12月(最終回):クリスマスイブのサプライズ~二人の未来へ

第46話 クリスマスのデート

 早いもので、もう師走である。私は、クリスマスイブに、手料理をシロイに食べてもらうべく、連日特訓していた。お得意のローストビーフがメインで決まりだ。私の部屋には、幸い電気オーブンがあるので、本格的なものができる。そして、付け合わせにはグレイビーソースをかけた、ヨークシャープティングといきたい。ケーキは、シロイが作ってきてくれるそうだ。楽しみだ。


 部局もせわしない12月24日、我々は定時に仕事を終わらせた。部局長はその乱雑な部屋の大掃除に今からかかりきりで、それとなく手伝いを打診されたが、私は気づかないふりをした。シロイの方が数百億万倍大事だからである。いつぞやの女子たちの比喩を持ち出せば、シロイと部局長は「太陽と素粒子」である。


 エアバス停では、シロイが手をこすりあわせて待っていた。彼女は白衣を脱いで、今日はおしゃれな黒いニットワンピースにブーツ、クリスタルのペンダントをしている。私は近づいて、シロイの手をグレーの温かいグローブで温めた。

「寒いのに、グローブをしないのか」

「いつも片方だけなくすんです~。だから、最近はあきらめてます~。あかぎれがひどくて、ハンドクリームは欠かせないんですけどね~」

 シロイはてへっと笑った。そんなところは、ちょっとした「天然」だ。かわいいな。


 エアバスが停車し、我々は暖かい車内に乗り込んだ。当然、席は二人掛けである。

「ロートに付き合っていただいて、ありがとうございます」

「いいんだ。『パパ』になったしな」

 冗談めかして言ったものの、少々気恥ずかしかった。それは、シロイとの未来を確約するものでもあるからだ。

「ありがとうございます」

 バスの窓から、イルミネーションが見える。

「きれいですね」

「ああ」

「こんなに穏やかな気分で、イブを迎えられたのは、本当に初めて」

 シロイの笑顔が、曇った窓に映った。私は、下の方でそっとシロイの手を握った。シロイも、顔をポインセチアのように少々赤く染めて、握り返してくれた。冷たかったシロイの手は、温かくなっていた。その心のように。


「ロートちゃん、サンタパパだぞ」

 偽造ICカードの提示を済ませ、病室に入ると、ロートちゃんが笑顔で迎えてくれた。今日は三つ編みではなく、髪を下ろしているので、8歳とは見えないほど大人びて見えた。

「パパ! プレゼント? 」

「こら、ロート」

「いいんだ。ちゃんと持ってきたよ。ほら、絵本だ」

 それは、ボタンさんの新作「トナカイのサンタクロース」だった。内容は、トナカイが反乱を起こして、サンタの代わりにプレゼントを配って回るが、トナカイの習性として(?)信号機や標識に妨げられて、なかなか世界を回れずに、そこで堂々とサンタ登場、と相成るわけだ。どんなストーリーだ。だが、ロートちゃんがこれを欲しがっているのを知っていたので、購入してクリスマスカラーの包装紙に包んでもらった。


 果たしてロートちゃんは大喜びだった。

「ありがとう、パパ! 」

「いい子にしているんだぞ。また来るからな」

「うん、これから院内にもサンタが来るの! 楽しみ! 」

「では、そろそろママたち帰るわよ。また来年ね。きっとよくなるから」

「うん! 」

 ロートちゃんは笑顔で手を振ったものの、何かを察知したらしく、私にささやいた。

「がんばってね、パパ」

 私はどきりとしたが、努めて素知らぬ風で笑顔を彼女に向けた。


 

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