自己犠牲に溢れたスシロボット

 以前寿司コンテストに書いた短編、八百文字以下という縛りが無かったらもっとキチガイじみていたかもしれない。


 ――――――――――――――――――――



 そのロボットは寿司で出来ていた。

 外装はシャリで出来ており光を反射してキラキラと輝いている。頭はガリ胸にはサーモンがV字に張りついている。

 脚は海苔で巻かれており、隙間にはイクラが詰められていた。

 まさに寿司で出来た寿司ロボットだ。

 その寿司ロボットが板前をやっている店に私は来店した。

「ヘイラッシャイ! 何にしやすか?」

 えらく威勢のいい声だ。

「えと、じゃあまずはイクラで」

「あいよ! 少々お待ちを!」

 そう言って寿司ロボットは自身の外装シャリを削って握り始めた。

 なんて、なんて自己犠牲に溢れた行動であろうか! 彼程のアガペ愛に満ちた者は何処にもいない!

 寿司ロボットは握ったシャリに脚部に詰まったイクラを乗せた。

「ヘイお待ち!」

 一口。すると口一杯にイクラの風味と機械油の渋みが広がって何ともいえないハーモニーを奏で、あっという間に食べ切ってしまった。

「あの、次はこの握りセットというのをお願いします」

 それはこの店で一番高いお寿司、文字通り握り寿司を二十種類詰め合わせたものだ。

 軽く万は超える。

「少し時間掛かるんでその辺ブラブラしててくだせえ」

「いえ、ここで見てます」

 私は既に寿司ロボットに魅入られていた。いやこの気持ちは恋だ!

 彼が自分の身を削って握る自己犠牲の精神に心を打たれる。胸に着けたサーモンを剥がしてシャリに乗せる姿は最早キリストのようだ。

 寿司ロボットのブッダの如き握り捌きに私は釘付けになってしまった。

「お待ちどう」

 寿司ロボットはお櫃にぎっしりと入った寿司を差し出した。

 私は期待の眼差しをもってそれを見つめる。

「あの……これは?」

「ちらし寿司でい」

「握りは?」

「あっしが食べやした」

 ガリの頭部がキリッとした表情を見せた。その姿に私の乙女心は不覚にもキュンと高鳴った。

(なんと凛々しくて酸味の強そうな頭部なの)

 しかし、注文した商品がでない事に関して私は一つものを申さねばならない。

「食べたんなら仕方ないですね!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る