超能探偵団


「殺されたのは三上恵みかみめぐみ17歳、僕達と同じクラスの女の子だ」

「ああ」

 

 6月10日の夕暮れ時、その日は朝から強い雨が降っていたからか少し肌寒かった。放課後のHRが終わっても雨が止まない時はぐったりしたぐらいだ。

 だから油断していたんだ。友人の阿笠あがさと一緒に下校しようとした時、不意に、そう不意に、学校の屋上を見上げたらそれが目に入ったんだ。

 

「死因は、首の索条痕から察する限り絞殺で間違いなさそうだ。まあこれは僕達が目撃したから当然といえば当然だね」

 

 全く淡々と言ってくれる。

 そう、俺達は下校しようとした時、屋上で同じクラスの三上が何者かに首を絞められてる光景を目撃したんだ。

 

「制服に乱れは無いね、争った形跡はないから犯人は友人かな」

 

 そう言って阿笠は三上の胸元やスカートをガサガサと探り出した。

 

「おい、何してんだ!」

「落ち着きなよ……ふむ、とくに証拠になりそうなものはなさそうだ」

「お前女の子の……その、胸を触るのはよくないぞ」

「君は初心だねぇ、所詮は死体、ただの物さ。それとも君は死体に欲情する変態なのかな?」

「ちっげぇよ!」

 

 雨は未だ激しく降り続いており、傘を強く打ち続けていた。そろそろ靴の中がぐしょぐしょで気になってきた。

 

「なあ、そろそろ先生を呼ばないか?」

 

 死んでるとは言っても、流石に野晒しにするのは可哀想に思えてくる。

 

「まだ駄目だ。誰かが来て証拠を隠されたりしたら三上恵を事が出来なくなるかもしれない。

 それにあまり時間もないからね。そろそろ30分くらいか?」

 

 腕時計を確認する。

 

「見誤りすぎだろ、5分もないぞ」

「それは急がないと、ああ誰か来ても安心するといい。僕のは知ってるだろ?」

「知ってるよ」

 

 そう、例え誰か来ても阿笠がいる限り平気だ。周りからは俺達が見えていないからだ。いや、正確には見えてはいる、ただ認知できないだけだ。

 たとえ視界に入っていたのだとしても、認知できないのであればそれは見えないのと同じ、阿笠はその認知を自由に操れる超能力者なのだそうだ。

 

 おかげで次のような展開になっても問題がない。

 

めぐみ!」

 

 突如屋上の扉を開け放たれて、そこから3人の女生徒が出てきた。いずれも三上の友人である。

 彼女達は屋上で三上が倒れているのを確認すると、顔を青ざめさせながら、雨に濡れるのも構わずに死体へ駆け寄る。

 

「恵! 嘘っ」

「ちょっ、冗談でしょ」

「早く先生呼んで!」

 

 俺達の事には一切気付く様子がない。すぐ隣にいるのに、顔の前で手を振ってみても気付く事は無い。こんな状況でなければスケベ行為をしていたことだ。

 

「こうまでして気付かれないといっそ清々しいな」

「言っておくけど、触れると認知されるから気をつけなよ。

 さてと、人も来てしまった事だし。ここからは君の出番だ」

「わかってる、あと30秒だ」

「では昨日の僕によろしく言っておいてくれよ」

「あと20秒」

「昨日なら、おそらくまだ学校に居る筈だ」

「はいよ……時間だ。じゃあ昨日でな」

 

 阿笠には人の認知を操作する超能力を持っている。そしてかくいう俺も、実はそういった能力を持っている。

 まあそんな大した能力じゃない、簡単に言えば。

 

 

 人間の死体を目撃したら、その1時間後に1日前へ戻る能力だ。


 

 時間移動といえば凄く聞こえるが、誰かが死んでるのを見ないと発動しないクソみたいな能力だ。

 しかも1日前に戻るわけだから、大抵の場合死者を救う事ができるのが厄介なところ。

 本当は無視したいのだが、助けられるのに助けられないのは非常に目覚めが悪い上に明日明後日の晩御飯が不味くなる。

 不味い飯を食べるぐらなら人命救助の1つや2つなんてことない。

 

 

 ――――――――――――――――

 

 

 6月9日、夕方。

 その日も梅雨らしく丸一日雨だった。

 

「ねぇ、ちょっと。皆帰ったよ」

 

 ゆさゆさと肩を揺さぶられるのを感じる。妙に心地よくてそのまま微睡みが深くなりそうだ。

 だがその瞬間、の出来事がフラッシュバックで蘇って微睡みから一転、一気に覚醒を果たして飛び起きた。

 

「うわあっ!」

「きゃっ」

「 はぁ……そうだった」

 

 深呼吸すると一旦落ち着いた。そういえばこの時間は寝ていたんだった。そしてその時、俺はある人に起こされたんだ。

 

「ちょっと、ビックリしたじゃない」

「え、ああ……ごめん」

 

 俺を起こしたのは同じクラスの女子、まず、バング軽めのワンカールセミロングの髪型が目に入った。次いで自然な感じに薄く化粧した頬、細い肩に男子の視線を奪う大きめの胸部、そのおかげか着太りするタイプらしい。

 だが俺の目が奪われたのはその大きな胸でも、安産型の尻でもない。

 索条痕の付いてない首元だ。

 

「えっと、起こしてくれてありがとうな……三上」

 

 そう、彼女こそ明日絞殺される三上恵である。

 

「まあ起きたんならいいわ……じゃあ」

 

 それだけ言って三上は教室から出ていった。

 彼女がいなくなったのを見てから、俺はポケットからスマホを取り出して阿笠に電話を掛ける。数秒待って阿笠がでた。

 

『やあ、電話とは珍しいね』

「お前の事だからもう察しはついてるだろ、殺人事件だ」

『……詳しい話を聞こうじゃないか、明日の僕はどんな推理をしたんだい?』

 

 

 

 

 

 

 

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