全力避難訓練(後編)

『只今震度7の地震が起きました。生徒の皆さんは落ち着いてグラウンドへ避難してください、また今の地震で各校舎から火の手が上がっています。煙を吸わないようハンカチ等で口を覆って移動してください』


「みんな! 早く避難するんだ!」


 ぞろぞろと生徒達が鬼気迫る表情で教室を出ていく、すると後ろを歩いていた女子生徒が不意に転んだ。


「床が崩れてしまったわ! 助けて!」


「待ってろ田原! 今行く!」


 男子生徒が素早く駆けつけその手を掴もうとする、だが。


「も、もうだめ」


 その女子生徒は力尽きたようにその場で倒れた。


「田原が崩れた床から下に落ちた! 死んだ!」


「田原……くそっ」


 悲しみに包まれる6年1組の生徒達、だが今は災害時、グズグズしてる暇はない。迷いを振り切って一同はグラウンドへ向かう。

 なお、田原はその場で死んだフリをしているだけである。


「か、火事だ、2階より下は火事だぞ!!」


 階段に辿り着くと、下の階では火の手が既に回りきっていた(という設定である)。


「みんな、煙を吸わないよう口をハンカチで隠して姿勢を低くするんだ」


 クラス委員長の指示の元、みんなはハンカチや服の袖で口元を覆う。そして慎重に階段を降りる、しかしそのまま1階に降りようにも火の手が強すぎて降りられない(という設定)。

 それゆえ遠回りして行く事になった。


 2階廊下を進むと、進行方向を炎で阻まれてしまった(という設定)。


「引き返すか」


「待て委員長、この教室を迂回すれば向こう側へ行けそうだぞ」


「ほんとか!? よし開けてくれ」


「わかった……駄目だかてぇ、誰か手伝ってくれ」


「よし俺が!」


「俺も!」


 と、男子3人で扉に手を掛けて勢いよく開ける。

 すると。


「「「ぎゃああああ」」」


 と男子3人は悲鳴を上げて倒れた。


「教室から炎が吹き出て田中達を燃やした!」


「私、知ってる。バックドラフトだよ」


 哀れ田中達3人はバックドラフト現象の餌食となってしまった。


「行こう、おかげで教室から行けそうだ」


「うっ、いやああああああ」


 次々と死んでいく仲間を見て耐えられなくなったのか、女子が一人パニックになって駆け出した。

 しかし、突如崩落した天井に押しつぶされて死んでしまう。


「くそう、安達まで。お前ら! ここは俺が引き受ける。俺に任せて先に行け!!」


「な、何言ってるんだよ柿村!!」


「いいから行けよ! そして生きろ!」


「行こう、宗太」


「わかった、でも一つだけ言わせてくれ……何を任せればいいんだ!?」


「グッドラック」


 そして彼等は柿村を置いて先へ行く。

 何とか1階へ辿り着いた6年1組。既にその数は半分にまで減っていた。


「こ、ここも火の手が」


「だが出口はすぐそこだ」


 委員長が指さした先には昇降口があった。そこまでは20mぐらい。もうすぐだ。

 だが、出口を前にして突然健太が倒れた。


「健太!」


 慌てて宗太が抱き上げるが、健太の顔は蒼白だった(という設定)。


「煙を吸いすぎたらしい。へへ、ドジ踏んだぜ。俺を置いて行けよ」


「馬鹿野郎! 健太を置いていけるかよ!」


「大丈夫、俺はまだ死なないさ。ここで少し休んでからいく」


「健太……」


「ほんとに死ぬつもりはないって、だって来週はあいつとの結婚式が控えてるからさ」


「何言ってんだ健太!」


「行ってくれ」


「わかった」


 宗太は健太をゆっくり地面へと寝かせる。

 そして背を向けて出口へと走り出す。


「健太の馬鹿野郎! 小学生は結婚できないんだよおおおお」


 そして、避難訓練が終わった。



 ――――――――――――――――――――



 グラウンドにて、今回の避難訓練の総評が行われる。教頭先生が演壇に立ってマイクのスイッチを入れた。


「えぇ……今回の避難訓練ですが。何だか異様な空気に包まれていて……先生、正直怖かったです」

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