10年目の真実
典型的なラブコメの出だしを考えてみたよ
続きを書く予定はないよ
――――――――――――――――――――
「おーい! 雫も来いよ」
10歳になったばかりで、顔立ちはまだ中性的な可愛いらしいもの。
蝉の鳴き声が耳に痛いとある山間部の夏の日、来夏は東京から来た雫という名の同い年の子供と遊んでいた。
「む、無理だよぉ〜」
雫は目に涙を浮かべながら抵抗してみる。
色白の肌には蚊に刺されたのか赤く腫れた所がいくつかあった。肩にまで掛かる長い髪は汗で蒸れてべっとりとしている、全体的に線が細い体型をしており出で立ちは少女そのもの、来夏とは正反対だ。
「でぇじょうぶだって!」
「うぅぅ」
雫はおそるおそる木のコブに手を掛ける。来夏はそれを満足そうに微笑みながら見つめている。
足を別のコブに引っ掛けて、少しずつ登っていく。しかしある時雫がふいに「いたっ」という声を上げて手を離してしまったのだ。当然そのままバランスを崩して地面にお尻から落下してしまう。
「うわああああん、痛いよう!」
「おい! 大丈夫か!?」
心配になって来夏が降りてくる。雫に駆け寄り傷口をみる。
指にはそげが刺さっていた。
「ごめんな、1回帰ろう」
「うん……ぐす」
そして来夏は雫の手を引いて家までの道を歩くのだった。
――――――――――――――――――――――
というのが10年も前の出来事。
雫は20歳になった。
「懐かしいな」
スマホの画像欄にあるかつての思い出を眺めながら郷愁にふける。
実はこの後、雫は来夏と出会う約束をしていた。
お盆休みと同時に大学も長期休暇に入ったので、久しぶりにかつての村へ遊びに行こうと思った、それゆえ先日来夏に。
『来週末そっちに行くよ』
というメッセージを送り、来夏からは。
『じゃあ無人のバス停で待ち合わせな!』
と返信が来たのだ。
そして今日がその日であり、雫は胸のドキドキが止まらないでいた。来夏とはメッセージのやり取りをたまにしている程度で(それも近況報告だけ)、10年前のあの時以来一度も顔を合わせていないからだ。
「来夏、元気かなぁ」
等と考えながら、車窓の向こう側を見つめる。風景は既に緑一色だった。
駅に着き待ち合わせ場所へ向かう。
キャリーケースを引きながら、舗装がままならない畦道を歩く。
しばらく歩くと小さな箱が見えてきた。今は使われていない無人のバス停、かつてはそこで来夏と語り合っていたものだ。
はねる気分に呼応するように歩く速度も上がっていく。ふと、人の気配を感じた。おそらく来夏だろう、このあたりには自販機どころか家すらない。それゆえ好んでバス停に行くものはいない。
「来夏、もう来てるんだ。おーい!」
大声でバス停に呼び掛ける。するとバス停にいた人物がぬっとそこから現れた。
ジーンズに体のラインがピタッと浮き出たシャツという姿。
モデルのようにスラッと高い身長、ぷりっと可愛いらしい小尻に程よく実った胸が女性である事を示していた。
ボブカットの髪を揺らしながらその女性が雫の前に立つ。
「えっ? だ、誰?」
「いや、その……来夏だけど。君は?」
「え? 嘘……来夏って、あの来夏!?」
「そうだよ! てか、もしかして……雫?」
「う、うん……ていうか来夏って女の子だったの!?」
かつて、雫を元気に引っ張り回していた来夏、男の子と思っていたその子は女の子だった。
「男と思ってたの? まああの頃は男ぽかったかも。てかさ、それを言うなら雫だって、男だったのかよっていうさ!」
雫はこの10年で身長が伸び、筋肉もガッチリとついて肩もはっている。声変わりも果たして短髪の良く似合う好青年となっていた。
「そうだよ! 男だよ!!」
10年目の真実は両者に驚愕を与えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます