6月:シロイとロートーシロイの真実ー
第28話 おもてなし医療「赤ちゃんに心からの祝福を」
早いもので、もう六月だ。今年は梅雨がやってくるのも早く、私は早々に自転車通勤をあきらめて、今はエアカーで通勤している。
今日の私は、なんとなく心が浮立つのを感じていた。
「おもてなし医療」の、自信作ともいうべき計画が実行に移されるからだ。しかも、シロイと私の合作とも言うべき計画だ。喜んでもらえること、間違いなしである。
題して、「赤ちゃんに心からの祝福を ~ワインで将来お祝いを~ 」計画だ。
この原案はシロイが考えた。彼女は、産婦人科で生まれた赤ちゃんと母親の祝福が、もっとうまくできないものかと考えたらしい。
どうもシロイは、病気の婚約女性や、妊婦には特に優しいところがある。それで、私も考えてみたが、こちらは独身男、そうした女性の心理には残念ながら疎いことこの上ない。それでもなんとか頭を振り絞って考え、モモ先輩にも相談したところ、先輩は「生まれ年のワインを何本か贈ったら」とアドバイスしてくれた。なんでも、生まれ年のワインで、人生の節目に乾杯する風習が西の国にあるそうなのだ。
それはいい、と私は先輩に感謝したが、この計画は、先輩が将来ローザとの間に子供が生まれた時のための「とっておき」だったらしい。そんな大切な計画を教えてくれて、本当にありがたいが、ローザとの間に子供……。先輩はあれでも男である。性転換するのか……。
私はローザが気の毒になり、心の中で手を合わせた。「他人事のように」心配である。つまり、他人事なのだが。
それで、その計画をシロイに伝えたところ、彼女は俄然やる気になって、計画書を徹夜で書き上げたということだ。もちろん誤字脱字古語表現の多さは言うまでもないが、そこは私が優しく直しておいた。
恋をすると、こうまで彼女の様々な間抜けな行動がかわいく見えるのか。恐ろしい。というか、恋のメカニズムを解明して、その分泌されるホルモンなどを、難病の精神病などに応用できるのではないか、と考えた時、ヴィオレットの冷たい笑顔が浮かんで、あわてて打ち消した。彼女とも、今後ミーティングが待っている。心底、会いたくない。
「きょーかん、素晴らしい計画ですっ!喜んでもらえること間違いなしですよ~。私だってうれしいですもの~」
と、そこまで言うと、徹夜明けで白い肌にクマができた彼女は、一気にハイテンションから元気がなくなった。
「どうした、シロイ」
「いえっ、やっぱりきょーかんはすごいですね~」
ぱっと笑顔に切り替えたシロイが、明るく言うが、どうもうつろな声に聞こえた。褒められてうれしいが、大部分はモモ先輩の提案である。それは内緒にしておいた。いらぬ誤解をこれ以上招きたくないからだ。
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