プロジェクト・ナマノシン〜後編〜


 なにやら誤解を招きそうなCMが流れましたが、気にせずやっていきましょう。

 

 Q「プラント管理と仰ってましたが、実際どのような事をなさっておられたのですか?」

 ナ「実は書類に目を通す事と視察以外ほとんど何もしてないんですよ」

 

 彼は笑いながら答えた。

 この当時、農業・養殖プラント関係の技術や設備はそれなりに充実していた。何せ21世紀初頭から連綿と受け継がれている技術だ、苦労したのは火星の環境に合わせる時ぐらいであった。

 

 ナマノシンは当時を思い出しながら語る。

 

「部下が大変優秀でした、私は部下の提案を吟味して実行のプランを練るぐらいしか彼等に貢献できませんでした。ですので私は別のアプローチを試みる事にしました」

 

 Q「そのアプローチとは?」

 ナ「火星野菜の味と栄養です」

 

 火星野菜は不味い、それはナマノシンも初めて食べた時から懸念していた。農業プラントで作られている野菜は地球の土を使っているため味は問題ない、それゆえ火星ではプラント野菜が飛ぶように売れて値段が高騰し、最早懐に余裕のある軍上層部や一部の富豪層の人間にしか手の出せない高級食材と化していた。

 代わりに値段の安い火星野菜がよく売れるようになったのだが、前述したように大変不味いため不平不満が絶えなかった。

 

 また違う問題があった、栄養士ミリアムはこう語る。

 

「鉄分が多いため。鉄分過剰摂取による症状に悩まされる患者が増えてきたんです。更に地球よりも重力が低いためか、ヘモグロビン値の上昇と酸素の循環効率が良く、早い段階で第五期症状(肝硬変、脂肪肝)を引き起こす患者が多くなってきました」

 

 Q「ミリアムさん、鉄分の対策はどうなされたのでしょうか?」

 ミ「これ、今も課題の一つとなってるんです。一応茹でたり煮たり水を使った加熱調理を行えば鉄分の溶出を行えるので、今はそういう事しかできないんです」

 

 Q「加熱調理でどれだけの溶出を狙えますか?」

 ミ「約45%です」

 

 ミリアムはこの問題を兄であるナマノシンに提示した。しかしプラント管理者でしかない彼にもこれはどうする事もできない。また加熱調理、それも煮る茹でるしかできないのであれば出来上がる料理も固定化されて飽きが出てくる(実際既に飽きたとの声があった)。

 

「というわけで料理屋を開く事にしました」

 

 Q「今大事な所をすっ飛ばしましたね。もう少し詳しくお願いします」

 ナ「ミリアムとも相談したのですが、やはり栄養と味、両方を解決するには、今できるのは料理しかないと思ったんです」

 

 Q「成程、ですがそれですとコストが掛かって、一般の職員には手が出せなくなるのではないでしょうか」

 ナ「はい、ですので軍にスポンサーになって貰って支援金を求めました。それとSNSでクラウドファンディングも募って、値下げできるように務めました」

 

 実際にお店を開いたのは、ナマノシンが火星に来てから1年半の歳月が経ってからになった。

 

 Q「料理の技術は何処で身に着けたのでしょうか?」

 ナ「学生時代、ミリアムと一緒に定食屋で働いていた事があるので、その時に調理師免許を取得しました。また支援金の申請や転職手続きの許諾待ちの間に地球へ渡って勉強し直してきました」

 

 その勤勉な姿勢が現在の人気に繋がっているのだろう。

 開店直後から定食屋菜種の評価は悪くなく、口コミで徐々に広まり、今では地球からお客さんが来る程。

 チェーン展開も視野に入れているそうだ。

 

 Q「名残惜しいですが、そろそろ時間になってきました。今後の意気込みがあればお願いします」

 ナ「まだまだ未熟者ですが、これからも研鑽を積んで参りますのでどうかよろしくお願いします」

 ミ「定食屋菜種はアルバイトを募集しております。可愛い女の子かイケメンが来てくれると大変嬉しいです」

 ナ「おいっ……そうだ新しく活きのいい火星タコが手に入ったのですが、ダルキーストさんもこれから試食してみませんか?」

 ダ「いいんですか? 是非とも」

 

 ――――――――ED――――――――――

 

 掲げよ!


 砲をGuns! 砲をGuns! 砲をGuns! 砲をGuns!


 凍てつく宇宙そらに 灼熱の太陽風かぜ

 背に受けて旅立つ 

 Faraway――遥か星々の果て!


 胸に記す 銀と緑は

 愛と誇りを刻んだ故郷

 鋼の腕が 繋ぎとめるは

 永遠とわの祈りと明日の夢


 非道の敵を 撃てよ雷いかづち

 燃えるプラズマ 神の剣つるぎか


 立てよ いざ立て友よ 共に往かん

 光満ちたる闇を越え 前進せよ軌道Orbit砲兵中隊Gunners!



         ※「栄光の軌道砲兵中隊」 

          作曲 アイリーン・ミラー/ 作詞 ウィリアム・レイコック


 ――――――――――――――――――――

 

 テロップが下から上へと流れるモニターを眺めてクルベが呟く。

 

 「ダルキースト……試食とか羨ましい!! 何故俺を呼ばなかった!?」

 

 タカムラとの逢瀬を邪魔しないためというダルキーストなりの配慮なのだが、クルベはそれを知らない。

 

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