第3話 続・鼠の仁義なき戦い 〜前編〜
芦刈組組長暗殺事件から一週間が経過した。
芦刈組は組長の左近が死亡、また次期頭目の三ツ矢までもが重傷を負ったため緊急入院となる。
統率を失った芦刈組を蹂躙すべく箕輪組と鈴平組の徹底的な攻勢が始まったのは言うまでもない。
箕輪組本部、甚太夫邸では協定組織の鈴平組と戦勝の打ち上げが行われている。
酔っ払った鼠達によるバカ騒ぎは街中にまで響き渡っていた。
「ガァーハッハッハ、今日もまた黒星じゃけえの! おいそこの
箕輪組組長である
「へい、今日芦刈組から奪い取った工場を含めて丁度八割となりやす」
わかりきっていた答えを聞いて更に気分を良くした甚太夫。今度は若頭の伍田平を傍に呼んだ。
「伍田、おめえ今日もでっけえ花火あげたみてえじゃねえか」
「へい、ありがとうございやす親父。しかしワシが手柄とれたんもそこんおる先生のおかげでさあ」
先生、それは鈴平組が雇った凄腕の用心棒。実体は黒いコートを直用し、白いバイザーをつけたエンジェロイドだ。
どうやら鈴平組のシマに住む子鼠が作ったらしい、そのためこのエンジェロイドには欠陥が一つあった。
伍田平にふられても先生は声一つ上げず頭を軽く下げた。
先生は
三時間後
収束するどころか増々盛り上がる宴会場を後にした伍田平は屋敷の縁側で鼠用に小型化された煙草に火をつけた。
人間の発明に大して興味をもてない伍田平も、煙草を初めて知った時は人間を天才だと褒めちぎっていたものだ。
「宴会よりもワシはこうやって一人で吸っとるのがええわ」
今はいい風が吹いている。エアコンの風ではない、おそらく換気のために外の空気を取り入れているのだろう。
程よく湿った風が気持ちよく髭を揺らす。
「芦刈組が落ちるのは時間の問題や、対して箕輪組は着々と力つけとる。しかしなんや、妙に納得いかん」
理由はわかっている。鈴平組だ。奴らは不意に現れて箕輪組と協定を結んだ。
しかし理由は不明だ、何故遠方の小さな極道組織が箕輪組と協定を結ぶのか、そもそも箕輪組は鈴平組より遥かに強大な力がある。協定を結ぶ必要はない、そのまま奪えば良かったのだ。実際親父は今までのシマをそうやって捕ってきた。
「親父は一体どないしたんや、すっかり鈴平の傀儡やんけ」
伍田平は何もかもが鈴平組の思惑通りに進んでいる気がしてならなかった。
一抹の不安を抱える中、背後の障子がそっと開けられ、一時的に宴会場のざわめきが耳に刺さる。
出てきたのは鈴平組の組長、次郎だった。
「伍田平さん、わても一本ここで吸わせてもらいます」
「どうぞ」
次郎のいやらしい笑みに不快感を覚えながら伍田平は煙草を一本差し出した。
「鈴平の、あんたよお先生を引き入れたな」
「案外簡単やったで、ちょっと作り主の子鼠を攫ったら従順になってくれてん」
「
伍田平の瞳に怒りの炎が灯る。
「何言うてまんのん、わてらは極道やで? 仁義なんてもんははなからある筈ないわ、使えるもんは全部使わんと」
「ちっ、けったくそわるいわ。そやも一つ聞きたいんやけど、何でエンジェロイドなのに鼠を殺せるんや、奴らの攻撃はカーバンクル様の魔力にしか作用せえへん筈やろ」
「簡単な話や、全てのエンジェロイドはアルカシードの力でカーバンクル様の魔力にのみ作用するようコーティングされとんのや、勿論先生もコーティングされとる。やけどな、わてはそれを克服させてん」
「どうやってや」
「ここだけの話やで、先生の持ってる刀やけどな、全ての魔力を切り伏せる力があんのや、そのおかげで刀の部分だけコーティングされちょらんちゅうわけや」
「何でそんなもんが」
「そらわてが作って与えたからや、こう見えて昔はカーバンクル様直属の兵器開発局局長やってんで。刀はその頃に作ったやつや」
「何でそんな大層な奴がヤクザになってん」
「そら夢があるさかい」
「夢やと?」
おおよそヤクザには似つかわしくない単語に眉を潜める。
「せや、わての夢はな」
ふいに次郎が自分の口を伍田平の耳元に寄せて囁くように続きを紡いだ。
「カーバンクルへの下克上や」
「――ッッ!?」
「内緒やで、もし誰かに言うたら。あんたの可愛いやや子を殺すさかい」
怒りと驚きで言葉を見失った伍田平を嘲笑うように、次郎はいやらしい笑をその顔に貼り付けたまま宴会場に戻って行った。
精神が落ち着くに従って次郎の言葉が胸に落ちてくる。そして伍田平はある決意をする。
「次郎さんよ、ぬしゃを生かしておくわけにはいかんのう」
次郎は言った「やや子を殺す」と、生まれたばかりの子供を危険に晒す道理は許さなかった。
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