9月:身体記憶抹消研究~情報の代償~

第38話 「身体記憶抹消研究」

「転魂」を潰すための情報集めがはかばかしくない中で、九月を迎えた。私は、焦り始めていた。あれから二人の医師たちとミーティングを重ね、次の「転魂」に向けての計画は進んでいるというのに、これを潰す情報が見つからない。


 情報は、主にモモ先輩頼りである。先輩は、それでなくても忙しい中、快く引き受けてくれた。罪滅ぼしなのであろう。一度執刀した医師でなければ分からないことや、ネットワークへの潜入など、先輩にしかできないことが多々あるので、私は、そちらは任せることにしていた。


 そんなある日、モモ先輩から「院内便」が届いた。重要な情報で、メールでは危険なのであろう。開封すると、プリントアウトされた何枚かの書類が出てきた。

「身体記憶抹消研究 聖ルカ医科大学解剖学研究室・生理学研究室共同研究」

 そんなタイトルの書類だ。「身体記憶」とは何なのか。私は、ルーティンワークそっちのけで読みふけった。

 これは、ブラウ長官の「身体」つまり、ゲルプさんの「身体」に残る記憶を抹消するためのものであるらしい。この「記憶」の抹消研究が、医大の解剖学研究室と生理学研究室で進められているのだ。

 それから二通目は、「魂のメス」のありかについてである。これは、「最重要」のスタンプが押されていた。これは、ブラウ長官の執務室の金庫に、「魂の御箱」と共に保存され、「パス角膜」により使用・処分が可能であるという。

 これだけのことが、ようやく分かった。私は、モモ先輩に心から感謝した。これを調べるために、きっと危ない橋も渡ったことだろう。ネットワークに無断で侵入したことが分かれば、犯罪であり医師免許剥奪もありうる。そこまで、モモ先輩は悔いているのだ。

 プリントの最後には、モモ先輩の自筆でメモが添えられていた。

「嫌だとは思うけれど、解剖学研究室のリラに聞いて情報を得なさい」

 私はため息をついた。しかし、この場合致し方ない。すぐに、秘書を通して医大の解剖学研究室にインカム通信を通し、リラに来室するように伝えてもらった。私の肉声では言わない。リラに会うのは、シロイのためである。断じて自分から誘っているように誤解されたくないからである。


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