4月(2):シロイのお弁当ー病院カジノ化計画!?

第19話 病院カジノ化計画!?

「きょーかん!お弁当作ってきましたよ~」

「そうか。感謝する」

 私が出勤すると、シロイが後ろからちょこちょこと追ってきて、声をかけてきた。

 この「弁当」というのは、先日の約束のことだ。心の傷が開かないように、端折って説明したことは内緒だ。

 菓子作りのうまいシロイのことだ、さぞうまい弁当だろう。

 私は、仕事の合間に何度も時計を見ては、昼を楽しみに待った。


「きょーかん、シロイです~」

「こちらへ」

 シロイが、にこにことランチバッグを振り投げる勢いでスキップしながら入ってきた。どうやら今日は特にごきげんのようだ。

「うれしそうだな。何かあったのか」

「あ、わかります~? えへっ、実はですね、リラちゃんと賭けをして勝ったんです~」

「ほう。あのリラとか。どんな勝負だ? 」

「スロットです~」

 リラとスロット……彼女の行きつけのカジノにでも行ったのか。それにしても、首席のリラは、落ちこぼれのシロイを馬鹿にしていて、この二人は仲が良くないはずなのだが。

「実は、リラちゃんが、『おもてなし医療』の提案で、病院でカジノ経営して、胴元は病院会計にすればいいって言ってくれて~」


 おい! 病院がカジノ……賭博場を開けるわけがないだろうが! そして、そんな胡散臭い話に、お前も乗るんじゃない! 私は、肺が飛び出るような深いため息をついた。

「それで、実際カジノに視察がてら行ってみたんですけど、初めてで、緊張しました~。そうしたら、リラちゃんが、『賭けはやらないと、生きていることにはならないのよ』と言ってくれて~。それで、できそうなものから、スロットを選びました~」

 ……「賭けないと生きていない」なら、病院の治療にはカジノが必要。そういうリラの思考回路が見えた気がする。いや、全然嬉しくない。どうせなら、普段ぽーっとしていて、間抜けである意味何を考えているかわからないシロイの考えが読めたほうが嬉しい……と、私は何を考えている!

「……それで、結果は」

「大勝ちでしたよ~。ビギナーズラックというのかな~。スロットのリールが回っていても、絵柄がよく見えるから、押すのも楽でしたよ~。簡単でした~」

 アルビノで弱視のはずのシロイは、スロットの目押しができるという特殊能力を持っているらしい。弱視で動体視力に優れているとは、今度よく調べさせていただこう。私が眼科医だったなら、研究論文にでもできるかもしれない。

「で、リラは」

「『あなたが勝てるカジノを病院に作る必要はありませんわ。ますます駄目女医になってしまいますもの』ですって~。褒められちゃった~」

 それは、負け惜しみだ。シロイの頭の中は、あからさまな反感をも褒め言葉にしてしまう、魔法の神経回路が走っているらしい。まあ、とにかく病院カジノ化計画はおじゃんでよかった。当たり前だ。


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