落語風、「夢路の宝は返品不能!?」
タイトル通りです。
冴吹稔先生作「夢路の宝は返品不能!?」を落語風にまとめたものです。キャラ等一部変更しておりますが、概ね本筋を辿っていますので、ネタバレ勘弁な方はブラバしてください
最後にこの作品にゴーサインを出した冴吹氏に敬意を
――――――――――――――――――
ある所に万屋勤めの周防という名の男がおりました。
いい歳して女を知らず、情けない身体と人生を送っておりやした。
しかししかし、なんとこの男、摩訶不思議な妖術を使う事が出来たとあっちゃ一目置かざるを得ない。
その術とは、ズバリ夢の世界から物を掠め取る盗人猛々しいものだ。
そんなの男のする事じゃねえって? しかし皆さん考えてみてくだせえ、誰にも咎められずに物取りできたらやりませんかい?
あたしならやりますねえ。
さてさて、この男、夢の世界では大層な
しまいに世界を救ってしまったとあっちゃ物の一つや二つ盗まれても許してしまう。
しかもべっぴんな姫さんと結婚して初めての逢瀬、夢の中で童貞を捨てちまった。
翌朝、目が覚めたらいつもの現実、今日は休日だが明日からはつまらない万屋でのお勤めが始まる。
そう思っていたのもつかの間、なんとこの周防という男、現実に姫さんを持ち帰ってしまった。
「やや、これは大変だ」
「はて? ここはどこかえ?」
目覚める姫さん。
「ここはおいらの世界さ」
「おや、あんた。ちょっと見ない間に随分太ったじゃないか」
「うるせいやい、あっちの世界ではかっこよくなるんでい」
これはめんどくさい事になった。何せ人一人連れてくるとあっちゃ、お上の御法度に抵触しちまうかもしれねえ。
夢の世界では大英雄の周防も、現実の世界では一介の町人にすぎねえ。
「かあー、とりあえず寝るか!」
「あん! もう」
頭が痛くなって考えるのが億劫になるや、周防は姫さんを押し倒して色欲に身を任せ始めた。
男というものはいつだって獣になるわけでさ。
はたしてはたして、出すもの出してスッキリした周防、今度は姫さんに現実世界での生き方を教授し始めるも、何せ違う文化に触れるものだから何をしても上手く馴染めない。
まっ、こういうのは根気よくやるしかねえってやつで。
しかし問題は次々と起こるのが世の定め、翌日、お勤めの帰りに周防はけったいな化生に出逢ってしまう。
「やや! オッサン顔の卵が歩いておるぞ!」
しかし直後にその卵は妙ちくりんな事を言って消えてしまった。
ふと周防の頭に万屋で働く若い者の言葉がよぎった。
「その卵は人をぺろりと食っちまうんでさ」
ぶるりと身を震わせた周防、姫さんが心配になり急いで家に帰ると、姫さんは何事もなく「おやあんたおかえり」と返してきた。
ほっと安心した周防は直ぐに事の次第を説明して知恵を借りようとした。
「
「ははあ、それは『捕食者の卵』ですね。呪物を中心に徘徊する悪い妖でさあ。あんたもしかして変な卵とか持ってきてないだろうね?」
「いやあ、実はここに」
そう言って棚から純金の卵を取り出した。この卵、見るからにおぞましい。
「なんてことだい、これはね、ちゃんとした所におかないと封印が解けちまって妖が飛び出すんだよ、全く厳重に管理してたのに何でここに」
「すまねえ、つい出来心で盗っちまった」
「返してきなさい!」
「無理だって、こっちからは一度だって持って行った試しがねえんだ」
「あんたね、世界を救った英雄なんだよ。だのにこっち来たら見た目も中身も腐っちまうとは情けないねえ」
「ひでえ」
「とにかく今夜はそれを抱いて寝なさい! それはあんたのじゃないんだからね!」
「へ、へい」
言われるまま抱いて寝る周防、ところがどっこいこれが上手くいってしまう。
「たまげたなぁ」
夢の世界で英雄となった周防は大急ぎで卵が安置された洞窟へと向かう。途中卵オッサンが襲ってきたが、そこは
しかしこれで倒したわけじゃあるまいて、また蘇る前に卵は厳重に封印しなければならない。
難なく事態を片付けた後、周防はふと気づいた。
「そうか、おいらが自分の物だと認識したから持ってこれるんだ」
つまり自分のじゃないと思い込めば姫さんは送り返せる。
はたしてその企みもまあ上手くいくわけでして。
姫さんは若干複雑そうだが、丸く収まったのでよしとすりゃ。
今度は周防と姫さんの結婚式、しかも周防はこの国の征夷大将軍となる。
誰が言ったかこの国は周防の物。うっかり聞いちゃった周防は。
「やっちまったな」
何と国を持ってきてしまった。より正確には、持ってくるにはあまりにも大きすぎた国に持ってかれてしまったわけだが。
「つまり、何だ。夢が現実になって現実が夢になっちまったわけだ」
途方もない出来事に空いた口が塞がらない周防、どうでも良くなり考えるのも嫌になっちまう。
ふと思い立ちひとまず姫さんの元へと向かう事にした。
「こういう時は寝るに限る」
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