第45話 招待は「愛のケーキ」と共に

 カフェは大盛況だった。その日の売り上げが思ったよりも多く、部局長は喜んでいた。この売り上げは、聖ルカ病院の「難病児童支援基金」に回すことにした。これはシロイの発案だ。おそらく、ロートちゃんのような病気の子供のことを考えたのであろう。本当にシロイは優しいな。


 夕方になり、カフェの建物を撤去した後は、皆打ち上げに行った。私も行こうとしたが、シロイに呼び止められた。

「打ち上げの前に、これをどうぞ~ 」

 シロイの小さな手に載せられていたのは、かわいく透明な袋にリボンでラッピングされた「愛のケーキ」だった。

「これが、一番売り上げありました~。自信作です~。どうぞ~ 」

「では」

 私はラッピングをほどいて、ケーキを手のひらに載せて見つめた。


 それは、とてもよい香りのする焼き菓子だった。私は、その香ばしいバターの香りを胸いっぱいに吸い込んだ。菓子は、形が変わっていて、つまみやすい、マドレーヌのような形に焼き上げられている。しかし、中にくるみやレーズンが入っているところを見ると、やはりパウンドケーキに近いと思われる。

 私は、その「ケーキ」を前歯で優しくかじり、舌の上に乗せた。芳醇なバターの香りに、かりかりになるまでローストされたくるみ、質のよい小麦粉に、深さを添えるアーモンドプードル。どれもがシンプルで、厳選素材で作られた菓子だが、いちばんの目玉は、レーズンだ。秘蔵のレシピで、丁寧にラム酒に漬け込まれたそのレーズンは、「ケーキ」に大人っぽさを加え、なによりケーキの生地に溶け込んで、なじみ、よりおいしくなる。このレーズンが入った「愛のケーキ」は、「青空カフェ」オリジナルスイーツとして、そしてその名前から、売り上げが伸びたのであろう。


「シロイ。本当にうまい。ありがとう」

「こちらこそです~。きょーかんのことを思って作ったから、おいしいんですよ~。気持ちのこもった料理やお菓子は、どんなものでもおいしくなります~ 」

 そうか、私のことを思いながら作ってくれたのだな。そして、おそらくはゲルプさんのことも。だが、彼には触れずに、私はただ、

「ありがとう、シロイ」

 と言った。そして、前々から決意していた招待をした。

「クリスマスイブは、予定を明けておいてくれ。私の手料理をご馳走しよう」

「でも、ロートにプレゼントを渡しにいきたいのですが」

「かまわんさ。その後でいい。ささやかなパーティーをしよう」

「はいっ」

 シロイは、秋の澄み切った月のように笑った。本当に、笑顔を取り戻してくれてよかった……。


 我々は、打ち上げ会場へと向かった。奇しくも、「ジェントル執事」であった。






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