怪物


不意に思いついたので書いたんです



――――――――――――――――――――




 森を歩いていると、怪物に出会った。

 その怪物は森の動物を何匹も殺すほど残忍な生き物で、仲間達からは出会ってしまったら全力で逃げろと言われていた。


 その怪物に出会ってしまった。

 逃げようかと思ったが、その怪物の様子がおかしい事に気付いた。


 まず身体が小さい、それと何やら泣き喚いている。どうやら怪物の子供が群れからはぐれてしまったらしい、また足を怪我しているみたいだ。それで寂しさと恐怖と痛みから泣いているのだ。


「○△□#]`’[-@*"/"!!!」


 何か言っているが、残念ながら何を言っているがわからない。言語を解す知性はあるようだが。


 本来なら無視するところだ。だがその時のボクはどうにも怪物の子供が気になって傍に寄ってしまったのだ。

 近付いて「どうしたの?」と声を掛けてみる。すると。


「っっっ!!_`\}>,<~★>>>★!!!」


 更に泣いてしまった。ボクの見た目が怖いのだろうか。

 とりあえず泣き止むまで待とう。しばらくしたら疲れて泣き止むだろう。

 そう思ってボクはその場に尻餅をついて様子を見る事にしたのだが、どれだけ待っても泣き止む気配がない。


 流石に退屈してきた。ボクは手近の石をいくつか掴んで、上にほおり投げた。落ちてくる石を捕まえて、別の石をリズミカルに投げる。捕る。

 ボクの得意技だ。


 よっほっ……と遊んでると、子供がいつの間にか泣き止んでいる事に気付いた。興味津々にこちらを見つめているではないか。

 それならと、ボクは石を増やして更に投げて捕ってを繰り返す。


「**_>!,,"\\\」


 相変わらず何を言ってるのかわからない。だがキャッキャと笑っていた。

 喜んでいるみたいだ。

 この隙にボクは持っている薬草をすり潰してその子供の怪我に塗りつけた。子供はポカーンとしていたが、すぐにまた笑ってくれた。


 打ち解けるきっかけはこんな些細な事だった。怪物と言っても分かり合うことができるし、友達にもなれる。

 ボク達はその後、子供の群れを探すために森を歩いていた。途中で木の実を取って食べたり、キノコを食べたり。


 木の実は喜んでくれたけど、キノコは食べた瞬間ゲロゲロと吐き出された。美味しいのに。


 時間は経過して夜になった。流石にこれ以上は危険なのでボク達は近くの洞窟で身を寄せ合って眠る事に。寝るまでその子供はボクにいっぱい語りかけてきてくれた。

 ボクはそれが嬉しい。言葉はわからなくてもなんとなく嬉しいのだ。


 まあ、なんて返せばいいかわからないからいつも「ブアア」て適当に返してるけど。そのせいか、いつの間にかボクの事をブアアて呼んでたりするけど。そんな名前じゃないんだけど。


 さて、朝になりボク達は群れ探しを再開する。

 今日は水辺を歩いてみる。生き物というのは水辺に集まりやすいからだ。そしてその予感は的中して、程なく怪物の群れに遭遇した。


 子供はとても嬉しそうでその群れに向かって走っていく。

 ボクはそれを微笑ましく見つめ、静かに立ち去ろうと背を向けた。


 その時のボクは忘れていた。仲間達から怪物に出会ったら逃げろと言われていた事を、子供と触れ合う内にボクは油断していたようだ。


 その証拠に、怪物達の攻撃でボクの身体は穴だらけになってしまった。


 そう、ボクは怪物に攻撃されたのだ。怪物は遠くから攻撃する術を持っている。それはとても強く、一撃で死に至る事もある。ボクはそれを何発もくらった。


 不思議と痛みはなかった。きっと痛みを感じる部分が機能しなくなったんだ。

 ボクはもう助からない。死んじゃう。


 視界が、ボヤけてきた。


「$=@(/(/-”-¥¥¥」


 子供が何かを叫んでる。結局最後まで何言ってるかわかんなかったなあ。


「ブアア! ブアア!」


 だからそれはボクの名前じゃないって。ああもう、いいや。ボクはブアアで。

 段々意識が無くなっていくのがわかる。


 こんな事になっちゃったけど、子供が群れに戻れて良かった。

 怪物でも友達になれるんだなあと思ったよ。









 ああ、でもやっぱり……人間怪物は怖いなあ。












 ――――――――――――――――――――



 数年後


「知ってるか? 数年前に、街の近くの森に怪物がでたんだってさ。なんでも毛むくじゃらで、熊みたいにデッカイらしいぜ」


「知ってるよ、俺はこの街で生まれ育ってんだぞ」


「なあ、その怪物ってどんななんだ? やっぱ興味あるんだよなあ」


「怪物じゃないって、そいつめちゃくちゃ愉快で面白い奴なんだ」


「そうなのか? てかよく知ってるな」


「まあな、そいつはジャグリングがすんげえ上手いんだ。優しくて暖かくて、『ブアア』て名前の……俺の友達だ」

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