第6話 新・鼠の仁義なき戦い 〜前編〜
時計の針は亥の刻を指し示し、艦内は間接灯がオレンジ色の光でぼんやり照らされている。
人間は深夜業務担当と徹夜でハジける者以外は寝静まり、ここ愛鷹も無人のように閑散としていた。
人間の時間が終わり、鼠の時間が始まった直後。鈴平組事務所小島支部の門扉前に伍田平が現れた。日本の陣屋をそのまま再現して作られた屋敷、規模だけなら箕輪組や芦刈組より大きい。
表門には二人の歩哨が立っていたが、伍田平は臆することなく二人の前に立ち睨めあげた。
「おやこれは伍田平さん、今日はなに――ぎゃっ」
歩哨の一人が言い切る前に伍田平は腰に差したポン刀を引き抜き、その勢いのまま居合いの要領で歩哨の胸から肩にかけて斬りあげた。傷口から大量の血を流しながら地面に倒れ伏す歩哨、伍田平は斬った瞬間に送り足でもう片方の歩哨に向き直り、その歩哨が一瞬の驚きから解放されて手に持っていた槍を構える前に踏み込んで斬り下ろす。すり足で距離をとり死体を確認してから「ふぅ」と息を吐いた。
この間僅か五秒に満たない。
「
「上等や、
「既に揃ってます」
弟分の仕事の速さに内心感心しながら、集まった鉄砲玉達を見つめ、静かに告げる。
「こんな親不孝な事に付き合わせて悪いなホンマ、せやけど今の親父は鈴平のクサレにシャブ漬けにされとる、あれはもう助かる見込みはあらへん。やから箕輪組の将来のためにワシらで引導を渡すんや、そして鈴平も皆殺しにしてケジメキッチリつけんで」
静かに檄を飛ばす、伍田平に付いてきた手下は総勢十三匹、その十三匹は一斉に「へい」と答えた。
二匹が前に出て観音開きの門の取っ手に指をかける、そして伍田平の合図と共にゆっくりと内側に開かれた。
伍田平が中に入り、続いて手下が横並びに立つ。
「どーも、箕輪組若頭の伍田平いいます。本日は皆さんの
それが会戦の合図であった。
突然のカチコミに浮き足立つ陣屋内、陣屋は至ってシンプルな作りで城壁の内側に屋敷があるだけである。敷地のほとんどはただの庭だ。
冷静に状況を飲み込めた者から順番に庭に出て伍田平達に切り掛る。しかしそれは悪手、数で勝るのに部隊を整えようとせず頭に血が登るままに行動するのは愚劣の極みだ。戦い慣れしている伍田平はその隙をついて向かってくる鈴平の構成員を順番に切り伏せる。
三匹斬ったところで一度打ち止めになる。伍田平は足元の鼠の首を切り落としてそれを屋敷縁側で様子を見ていた他の構成員に向けて投げつけた。
「お前等の兄弟を殺したのはワシやぞ、ほらかかってこんかい!」
伍田平の挑発にのせられ鈴平の構成員が次々と怒声を発しながら向かってくる。流石に数が多いので今回は手下の鼠と一緒に迎え撃つ。
「なんじゃこれは! 伍田!
箕輪組組長拾陣のお出ましである。
突き出したお腹をゆっさゆっさと揺らしながら未だ斬り合っている伍田平の元へと行く。途中で隣を横切った鼠からポン刀を奪い取って伍田平に向けて振り下ろした。
伍田平は咄嗟に斬り合っていた鼠の腹を蹴飛ばし、すぐ隣で部下と斬りあっていた鼠の首根っこを掴んで甚太夫の前へと突き出した。甚太夫の刀がその鼠の眉間を割った。
「親父、突然ですみませんけど、親子の盃を返させてもらいます」
「伍田、てめぇ言ってる事とやってる事の意味わかってんのか?」
「承知しとります、どんな理由があろうと子が親に手ぇ上げるなんざ許される事やあらへん、せやからワシ、この戦いが終わったら潔く腹ぁ切るつもりでおります」
「せぇか、そないな覚悟ならワシも容赦はせん」
甚太夫が横薙ぎに払う、伍田平はそれを片手に持った鞘で受けてもう片方の手に握った刀で斬り下ろす。甚太夫はそれを紙一重でよけて後ろに踏み込んで突きを入れる。それを払い伍田平はすり足で間合いを詰める。甚太夫も同様にすり足で詰めて刀を正眼に構える。
――――――――――――――――――――
伍田平と甚太夫が戦っている頃、裏門にはもう一つの組織が騒ぎに乗じて忍び込もうとしていた。
芦刈組三ツ矢である。
そして裏門が内側から静かに開かれ中に入る。裏門を開けたのは三ツ矢の手首を切り落とした黒コートのエンジェロイドだった。
「ほなまあ、あとは予定通り」
エンジェロイドは黙って頷くと、腰の刀を鞘走らせて振りかぶった。
三ツ矢の部下は素早く脇をすり抜けて屋敷へと音も立てずに走り出す。それを確認した後、蕪村な面で見つめる三ツ矢に向けて刀を振り下ろした。
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