絶倫のレヴァンテイン〜後編〜

『そうそう、そうだよ! けどまだだ! まだそんなもんじゃないハズだ! JD! もっと滾れ、本能を曝出すんだよ!!』


「……今、この時だけは……貴様に従ってやる……」



 肉薄。左腰横に引き絞られたヴァイブはそのまま走り出し、右斜め上方へと向かう。ダインスレイフの腹部装甲を撫で、機体にダメージを与える──そんな級の中のイメージは、すぐさま否定された。


 メリッサ・グラムが振るった棒の走りよりも速く、ダインスレイフはバックステップでそれをかわしてみせた。着地と同時に白濁液兵器が吠えるも、メリッサ・グラムは最小限の動きでそれを回避し、再度ヴァイブを携え追撃を図る。



『いい動きだ……さすがだよツキシロシナ……! 興奮しすぎてどうにかなってしまいそうだよ……ボクはッ!!』



 もう何度目かも計り得ないヴァイブレードの太刀筋は、ダインスレイフのナイフが難なく受け止めた。火花という大輪は闇深い市街地を明るく照らす。こぼれた刃の欠片は宙を舞う。


 ふたりは幾度となく繰り返される剣戟と弾丸による光の片鱗を視界の端に捉えながらも、そのカメラアイの奥に存在する互いの目しか見ていなかった。


 ひとりは己の快楽と充足感を満たすための玩具として。


 ひとりは性欲の駆逐と貞操の守護という存在意義を果たすためとして。







 ──今でも、テロリストのレヴァンテイン相手に棒を振るう時、迷うことがある。私は、人の命を奪ってるんだ、って。でも私は、大切な人達……みんなや、みんなとの『これから』をあの時みたいに失いたくないから……。



 ──これからのためにね、私は戦うの。相手の操を奪うことで、その人のその瞬間まで──過去すらも否定することになると思うんだけど……そうじゃなくてね、これからイきていく人、イカされてくる人のために戦うの。



 ──私達も、あの人達も、きっと、風俗店には行けない。でも、関係ない人達の、これからの何気ないエロスを守る力が私達にはある。だからね、JD……。








 ──絶対に、性欲のためになんて、戦わないで……。








「おおおおぉぉぉぉッ!!」


『キテよ、JD! ──なにッ?!』



 刺突のためにダインスレイフが放ったヴァイブの先端は、メリッサ・グラムの左肩口を舐めた。


 そのときJDは、目に映り流れ行く全ての光景がスローモーションになるのを感じた。



 ──それでも……俺は……俺は……。



 屈かがんだ状態のままレッグ・スライダーを滑らせるメリッサ・グラム。肩越しにヴァイブの刀身を担ぐように振り被っていた。



 ──都……。



「……俺はァッ!!」



 震える棒は縦一文字に振るわれた。


 高周波を纏った刀身は、いとも簡単にダインスレイフの関節を斬ってみせる。


 小規模な爆発を起こしながら、ダインスレイフの左腕部であったものがアスファルト上に地鳴りを起こしながら落下した。



『なッ?! クソがッ! クソがぁぁぁぁああああ!!』



 右腕だけとなったダインスレイフは主の咆哮を代弁するかのように、逆手に持ち直されたナイフを天高く掲げた。



『一度だけならず二度までも! キミに殺されそうになるなんてね!』



 空を裂くように邪神の右腕が振り下ろされた。


 メリッサグラムの左肩の関節部分に突き立てられたそれは、高周波のいななきを上げながら深く、深く挿入っていく。



『それでもボクは否定するッ! 次はボクの番だ! 奈落に突き落とされるのはキミの方なんだよ、JD!!』


「チィッ!!」



 パージされたメリッサ・グラムの左腕が爆炎を上げながら地に伏す。


 互いの機体がレッグ・スライダーで以って互いとの距離を取った。



『…………』


「…………」



 一瞬とも永遠とも受け取れる静寂の間に、ふたりは何を思い、感じたのか。


 その静寂を引き裂いたのも、またふたりであった。


 互いがアスファルトに刻み込んだ漆黒の轍は、前しか向いていない。


 携えた切っ先は、前しか向いていない。


 屠るべき相手にしか向けられていない。



『この絶倫JDが!!』


「俺はまだJKだああ!!」



 双方の視線は交錯する、そして──





 ──吠えた名は性欲であり、棒であった。


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