の選択が出来るようで……俺は少し考え、お勧め順から安さ順に並べてみる。
「安いな」
そこには、NPCから買えるような武器……例えば初心者のローブ等ばかりが、捨て価格で売られていた。
恐らくドロップ品だろう、俺も覚えがある。
もちろん売値価格はNPCへの売却価格以上だが、同じものをNPCで買えばこの3倍はする。これはお買い得だ。
これで俺達が買えば売った方にも得、買った方も得で万々歳。
よーし、投擲用にアイアンナイフ、10本程買っておこう。
10本買っても3000azl!安い。
「ふー、良い買い物したな」
流石に多いか、結構アイテムボックスを圧迫してしまった。
これ、何とかして防具に着けれないかな。
「……お」
俺の視界にあったのは、裁縫屋っぽく糸と針の看板が見える。
入ってみれば、NPCの婆さんと数々のお洒落な装備達。
ゲームでもお洒落に着こなしたい人はここにお世話になるのだろうか。
「婆さん、ちょっと聞きたい事あるんだけど」
「……」
言ってみろ、という顔。
「俺の装備に大量にポケット作れないか?これが入るぐらいの」
「……出来るよ、一つ作るにつき500azlでね」
俺がそう聞けば、さらっと婆さんは答えてくれた。
布装備だからだろうか、かなりあっさりだな。
「おー本当か。んじゃ……5個一気にお願いしたい。割り引いてくれるよな?」
「……しょうがないねえ、それじゃ一つにつき450azlだ」
俺は値引きに納得し、革装備を渡す。
「はいはい、これをこうして――」
預かった瞬間に、婆さんは凄まじい勢いで縫っているようだ。
プレイヤーもあんな感じに出来るようになるんだろうか。
「はい、出来たよ。ちょっと不格好だけどいいね」
「ああ。ありがとな。……ああそうそうこんな感じ」
完成品を受け取り着てみれば、俺の思い描いていたようなものだった。
上半身に3つ、下半身に2つ。ちょうど小刀ぐらいなら入るスペース。
「またおいで」
「おう、それじゃ」
店を出て、俺は早速アイアンナイフを5つポケットに入れておく。
アイテムボックスからアイテムを取り出す時には、中のアイテムからいちいち選択しなきゃだめだったからな。
これで大分戦闘の幅が広がったというわけである。
装備も整った、準備はもうばっちりだろう。
……早速、次のエリアに行ってみるとしようか。
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