第11話 完・鼠の仁義なき戦い〜後編〜


 炎の中から飛び出した先生は、不意をつかれて二の足を踏んだカーバンクルの胸にその刃を、炎を纏った刃を突き立てた。

 音もなく、元の鞘に収まるかのような安堵を感じる程滑らかに、ドスは柄のところまで深く刺さった。

 そして次の瞬間、刃に纏わりついていた炎がカーバンクルへと燃え移り、その妖艶な肢体を焼き焦がす。

 

「妾の身体が……燃える。ふ、フフフ……そうかその剣は切るだけでなく、着る事もできたのか。

 良い、良い余興であったぞ!

 分身体とはいえドラゴンと呼ばれる妾を討ち果たしたのじゃ、貴様には特別に『龍殺し』の称号をくれてやろう」

 

 言ってる間にカーバンクルの身体がどんどん灰になって崩れていく。

 

「さらばだエンジェロイドもどきよ、次は本体で相見えたいものだ。アハハハハハ」

 

 そうして、カーバンクルは狂気の篭った笑い声のみを残して消え去った。後に残ったのは鼠達の死体と血痕、そしてカーバンクルの灰だけだった。

 

 先生は未だに熱を放つドスを手放す。地面に転がったドスは、柄の部分にヒビが入っており、程なくして壊れる。

 刃は魔力に耐えたが、それを支える柄は耐えきれなかったらしい。

 

 さっきまで血気盛んだった鼠達も、異次元の戦いを見て頭が冷えたのか、これ以上戦おうとする者はいなかった。

 

 こうして、小島抗争は意外な形で幕を閉じる事になる。

 

――――――――――――――――――――

 

 

 事後処理も終わり、平穏な日々が戻った小島市。

 抗争後、鈴平組は解散して箕輪組に吸収される事になった。

 また伍田平主体で箕輪組の大規模な内部改革が行われ、結果として箕輪組は規模を縮小、かつての半分以下にまで勢力を縮める事になった。

 これに対し伍田平は「これぐらいが丁度ええわ」と豪快に笑っていた。

 

 三ツ矢率いる芦刈組は、何と箕輪組の傘下に入った。伍田平の計らいで幹部組織という高待遇であっても、この結果は誰もが予想だにしていなかった。

 

「小島市の自治管理を一任する事を条件に組みいれば、箕輪組傘下の組織は勿論、他の組織も迂闊に手を出せんようになるさかいな」

 

 と、三ツ矢は言っていたが、その方が面白そうだからという実は下らない理由が明らかになったのは、傘下に入ってすぐ開かれた酒宴の席であった。

 つまり酔っ払った勢いでポロリと。

 


 そして、諸々が落ち着いた頃、伍田平の切腹が行われる事となった。

 

 場所は元次郎邸、現在は抗争の後が綺麗に無くなって箕輪組の事務所となっている。

 そこの庭にゴザを敷き、白装束を纏った伍田平が正座する。

 

 正面には短刀、背後には刀を構えた先生が立っていた。


「先生、すみまへんが介錯は結構ですわ、親から貰ったこの顔、切り捨てるには偲びない」

 

 意図を組んだ先生は刀を下ろして一歩下がる。

 

 そして伍田平は短刀を逆手で持ち、腹に刺す。

 

「うっぅぅ……ぐっ」

 

 流れ出る血液が白装束を朱に染め上げる。

 そのまま短刀を横にスライドさせた所で力尽きて地面に倒れ込む。伍田平は最後の気力を振り絞って仰向けになった。

 その瞳に鋼の天井が映る。

 

「ああ……ええソラじゃ」

 

 伍田平が見上げた先には戦艦愛鷹の鉄の天井と配管、僅かな照明しかない、また密閉されたここでは愛鷹が宇宙にいるのか地上にいるのかもわからない。

 しかし彼には見えていたのだろう。

 天井の遥か向こうに広がる、澄み渡った青空と広大な宇宙ソラが。

 

 箕輪組若頭 伍田平 自刃

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