第4話 続・鼠の仁義なき戦い〜中編〜
私が最初に目覚めた場所は、廃棄物処理施設のゴミ山の一角だった。真っ先に視界に映ったのは施設の天井、どうやら寝かされているらしい。
「お、おおおおおおおお」
そして最初に聞いた声はそんな歓喜に打ち震える子供のものだった。
視線を横にずらすとそこにはまだ子供の鼠がいた。生憎私には鼠の性別がわからないため男か女かはこの時点ではわからない。
「やった大成功! やったやった!」
私の目の前でその子鼠は随分とはしゃぎ回っている。私はゆっくりと上半身を起こして自身の身体をよく調べた。有り体にいえば人の形をしていた。それも女性型だ。
胸の膨らみが煩わしい。
続いて立ち上がる。問題無い、どこも異常はなく思い通りに四肢が動く。
因みに服装は真っ黒なコートに、これまた真っ黒な膝上までのゴアードスカート、そして爪先に鉄板の入った真っ黒なエンジニアブーツという可愛いのか地味なのか良くわからない格好だった。
「うおおお! 動いた! 動いた! 僕の作ったエンジェロイドが動いた!」
エンジェロイド、それが私の名前か? と尋ねようとしたのだが、私の口からは空気すら吐き出されずただ顎を動かしているだけだ。
「……? もしかして喋れない?」
コクコクと頷く。
どうやら私は
「そっか、やっぱり有り合わせのパーツで作ったからかなあ」
その後の子鼠の話で、私は廃棄物処理施設に捨てられたエンジェロイドの余りパーツや壊れたパーツで作られたらしい。
エンジェロイドとは、カーバンクルに叛旗を翻す蛮族であり、また鼠の最大級の天敵でもあるというのが鼠界の常識だそう。
何故そんなものを作ったのかと聞くと、「カッコイイから!」と帰ってきた。
この子鼠はロボ好きで有名な人間の少女の部屋に忍び込んでは、こっそりアニメ鑑賞やプラモ制作を覗いていたらしい、挙句の果てにこうやって作ってしまった。
「そうだ、一応これをつけといて」
子鼠が手渡してきたのは一つの白いバイザーだった。
「君の顔はとあるエンジェロイドと同じ顔なんだ、しかも結構な有名人でね、こないだは公開処刑されそうな中で鬼のように暴れ回ったらしいんだ。だから顔を隠しておいて欲しい」
それなら納得だ。
「それにほら、バイザーキャラってロボアニメでは鉄板のキャラだからね!」
それはどうでもいい。
「そうだ君の名前はどうしよう、作るのに夢中で考えてなかった」
私の横で子鼠はう〜んと唸り始めた。別に無くても不便はないし、急ぐ必要も感じないのだが。子鼠にとってそうは問屋が卸さないらしい。
因みに子鼠の名前は
それからしばらく、私は名前の無いまま春紫と共に旅をした。春紫は艦から艦へと移動して回る旅鼠だった。道中他の鼠が私の姿を見て襲いかかってくることが何度かあった。その度に撃退して野生の鼠に戻したが(エンジェロイドの攻撃には鼠の知性を奪う効果がある)、中には戻らなかった鼠もいた。
そのせいか私の姿は鼠界の間で有名になってしまい指名手配される事になった。そしてとある街で春紫と身を潜めていた時、その男に出会った。
「あんたさんが巷で有名な黒いエンジェロイドかいな、わては鈴平組の組長次郎いいます、よろしゅうに」
その男はねっとりといやらしい笑を貼り付けた鼠だった。私の勘がこの男は危険だと囁いた。
「早速やけど、あんたさん、ワテの用心棒やってくれまへんやろか、断ったらそこの可愛いらしい子の頭が爆ぜるで」
いつの間にか四方を取り囲まれていた。そのうち鼠三匹が拳銃を春紫の頭に突きつけていた。
端から選択肢というものはなかった。
それからの私は鈴平組の用心棒兼暗殺者として、次郎の命ずるままに鼠を殺して行った。
不思議な事に、次郎が与えた刀には魔力を切る効果があったためエンジェロイド本来の鼠に対する慈悲が消え失せていた。最初は罪悪感のあった殺鼠も、次第に何も感じなくなってしまう。
私もまた、次郎と同じ薄汚いヤクザに身を窶したのだな。
春紫とはあれ以来会っていない。居場所がわかれば直ぐにでも助けに行くのだが、鼠質となっている以上迂闊な事は出来ない。
鼠の殺戮を繰り返して自分への嫌悪を募らせる中、ある日事態を劇的に変える出来事が起きた。
それは小島市で起きたヤクザの抗争で、後に小島抗争と呼ばれる小さな戦争だった。
その小島抗争がおこる数日前、私は箕輪組若頭である伍田平に呼び出された。
「先生、鈴平組組長の次郎、それと
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