しばしの別れ

……色々上がりすぎだろう。レベル3つも上がっちゃったぞ。



《PKした相手からアイテムをランダムで奪う事が出来ます》



一拍置いてインフォがそう言う。


これまではこんなの無かったという事は、闇の職業となったから奪えるようになったんだろうか?


……まあいいや。俺もそこまで恨みを持たれたくないしな、別に今回はいりません。『いいえ』っと。



「……お、終わったんですか」


「ああ。お疲れ、どうだったよ?」


呟くカオリに、俺はそう問う。


「あっという間で、その、刺激的でした……」


息を荒くして、カオリは答えた。


「はは、そうかそうか」


これで、『私、こんな事しちゃって良かったんでしょうか……』なんて言ったらどうしようかと思ったが。


うんうん、良い事。



「さて……カオリ、一つ教えてやるよ」


「は、はい」


「今、俺達は何の罪もないプレイヤー共をPKした。俺達はどんな扱いを受けると思う?」


ここは狩り場。しかも最初のエリアとあってまだ人も多い。


「えっと、どうなるんでしょう……」


困った顔をして、カオリはそう呟く。


「俺達は、周囲のこのモンスターよりも悪質な『敵』となる。そして俺達は二人、他のプレイヤーは十数人」



そう、俺達はもう完全に『悪質プレイヤー』だ。



「さて……どうする?」


「ど、どうしましょう、周り全て敵なら、かなり不味いんじゃ……」



心配そうに言うカオリ。



「はは、そう焦んなって。今回は幸運なことに、まだ周りが俺達に気付いてない」


周りにプレイヤーがあまりいない場所を選んだからな。


「と、いう事は……」


「ああ。さっさとずらかるぞ!」



――――――――――――――――


《始まりの町に移動しました!》


《潜伏スキルのレベルが上がりました!》


俺達は何とか、周囲に気付かれず帰る事が出来た 。


途中の草むらを匍匐前進は疲れたが、潜伏が上がったから良いか。


「ふう……何とかなりましたね」


「はは、そうだな。まあ俺が言いたかったのは、PKするプレイヤーだけでなく周囲にも目を向ける事、PK後はさっさとその場を離れろって事よ」



うん、まあ周囲の目がない場所でPKするのが一番だな。


「……な、なるほど」


「はは、ゆっくり慣れていったらいい。悪に手を染めるのなら、周囲は全て敵になるからな。……大丈夫か?」


今更だが、カオリに確認する。


「……へへ、私そういうの大好きなんです。刺激的すぎてゾクゾクしますね」


危ないヤツだなコイツは。


つくづく、こっち側に誘ってよかったと思うよ。


ぶっちゃけ


「そうかそうか、なら何も言う事はない。誘ってよかったよ」


「はい!漆黒さんと会えて本当に良かったです!」


ヘルムをしているのに、満面の笑顔が見える。


やってる事がもっと綺麗ならもっと感動的になるんだがな。


「はは。そっか」


俺は、カオリに笑ってそう言う。


「……ただ、諸事情で今日からちょっとの間ログイン出来ないんですよね。折角色々教えてもらったのに」


カオリは悲しそうに項垂れながらそう言う。


「おう、そうなのか。リアルの事情ならしょうがないさ」


これはゲームだ、あっちを優先して貰わないと困るからな。


「だからその、色々と漆黒さんと離れていっちゃう気が……」


さらに項垂れるカオリ。またそんなん言ってる。


「大丈夫だっての、安心してリアルに打ち込め」


俺はカオリの頭を軽く叩く。


「言ったろ、俺達みたいな奴は周り殆どが敵、少ない仲間を置いてく事なんてしない」


我ながらなかなか似合わない台詞を吐けば、カオリの表情は戻る。


「へへ、そうですかそうですか。『仲間』ですもんねえ、ふふ」


ニヤニヤしてそういうカオリ。まあそういう事にしておこう。


「ったく。さて、そろそろ時間が不味いな」


時間はもう深夜に浸かりかけ。


「はい。本当にありがとうございました。また会いましょう……勉強頑張ってきまーす!」


『勉強』、か。


そう言いながらカオリはEFOから落ちる。


「勉強、ね。俺も落ちるか」


俺はそう呟いて、ログアウトを押した。


―――――――――――――


「おはよーお兄ちゃん!良い朝だねえ」



朝。


新聞でも読みながらコーヒーを飲んでいると、立花が降りてくる。


「今日は早いな。何があった?言ってみなさい」


いつも学校に向かう時間ギリギリの筈が……今五時だぞ、どうなってんだ。


「ちょ……何その目!一週間後にはもうテストなんだって」


……ああ、もうそんな時期か。


「なるほどな、それで朝も夜も勉強すると。関心関心」


「はは、そんな訳ないじゃーん。夜ゲームする為に朝すんの!」



大丈夫かコイツ。ん、そういえば。



「……ああ、カオリもテストだったのかもな」


「うん、カオリ?誰々?誰その子!」


一人言が漏れていたらしい。立花が興味津々に聞いてくる。


「はは、ただのフレンドだっての。そいつも今日から勉強で忙しいらしくてな」


学生は大変だな。


「ふーん、カオリね。女の子かー、しかも学生かあー」


アレを女の子なんて呼ぶのは逆に失礼だと思うが……


「……大丈夫だよね?」


ジト目でこちらを見る立花。


「ったく何がだ、ほらご飯出来たら呼ぶからさっさと勉強してこい」


俺がそう言うと、カオリは渋々と戻っていく。


さて、ご飯作って……今日も仕事終わったらゲームだ。


俺はテストとか無いからな!


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