第6話 闘技場通い・2
勇者っていうのは常に自分を鍛えていなければいけません。
なので私たちは闘技場に通います。
もちろん、勇者は私だけじゃないので他の勇者さんと闘技場で会う事だってあります。
ただし闘技場はそこかしこにあるのでその機会がある人のほうが少ないでしょう。
あ、シャロさんは除きますよ。シャロさんは観客としてきてるので。
そして私は今日初めてシャロさん以外の他の勇者さんと会いました。
といっても知り合いのサクさんです。
「あれ? サクさんじゃないですか」
「む……パネェ殿か」
「パネ子でいいですよ。奇遇ですね~、サクさんもここの闘技場使ってたんですか?」
「いや、今まで同じ距離にある別の闘技場に通っていたのだが……
そうか、フェンが今日からこっちに、といったのはそういうことか」
どうやらプレイヤー同士でなにやら話し合いがあったようですね。
実は、勇者同士が闘技場にいる場合、通常の5試合に加えて勇者同士で戦うことができるのです。
もちろんその分だけ経験値は多くなり、早くレベルアップしていくという寸法です。
「ふふー、実は私、前回の闘技場の経験値でLv3になりましたからね、負けませんよ!」
「うむ……Lvなら俺もLv3だ」
うん、これは負けるかもしれません。
だって、私がLv3にあがったときにもらったボーナスP20ポイント、プレイヤーさんってば宣言どおりに全部回復力に振っちゃったんですもの。戦闘力はLv2のときのままということです。
それにサクさんのこの余裕、きっとフェンさんにかなり戦闘力を高くしてもらったに違いありません。
「……ま、負けませんからっ!」
「とりあえずはモンスター戦だな……」
「あ、そうですね。えーっと、最初の相手は……ゴブリンです」
Lv1の時にお世話になった雑魚モンスターです。
むぅ、経験値は少なめですよー。つまんないのー。
「俺の相手はドラゴンだな」
ふむ、手ごろでそれなりに強い相手ですね。これは戦闘力がどんなものか見るチャンスです!
「見ててもいいですか?」
「無論だ。ここは闘技場だからな」
よしっ、これでサクさんとの少し試合を有利に運べるかもしれませんね!
……なんて、ふふふ、なんか今の私、策士っぽいです。
「じゃ、先に試合してきますね!」
そうときまれば、さっさとゴブリンを倒してしまいましょう!
私が一撃でゴブリンを倒すと、いつものようにシャロさんがぱちぱち、と拍手で迎えてくれました。
「Lv3ともなると、もうゴブリン程度じゃ相手にならないって感じね」
「えへへ、まぁ、実際そうですねー♪」
「……ところでパネちゃん。今日、闘技場の入り口で男の人と話してたわね……あれは誰?」
あ、そっか。シャロさんはサクさんのこと知りませんもんね。
「あれはこの間うちの村を襲撃してきたとこの勇者さんで、サクさんっていうんですよー」
「しゅ、襲撃!? パネちゃん大丈夫だった? 怪我はない?」
「あ、はい。闘技場いってたので。資源はとられちゃいましたけど」
ぶわっと、なにやら黒いオーラがシャロさんからあふれてきました。
「パネちゃんのためにせっかく集めた資源を横取り……ということは敵なのね。敵……ふふ、それならちょうど試したい術があるの。藁で作った人形に相手の髪の毛を入れて……」
「だ、大丈夫ですよ! 今はもう解決してますしっ」
「あら、そう……残念」
い、いったいどんな術をかけるつもりだったのでしょうか……
「さて、それじゃ今日もお茶に――」
「あ、そういえばそろそろサクさんの試合です。相手はドラゴンって言ってましたね」
私は観客席からサクさんを探します。すでに闘技場の中央でドラゴンと対峙していました。
丁度開始の合図が出されたところです。
そして、開始と同時にサクさんはドラゴンに接近し、手に持ったナイフですばやく切り刻んでいきます。
ドラゴンはあっというまに傷だらけになり、なんとか反撃するもサクさんにはさっぱり効いていない様子。
あっ、噛み付きにカウンターして右目を突きました! そして、死角へと回り込み――
あぶなげなく、ドラゴンを倒してしまいました。
「ううっ、こ、これは……かっこよくて強い、ですっ」
そして、観客席から見ているこちらを確認し、次はお前の番だとばかりに睨んできました。
こ、こわいっ、怖いですよー!?
「次はサクさんと戦うのかぁ。ど、ドキドキする……」
「へぇ、そう……ドキドキしちゃうんだ」
あれ? シャロさんってばなんか怒ってます?
「私とのティータイムより、あの男のカッコいい戦いを見てる方がいいわよね」
「あ、す、すいません!お茶にしましょう! 今日のおやつはなにかなー、楽しみだなー♪」
「私なんかに気を使わなくてもいいのに……」
といいながらも、どこか寂しそうな顔をするシャロさん。
「いえ!私は心からシャロさんとのティータイムを楽しみに闘技場にきてるので! むしろこれがメインです!」
正直、経験値とかよりおやつのほうが大事ですよね、うん。
「そう……うれしいわ」
くす、とシャロさんが微笑みます。
よかった、いつものシャロさんです。
「今日のお茶請けはチョコチップクッキーよ。前にパネちゃんチョコレートが好きだっていってたから特別に分けてもらったの」
「わーい、シャロさんの手作りクッキーにチョコレートがあわさり最強に見えます♪」
私は早速クッキーを一枚つまみ、口に運びました。
「なかなか美味そうだな」
「わわっ、サクさん!?」
び、びっくりするので音もなく後ろに来るのはやめていただきたいです!
「……私たちに何か用かしら? 今、お茶してるの。邪魔しないで」
「邪魔をするつもりはない。少しパネ子殿に挨拶しにきただけだ」
「ならもう用は済んだわね。さっさとどこかへ行きなさい」
な、なんか空気が険悪ですよ?
「あ、さ、サクさんもクッキー食べますか? シャロさんのクッキーはおいしいんですよー」
「ほう。そちらはシャロ殿というのか……ん?出場者にそのような名前はあっただろうか……」
シャロさんは無言でサクさんを睨み付けます。
睨まれて、サクさんも眉間に力を入れ睨み返し……なんか火花が散っていそうです。
な、何でこんなことになっているんでしょう?
「あ、えーっと! とりあえずクッキー食べますか?!」
「この男の分はないわ」
「……失礼する」
サクさんは去っていきました。
……な、なんか怖かったです。
「パネ子ちゃん。お茶にしましょう」
「は、はい」
今日のお茶は、いつもより少し苦い気がしました。
「あ、そういえばプレイヤーさんから本を読めって渡されたんですけど。サクさんちの参考にって」
「あら。どんな本?薄いわね。本というより冊子? こんな本、見たこと無いわ。
……弱点が書いてあるのかもしれないわね。ちょっと読んでみましょうか」
***
「あなたのこと、誤解してたわ。私」
「な、何のことだ?」
あの本には、こう、なんというか、男の人と男の人の切なくて歯がゆい恋愛物語が描かれていました。
なんでこんな本もってるんでしょうか? プレイヤーさんって……何者?
あ、サクさんには負けましたよ。
いやいや、あんな本見た後でサクさんのこと直視できるわけ無いじゃないですか? ねぇ。
「気にしないで。まぁ、今後は男は男同士で仲良くしててね……?」
「だから、何のことなんだ?」
「うん、気にしないで。あなたが敵じゃないって分かっただけだから」
ハマっちゃったんでしょうか? シャロさん。不安です。
まぁ、確かにきれいでピュアな見たこと無い世界でしたけれど。
……ああいう関係なんですかね? サクさんとフェンさん。
いやいや、この本はあくまでも参考であって、真実はまるで違う可能性が……
そんなこんなで混乱したせいか、この日の闘技場の結果は悲惨なものでした。
……これはプレイヤーさんのせいだと思うので、しかられても聞き流しましょう。
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