ちょっと不思議な話
私の住んでる街は最近になって治安が悪くなっている。どれだけ悪いかと言われたら、毎週どこかで人が死んでるってぐらい悪い、それも八割は殺人だ。
そんな治安の悪い街で彼と出会ったのは、その治安が悪くなり始めた頃だ。
彼は私が勤めている会社に中途採用で入社した後輩君だ。小柄で可愛らしいというのが第一印象。
半年ぐらい様子を見ていたが、後輩君はよく働く人間だった。サボってる所は見たことないし、研修を終えて有給休暇の資格を得ても使おうとしなかった。
最も、有給休暇に関しては禿げ課長がとるよう命令したので最近使うようになった。
さてさて、前情報はこれくらいでいいだろう。
ここからは私と後輩君の話だ。
冒頭で治安の悪い街と言ったが、ほんとうにそうで、夜出歩くと高い確率で事件現場を目撃する。
後輩君が来てから半年で、なんと月1で警察が非常線を貼っているところに出くわしてたりする、しかも全てにおいて後輩君と遭遇してるのだ。
不思議な話だと思わないか?
ある会社帰りの事、終電逃してとぼとぼと歩いてたら、すぐ近くでパトカーのサイレンが鳴ってたので気になってみてみると、今月二回目となる事件現場を目撃してしまった。
被害者は既に運ばれた後らしく、現場には死体があったと思われる場所にチョークでマーキングされていた。
ふと、キョロキョロと集まっている野次馬の群れを辺りを見回した。するとやはりいた。
「後輩君もいたんだね」
「……先輩、酷いですよね、なんでも被害者は殴り殺されたらしいですよ」
「そうなんだ……あっ、怪我してるよ」
後輩君の手の甲が傷だらけだった。
「さっき壁に擦っちゃって」
「そうなんだ、気を付けないとね……絆創膏あげよっか」
私がポーチに手を掛けたその時、野次馬の一人とぶつかってよろめいてしまう。何とか転げずにすんだが、ぶつかった時に金具にひっかけたのか、私の手も怪我してしまった。
「うぅ、痛い」
「気をつけないとですね」
「はい」
それから私と後輩君は仲良くなったと思う。
一ヶ月ぐらいすると、同僚から「付き合っちまえ」と煽られてしまうぐらいに。
まあ、私も満更じゃなかったけどね。
「ほほお、満更じゃないと」
「うるさい」
「はいはい、今日どうする? どこか呑みに行く?」
「う〜ん、やめとく」
残念ながら今日は仕事終わったら趣味に没頭すると決めているのだ。すまない同僚、許せ。
ちなみに私の趣味だが。
ブシャーーー!!
切り裂かれた部分から血液が噴きでる。切られた人間は絶望の表情を浮かべながら倒れていく。
画面の向こうで行われる惨劇を見て私のテンションはハイになった。
そう、私はスプラッタモノを観るのが好きなのだ。飛び散る血、切り刻まれる身体をみるとテンション上がる。
なんてことを人に言ったら間違いなくドン引きされることだろう。
絶対言えない、言えない。
そんな趣味の時間を謳歌してる時でも事件は起きたようで、コンビニへおツマミを買いに行くと遠くからサイレンの音が聞こえてきた。
またかー、等と思いながら帰路につこうとしたら、サイレンが聞こえてきた方角から後輩君が現れた。
「先輩、今帰りですか?」
「ええ、後輩君はこの辺りに住んでるの?」
「いえ、僕はまだこの街に慣れてないので散策してました」
「ふ〜ん」
「それじゃこれで、それと先輩、フランクフルトを食べるのはいいですが、ケチャップには気をつけた方がいいですよ」
「え?」
「服についてます」
「ああ!!!」
迂闊!! 私としたことが!!
それからまた二週間後、私はまた趣味のスプラッタモノを見ていた。
スマホの画面に映し出される人物は拘束されて地面に転がっている。この人はこれからズタズタに引き裂かれ、真っ赤な血潮を撒き散らして絶命した。その残酷なまでの姿を見ると非常に胸が高鳴る。
決して理解されないだろうけどね!!
そんな時だ、またサイレンの音が聞こえてきた。それもすぐ近くでだ。
そして案の定、後輩君が現れた。
「そこまでにしてください。先輩」
冷たく言った後輩君の後ろから、鈍い足音をたててゾロゾロと警官が現れて私を取り囲んだ。より正確には……私と、地面に転がっている死体をだ。
「あーあ、バレちゃった」
不思議な事もあるものだ。
どうやら後輩君は警察でもないのに独自に事件を調べ、私にアタリをつけて捜査していたらしいのだ。
何故彼がそんな事をしたのか、どうやら私が彼の婚約者を殺したからだそうだ。
不思議な事もあるもんだ。
もう少しスプラッタなモノ観れると思ったのに。
仕方ないから、自分のお腹捌いてみようか。
そう思った私は、持っていた包丁を自分のお腹に刺して、手を突っ込んで内蔵を引き摺り出してみた。
とっっっっっても!! 胸が!! 高鳴る!!
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