第29話 勇者パーティー


 サブ勇者としてうちの村にやってきたロボットのアルファ。

 ……うん。

 アルファを見るたびに、最初に村にやってきたときのことを思い出します。

 それは、シャロさんと一緒に博士にアルファをもらったときのことで、

 一緒に歩いて帰ってきて、プレイヤーさんに紹介しようとしたときです。


「プレイヤーさん、みてください! これがサブ勇者のアルファ君ですよ!ロボですよロボ!」

「えっ、どこにいるの?」

「あれ?」


 いままでついてきたはずのアルファが、どこかに居なくなっていました。


「あ、あるふぁー? どこいったのー?」


 いろいろ探してみると、アイテム倉庫に入り込んでいました。

 うん、あれは驚きました。

 倉庫を開けたら身動きひとつ取らずに居るんだもの。しかも


「使用シテ下サイ」

「えっ」

「使用シテ下サイ」


 すっかりアイテムになりきってて、まぁ、プレイヤーさんに「使用」してもらってようやく出てきました。

 うーん、やっぱり分からない。ロボットだからでしょうか。プレイヤーさん的にはシステム的だなって言ってましたけど。



 そんなアルファですが、今では私の後ろをとことこ……いや、がしょんがしょんとついてくる、ペット? みたいな存在です。

 今日は闘技場に連れて行こうと思います。


「さて、それじゃ闘技場いきますよー」

「了解――。ピッ」


 アルファは私の後ろをついてきます。

 二人での進軍というのも初めてなもので、アルファに足を合わせていったら少し遅くなってしまいました。具体的には速度がマイナス1された分くらいの速さです。


「……うーん、一応性能的には私と同じくらいの速度があるはずなんですけどねー」


 そういう決まり? らしいので、プレイヤーさんは納得済みらしいですが、私にはさっぱりです。

 私はアルファをつれて闘技場の受付へ向かいました。

 その途中でシャロさんとも合流します。


「あら。そのロボット……アルファだったかしら」

「はいっ! 今日から一緒に闘技場通いですよー」

「ピッ――ガガッ、コンニチワ」

「……おやつは食べないわよね」


 たぶん食べないと思います、というか、何を食べるんでしょうコレ。



 で、闘技場です。もうすでに1対1では敵は居ないって感じですね。


「みこみこアッパァーーッ!」


 アッパーひとつでドラゴンを闘技場の壁にびたーんと張り付くほどにふっ飛ばします。

 ふふ、自分の強さが怖いですよ。


「ミコミコ・あっぱー」

「わっ、ちょっ、アルファっ危ないからやめなさいっ」


 ん? と、観客席を見ると、そこではシャロさんとアルファがじゃれていました。


「いやいやっ、ジャレるってほどかわいいもんじゃないわよっ!? ちゃんとみこみこアッパーよこれっ」

「えっ? そうなんですか?」

「学習中デス」


 なるほど、私の戦いを見て勉強しているというわけですね。


「ミコミコ・あっぱー」


 反芻するようにアッパーを繰り出すアルファ。

 うんうん、キレは甘いですが、フォームは確かにみこみこアッパーです。


「ああもう、パネちゃんっなんとかしてっ」

「それでこそ勇者ですアルファ! 私の戦いを見てしっかり学んで強くなるといいですよ!」

「ミコミコ・あっぱー!」


 アルファが勢い良く腕を振り上げました。


「ああっ! オヤツのはいったバスケットがー!?」


 アルファのアッパーに当たってバスケットが宙を舞い、がしゃんっと割れ物の割れる音とかして着地しました。


「うう……ティーセットが粉々……オヤツもぐしゃぐしゃ……」

「すすす、すみません! アルファも謝ってっ」

「ゴメンナサイ」


 がしゅーん、と頭を下げるアルファ。


「……い、いいのよ、ええ……ただ、その。オヤツが……」


 バスケットの中身を見ると、推定イチゴのショートケーキだったものが270度ひっくり返ってぐちゃぐちゃになっていました。さらに、お茶を入れたポットやティーカップが割れてしまっています。


「す、すみませんっ! ティーセットも新しいの買いますっ」

「それはまぁ、うん。もともとこれパネちゃんの所から借りてたものだからいいんだけど……自信作だったのに。ケーキ」

「でっ、でもほら、多少崩れてても食べられますって!」

「それはその、そうなんだけど……お茶は壊滅だから飲み物がないわ」

「飲まなくても大丈夫です! いただきますっ」


 私はかなり崩れてるケーキをわしっとつかんで、もぐっと食べました。


「んむ、崩れててもおいしいですね、シャロさんのケーキ。もぐもぐ」


 指に残ったクリームもぺろっと舐め取っちゃいます。


「お、お行儀悪いわよ?」

「大丈夫ですよー。ほかに誰が見てるとか言うわけでもないですし。ほら、シャロさんもあーん」


 私はシャロさんの分のケーキをつかんで差し出してみます。


「えっ、そ、その、えーっと……もう……しかたないわね」


 シャロさんも、はむっとケーキを食べます。 少し恥ずかしいのか、顔を赤くしています。


「味は変わんないですよー」

「……ん、まぁ、そうね」


 っと、また手にクリームが。もったいないのでこれも舐めちゃいましょう。あ、でも


「これってシャロさんの分のケーキのだし、シャロさん舐めます?」

「ふぇっ!?」


 あ、さすがにそれはお行儀悪すぎましたか。


「ピッ、覚エタ! けーきハ、アーンシテ食ベルモノ! 指ニツイタくりーむハ舐メルモノ!」

「いや、それは違いますから。指についたクリームは本当はこーして拭き取るんですよ、アルファ」


 と、クリームを布巾で拭き取ってみせます。


「プシュー……」


 アルファは少し残念そうに排気しました。


「……むぅ」

「あれ、どうかしましたか?」

「なんでもないわ」


 なぜかシャロさんも少し残念そうな顔をしていました。


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