11月:おもてなし医療~「聖ルカ病院一日カフェ」

第43話 クロイの企画、シロイの微笑

 あれから一月経ち、十一月になったが、シロイはどことなく元気がない。演技とはいえ、「間抜けな」シロイのふるまいは、いつのまにか部局のムードメーカーになっていて、皆心配していた。たまに微笑んでも、すぐに涙を見せる。


 事情を知っている私も、シロイの落ち込みを憂慮していた。そこで、シロイを元気づけるべく、ある企画が通ったので、彼女を執務室に呼んだ。

「きょーかん、シロイです」

「こちらへ」

 とぼとぼと歩いてくるシロイ。本当に元気がない。それはそうだろう。元の恋人とはいえ、かつて愛した人の二度目の死を見送ったのだ。私は、心からシロイをかわいそうに思った。

「シロイ。企画が通った」

「何の企画ですか~? 」

「『おいしい食事で元気になろう! ~聖ルカ病院一日青空カフェ~ 』だ。メニューの開発とチーフシェフは、シロイ、お前だ」

 シロイの顔が、ぱっと明るくなった。

「それ、ほんとですか~? 」

「ああ、本当だ。お前の料理と菓子作りの腕前を見込んでのことだ。気晴らしにもなるだろう。おいしいメニューを考えてくれ。期間は十一月の中旬ごろだ。うまいものは人を幸せにする。そして、健康にも一役買うだろう。お前にしかできないことだよ」

 シロイは、本当に嬉しそうだった。紅葉のように、白い肌がぽっと上気する。

「ありがとうございます。いろいろ、考えてくださったんですね」

「お前がいつか作ってくれた、爆弾おにぎりの時から温めていた企画なんだ。どうか、これを成功させて、自信を持ち、いつものお前に戻ってほしい。今すぐにとは言えないが」

「お気遣いありがとうございます~ 」

 シロイは、秋の涼しい風のように笑った。

「きょーかんは、お優しいんですね」

「……優しいとしたら、お前にだけだ。リラには断じて見せん」

「なんでリラちゃんなんですか~ 」

 シロイはくっくっと笑い声を立てる。よかった、笑顔をまた見ることができた。

「無理するなよ。いつでも相談に乗る。私も、一応料理はできるからな」

「きょーかんの料理、食べてみたいです~ 」

「いつかな」

 シロイは、それでは、といつものように手をひらひら振って去っていった。

 本当にこの企画でシロイが元気を取り戻してくれたなら。

 私は切に願っていた。


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