偉人BAR(ガイウス・ユリウス・カエサルと織田信長)

それは何処いずこかにある。ある者は大地の底に存在するハデスにあると申し、ある者は遥か天空のヴァルハラにあると申す。またある者は海原の果てにある、大滝を落ちたところにいるヨルムンガンドの背にあると申す。


何れもイエスでありノーである。


それは時の狭間に存在し、あらゆる時間、あらゆる時空、あらゆる時元に現れる。


そこはBARである。そしてそこを訪れる者にはある共通点がある。

その共通点とは、必ず皆が歴史に名を残している事である。


ここまで書けば、さとい読者諸君は気付くであろう。そうそこはあらゆる偉人達が集まる場所である事を。


ではその偉人達は何をしているのか? 単純明快、ただ酒を喰らい、飯を呑み、言葉を振るい、暴力を口にする。


ただそれだけである。


その場所の名は「偉人BAR」



今日もまた、偉人のお客が訪れる



――――――――――――――――――――


ここは偉人BAR、今二人の偉人が時代を超えて肩を並べていた。


片やその名をガイウス・ユリウス・カエサルといい、よわい六十前後、薄い頭髪(ほぼ禿)。

白いトゥニカ(ウールで出来たTシャツのようなもの)の上から、トガと呼ばれる一枚布を身に纏っている。トガの縁は軍神マルスを象徴する赤色をしていた。


もう一人は名を織田信長と呼び、よわい五十過ぎ、頭は二つ折りの髷と薄い髭を特徴とし、服装は小袖、下着、肩衣、袴、腰板とごちゃごちゃしており、腰には刀を差している。


「おい知ってるか? カエサル」


信長がマティーニの入った逆三角のグラスを傾けながら隣のカエサルに尋ねる。


「どうした?」


カエサルは信長の方を見ずにウィスキーのショットをぐいっと一気に飲み干した。


「儂、現世では美少女になってゲームとかアニメに出てるんだぞ」


「何だそれ!? 傑作だな!」


「だろ? 儂それ知ってメッチャ腹抱えてよ、蘭丸に頼んで買って来て貰ったんだよそれ」


「マジで!? つか金どうしたんだよ?」


「先週バイト代入ったからそれで」


「バイト代って、お前バイトしてたのかよ。マジ笑える」


「おう、大〇ルで働いてるからお前もこいよ」


「接客業とかチョー草生えんだけど、何お前接客できんの? ブチ切れまくりのお前が?」


信長はカエサルの目前に紐の付いた一枚のカードを差し出した。

それは名札であり、名前は織田吉法師(吉法師とは信長の幼名である)。そして担当はデリカフロアマネージャー。


「お前バイトの癖にマネージャーになってんのかよ! しかもデリカとか、何? 唐揚げとか天ぷらとか揚げてんの?」


「おう、自慢だが儂唐揚げメッチャ上手く揚げれるぞ。で話を戻すがな、儂昨日その蘭丸に買って来て貰ったゲームやったんじゃよ」


「どうだった?」


「儂メッチャ可愛いんだけど! メッチャ惚れそうになったわ!」


「お前にかよ!」


「しかも儂、サルとか光秀に恋してんの」


「何それクソワロ。光秀とかお前ぶっ殺した怨敵じゃん」


「それな! そうそう、そのゲームお前も攻略ヒロインになってたぞ。今度貸すわ」


「マジで? 俺もなの? てかやだよサルに攻略されるの」


「いや、お前を攻略するのブルータスって奴」


「お前がかブルータス」


「お客様、グラスをおさげしましょうか?」


と、そこでバーテンダーがキュッキュッとグラスを磨きながら信長とカエサルに尋ねる。


「おお悪いな、ついでに儂マティーニおかわり」


「じゃあ俺今度はホワイトレディで」


「かしこまりました」


バーテンダーは恭しくお辞儀をした後、素早くグラスを下げて新しいカクテルを注ぐ。


「お待たせいたしました」


二人の前にマティーニとホワイトレディが置かれる。




ここは偉人BAR、ここにはあらゆる偉人達が訪れる。

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